アヤカシ太夫♂とイロオトコ

 
 
 蛇の体に女の頭、皿と甲羅を持つ猿、魚の尾を持つ女……古ぼけつつもおどろおどろしい絵が、壁板に描かれている。
 大きな入口と出口よりひっきりなしに客が往来し、古く甘い不思議なかおりと共に、入り口上方の台に座る背の小さな男がつらつらと語る口上が辺りを包み込んでいる。


 はいはい
 坊ちゃんからお爺ちゃん、
 お嬢ちゃんからお婆ちゃんまで
 さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい

 お代は見てからで結構だよ
 さあさあさあさあ入った入った
 異形はびこるあやかし絵巻、間も無く始まるよ……


 この喧噪の中、如何にしてこの声を見付けたのだろう。
 目を輝かせるし乃雪の側で、源三郎が少々怪訝な顔にて漏らす。

「入らずとも良いじゃねえか、化け物ならばこの前襖の幽霊を見ただろうに。
 其れに、お前だって」
「何だと?」
「お前だって化け物を飼っていやがるじゃねえか、と言いたかったんだよ」
「違うな、」
「何がだよ、」

 くるり、源三郎の方へ向き直ったし乃雪。
 沢山の提灯の光を背に、其れこそこの世ならざる妖艶な笑顔を湛え。

「腹の内に嘘を仕込み披露する、彼奴等の愚かさが面白いのさ。
 源三郎よ、お前さんは嫌いかえ?」
「、」
「"嘘"を直に視る事が、さ」
「この俺に怖えモン等あると思うかい?」
「嘘じゃの、」
「何だと?」
「"俺"が怖い、のであろうて?のぉ?」

 尻尾を無くし丸っこくなった鳳凰に、し乃雪はちゅるり舌を這わせ。

「此処で待っておっても詰まらぬよ?さあ、行こうぞ」

 袖をくいと引っ張れば、源三郎のへの字の口が少しだけ、呆れた様に笑った。



 相変わらず口上を続ける小さな男の側を、通る。
 ……其の一瞬だけ口上が途切れたが、彼等は特に気にする事無いまま、中へ吸い込まれる様に入口を潜った。

 薄暗く、少しかび臭い。
 息の詰まる様な狭さ、しかし其れが心地良くし乃雪には感じる。

 奥へと続く小道の側を、異形の剥製や木乃伊(ミイラ)が所狭しと並べられ、此方をじっと見詰めている。
 外の喧噪から少し遠退いた、まるで異世界……僅かに目眩を感じたし乃雪、握っていた筈の袖を何時の間にやら手離していたらしい。

「雪、何処だ」

 大分手前の方より声が聞こえ、「此処じゃ。遅いぞ、」と返す。

 と。
 ふと、……周囲を囲む死んだ眼とは少し違う視線を感じ、し乃雪は顔を向けた。

 右方。
 並ぶ剥製の列の中、"河童"と書かれた札の後ろ。
 前方の木板を外された箱の中に、小さく身を屈ませ詰められた、剥製。 
 どうやら、これが"河童の木乃伊"なのであろう。

 先程外壁に書かれていたものに似、猿の様な毛と顔に額を剃られ、背に亀の甲羅を背負わされた、一見すると酷く粗末な作りの木乃伊。
 ……しかし、其の"皮膚"だけは、まるで今も生きているかの如く、ぬらり……と艶めいているのである。