「あェ!?な、へァ!!?」
頓狂な声を上げた駁螺の顔に、大雨がザァと降り注ぐ。
思わずし乃雪にしがみつけば、しかし彼は其の異変に驚く姿を見せず、くつくつと笑い始め。
「なん……何だ、何だァ!!?」
何が起こったのか微塵も分からぬまま、駁螺は籠の外へと転がり出。
泥まみれの顔にて見れば、見る見る内に青褪めた。
前を担ぐ籠屋の身が、燃えている。
其れはあっという間に姿を変え、大雨を蒸気に変えながら、燃える身を持つ二足の獅子となった。
後ろを担ぐ籠屋は霜に覆われた。
ビシビシビシと雨を氷の粒に変え、パァンと弾けた其処に居るは、角を持つ三眼の人魚だ。
何時から妖にすり替わったのであろう。其れ等はあっと言う間に駁螺を取り囲み、ゲッゲッゲッ、クスクスククク……と笑い、弄ぶかの如く。
「おい、何だよ!鵺の手先かよ!!?」
「違うよ」
腰を抜かした駁螺の前に、手足を縛った筈のし乃雪が、雨に濡れて立つ。
肌に貼り付く銀の髪、其の奥にあるは、夜叉の形相。
見下ろした血の如き鮮やかな瞳に、すぅ…と夕日の光が流れ、駁螺の肝を穿った。
「ぎゃひ……!!なっななななな」
「のぉ、駁螺。
あの"箱"の中身が何者か、知り得ておるかえ?」
「はあァ!?」
「語ってくれたよ、あの"中身"が。
お前、西の山中にて、あの者が遊んでおる所を毒の吹き矢にて射止めたそうじゃあ無いか」
「あああ!!?そ、そうだろうがよ!!
生きた鵺の子供なんか見世物に出来たら暮露(ぼろ)儲けだろうが!!」
這いずり立ち上がる駁螺の周囲を、其れ以上主に近付けさせまいと、二体の異形が立ちはだかる。
しかし駁螺も窮鼠。啖呵を切るが如く、唾を吐き濁声を張る。
「そうだよォ!!そうしたらコロッと死んじまって、もう一匹は逃しちまった!!
死んだ鵺の子は直ぐに干乾びちまったから!!頭ァ剃って甲羅貼っつけて、仕方無ェ河童の木乃伊にしたんじゃねェか!!
こちとら商売なんだよォ!!
オメーも、このバケモン達も!!
命賭けて捕まえて飾る覚悟なんだよォォ!!」
「命賭けて、ねぇ?」
緋色の輝きが、す、と細められ。
大雨の音の中、彼の低く落ち着いた声が、不思議に地を這う。
ぞ、と身に走った冷たいもの。駁螺の啖呵は其処で途切れ、恐らくようやっと自身の立場を察したのであろう。……し乃雪がふと見遣った方向へと目を向け、そして。
駁螺は、凍りついた。
「……命、賭ける……と、さ。
さて、如何なさるかえ?」
其の視線の先に、一人の姿がある。
人形の様に真っ直ぐ切られた髪、濡れても汚れてもいない真っ白な狩衣。
男とも女とも、大人とも子供とも付かぬ、人形の様に整った顔の、人。
しかし、其の眼にて、駁螺は其れを察した。
駁螺を射る其の瞳……闇色の眼に金の瞳孔が、キュルと縦に裂けたのである。
