アヤカシ太夫♂とイロオトコ

 
 

 縁日を満喫した二人、並んで帰路へ着いたのは其れより二刻程後の事。
 今宵も自宅へは帰らぬらしい源三郎、そう言えば此処最近は随分自分の傍に居る時間が長い。
 し乃雪自身は特に嫌な気はせぬ…が。


「随分此処に入り浸るのぉ、源の字?」

 そんなに俺の傍が好きかえ?冗談でそう言えば、酒が入りほろ酔い気分の源三郎はゆるり笑いつつ。

「明日は帰るぜ、」
「今宵は居るのかえ?」
「家に居たって何も無えからよ」

 そう言い、しかし黒町屋の玄関を潜った辺り、ふと笑顔が消える。
 ……何やら、少し皆の様子がおかしい。何かに怯えつつもこそこそと噂を交える景色が、二人には酷く異様に映る。

「嗚呼、し乃雪?お兄さんも、」

 俺達の噂か?訝しむ二人を見付け、そろそろと駆け寄る一人の女。
 し乃雪に負けず美しい其の女、そう言えば源三郎は知っている。黒町屋で一番の"花魁"、眞鶴と言う女だ。
 別嬪二人、向かい合う其の姿に夢見心地で見惚れながら、しかし皆表情は固い。

眞鶴(まつる)姉さん、」
「嗚呼、無事で良かった。隣町で五人死んだと聞かされてさ」
「五人も?殺しかえ、」
「いいや。其れが、どうやら雷様に当たったらしいのさ」
「雷様?」

 し乃雪と源三郎、一瞬顔を合わせた。
 無理も無い、今宵は雲一つ見当たらぬ美しき星空であった……。
 雷が起こる様子は微塵も感じられぬし、そもそも隣町にて其の様な事があれば雷鳴が聞こえた筈である。
 が、稲光は愚か、音も、風も、雨のにおいも皆無であったのに。

「何時さ、」
「夕頃らしいけれど。でも、其れがおかしい話でねぇ……
 雲なんか見当たらないのに、突然煙る様に掻き曇り、瞬く間に大雨と青白い雷を起こしたそうなのさ」

 其れにしても、嗚呼、無事で良かったよ。嬉しそうにし乃雪の背を撫でる眞鶴を余所に、し乃雪は源三郎を見遣った。
 俄かに信じられぬ、と言った様の源三郎。対し、鳶色の眼に映ったし乃雪の紅い其れは妖しげな光を湛えている。

「……何だよ、其の目は?」

 嫌な予感にて呟けば、すいとそっぽを向いた彼は独り言の如く。

「否、何も?別に、今から調べに行き遣れ等とも思うておらぬわ」
「嗚呼、言われたとて無理だぞ。こう眠くては行き倒れちまう」

 …チッ、と小さく聞こえた舌打ち。
 大きな溜息にて耳を塞いだ源三郎の横顔に、少々恨めしそうなし乃雪の視線が暫くの間突き刺さり続けた。