「……怪しいな、あの男よ」
源三郎が、腕を組み独り言ちる。
「絶対、何かを隠していやがる。このままでは雨続きで更に死人が出るぞ。
そもそも、止める方法があるなればさっさとやれば良いものを」
「やりたくない、のであろうて」
ぽつり返された声に、源三郎が振り向く。
見れば、火のついた煙管をくゆらせ、ふぅと紫煙を吐く遊女の如き顔がある。
「やりたくない?」
「商売道具を手放す事となる。
故に、と、俺に"新たな商売道具になれ"と言うて来た、と言う所か」
「……未だ、見得ぬが」
「察し遣れ、朴念仁」
ちかり、し乃雪の眼のみが源三郎へと向く。
「あの木乃伊、妖じゃ。其れも未だ死んでおらぬ」
「……はぁ?」
頓狂な声に、雷の唸りが重なる。自分の声が雷様に聞こえたか…びくびくと身を震わせ、少し小声となる源三郎。
「妖…妖怪変化等、存在し得ぬだろうよ?お前は信じておるのか、」
「お前さん、良くもぬけぬけと宣えるのぉ?赤猫をも見たであろうて」
「あれは絡繰であろう?」
「……クク……そうかえ、そうかえ。
あの木乃伊が何の妖かは皆目検討も付かぬが、小さな小さな声で助けを求めておった。
空に居るは、はてさて何の妖か……」
「本当に居ると言うのならよ。 ……鵺、じゃあ無えのかい?」
"ゴロゴロゴロゴロ……"
「ほぉ?鵺は信じるのかえ?」
「神社がある程名のある物の怪だ。信じる信じないはともかく、名は知っているさ」
「ふぅん……先にあの見世物小屋に居った時、空に黒いものが横切ったな…あれやも知れぬの」
「……真に居るのか……しかし、何故に其の鵺どんはあの木乃伊を追うのやら」
「人も同じじゃ。愛する者の為なれば、例え其れが髑髏であろうと取り返しに来る。
聞いた事があるかえ?昔々、酒呑童子と言う鬼が首を跳ねられたが、其の首を茨木童子と言う鬼が取り返しに来た言う話を」
「其れは酒吞童子の首じゃあ無え、自分の腕だろう?」
「其れとは別じゃ、知らぬかえ?首を首塚大明神へ祀った者が、茨木童子であったのじゃぞ?」
「聞いた事ァ無えがなぁ……。
まぁ、其れは良いけれどよ。詰まり、」
"ヒュウゥゥ……ガタガタガタ"
「……つッ 詰まり、だ。
駁螺は妖の住処に入り、あの木乃伊を"見世物に出来る"と持ち帰った所、主である鵺どんがあの木乃伊を追いかけて来た、と」
「もう少し酷いやも知れぬぞ?道具の中に吹き矢があった。
……しかし。考えられるは、そんな所かの……」
ふぅ……。
宙に吹いた紫煙はゆるりと弧を描き、しかし何処かしらより鳴動し舞う風によりふわり掻き消された。
其の様を眺めつつ、しかし良い加減身が冷えたらしい源三郎。羽織っていた襦袢をぐいと手繰り、胸元を仕舞う。
