* * * * * * * * * *
気付けば、世はとっぷりと丑三つ時。
逢瀬を楽しむ男共より早く外へと出た源三郎、しかし振り向いた直ぐ傍に、つい先まで憧れていたあの"女"が居る。
「風が、心地良いのぉ」
そう漏らしたし乃雪に、しかし源三郎は僅か眉をしかめつつ返す。
「少し生温い。何かが化けて出て来そうだ」
「現と向こうは紙一重……故に面白いのじゃ」
「詰まり、何だ?」
何気無く問うた源三郎の頬を、し乃雪の指がするり艶めかしく撫で通り。
「"お前さんが一番分かっておる"筈。……のぉ、色男?」
其の指が、妙に擽ったい。
疑問に目を細める源三郎であったが、やがて同じ所をねっとりとした風が撫で抜けた。
其の総てがまるで違う世の如く、源三郎の粟立った肌は僅かな違和感を覚え、笑みにて紛れ。
「やめてくれ、分からぬものは分からぬて」
「そうかえ?なれば共に分かち分かろうぞ。
又来ておくれ、次はもっと話そう。お前さんは面白い良い男じゃ」
にこと笑んだ其の顔が、漸く本当の彼の様に思えた。
少年と青年の間に立つ様な、青く爽やかな色を湛えた笑み。
真に頼られているのだと、この時源三郎はやっと底より思え、
「……しょうがねぇな、付き合うてやるか」
と、片眉上げて笑った。
片手を振りつつ、少し嬉しそうにゆっくり去り行く色男。
小さくなり行く背を淋し気に見詰める、色無き陰間の妖太夫。
其の二人の合間を舞うは、桜の花弁達と一枚の烏の羽根。
源三郎とし乃雪の数奇な出会い……其れが偶然かはたまた運命か、この時の二人は知る由も無い。
こうして出来た腐れ縁は、果たしてこの物語に吉と出るか凶と出るか。
其の数奇な舞物語を、さぁさぁとくと御覧あれ。
