アヤカシ太夫♂とイロオトコ

 
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 気付けば、世はとっぷりと丑三つ時。
 逢瀬を楽しむ男共より早く外へと出た源三郎、しかし振り向いた直ぐ傍に、つい先まで憧れていたあの"女"が居る。


「風が、心地良いのぉ」

 そう漏らしたし乃雪に、しかし源三郎は僅か眉をしかめつつ返す。

「少し生温い。何かが化けて出て来そうだ」
(うつつ)と向こうは紙一重……故に面白いのじゃ」
「詰まり、何だ?」

 何気無く問うた源三郎の頬を、し乃雪の指がするり艶めかしく撫で通り。

「"お前さんが一番分かっておる"筈。……のぉ、色男?」

 其の指が、妙に擽ったい。
 疑問に目を細める源三郎であったが、やがて同じ所をねっとりとした風が撫で抜けた。
 其の総てがまるで違う世の如く、源三郎の粟立った肌は僅かな違和感を覚え、笑みにて紛れ。

「やめてくれ、分からぬものは分からぬて」
「そうかえ?なれば共に分かち分かろうぞ。
 又来ておくれ、次はもっと話そう。お前さんは面白い良い男じゃ」

 にこと笑んだ其の顔が、漸く本当の彼の様に思えた。
 少年と青年の間に立つ様な、青く爽やかな色を湛えた笑み。
 真に頼られているのだと、この時源三郎はやっと底より思え、

「……しょうがねぇな、付き合うてやるか」

 と、片眉上げて笑った。


 片手を振りつつ、少し嬉しそうにゆっくり去り行く色男。
 小さくなり行く背を淋し気に見詰める、色無き陰間の妖太夫。

 其の二人の合間を舞うは、桜の花弁達と一枚の烏の羽根。

 源三郎とし乃雪の数奇な出会い……其れが偶然かはたまた運命か、この時の二人は知る由も無い。

 こうして出来た腐れ縁は、果たしてこの物語に吉と出るか凶と出るか。
 其の数奇な舞物語を、さぁさぁとくと御覧あれ。