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縁日のにおいは夜の方が芳しい。
陽が沈み提灯の揺らめきが柔らかく人波を照らす其の様を、先程落ち合った源三郎の手を引きつつ、し乃雪は笑顔にて味わう。
…しかし、少しばかり気まずい心持ち。理由は、源三郎の膨れ面だ。
「……全く、驚いたのはこっちの方だ」
不機嫌に漏らす源三郎だが、今宵の直会には出ぬつもりらしい。
「お前さんのお守りの方が大事だからな」と言う一言が、其の怒りが本物では無いと言う事を表してはいれども。
「故に、済まぬと言うておろうて?ちょっと唇が触れた位じゃあ無いかえ、」
「何処がちょっと、だ!そう言う事は俺じゃあ無く客にやれってんだ!!」
「ほら、口直しに飴細工を食おうぞ?あすこの飴は綺麗でのぉ、」
「要らねえよ、」
「……ねぇ、源さん?機嫌を直しておくれ?ねえってば、」
「おい、泣き真似は卑怯だぞ!……嗚呼分かった、分かったから!」
外見が美しいとはどれ程得なのか。泣きすがる真似をするし乃雪を振り払おうとすれば、周囲より集中する冷たい視線の雨。
ほとほと困り果てし乃雪をなだめ始める彼に、し乃雪はぺろりと舌を見せる。
「……覚えてやがれよ、狐太夫め」
「覚えておれば何をくれるかの?」
「……全く、お前って奴は……!」
人の不幸は我の幸。少女の様な笑みを見せながら、し乃雪は思い立って飴屋へと駆ける。
毎年世話になる、馴染みの飴屋だ。
二言三言言葉を交わし、鳳凰の飴と龍の飴を買い、戻るなり源三郎へ龍の飴をそっと差し出した。
「詫びのつもりか、」
「否、お前さんに食わせて見たかった故にの。旨いぜ、」
言いつつ、し乃雪は鳳凰の尻尾を躊躇無く口に含む。
薄く伸ばされた其れはやんわりと口の中で溶けていき、柔らかな甘みと僅かな香ばしさが広がる。
「……んふ…美味し」
ふわり浮かんだ笑顔。
少女か、大人の女か…持ち寄った土産を口にした時にいつも見せる表情だ。
ふと見れば、源三郎がぼぅっと自分を見ている。
「如何したえ?」と声掛ければ、はっと我に返った源三郎は慌てて龍の頭にかじり付く。
……頬が、少しだけ赤い。
し乃雪には其れが面白く、脇腹を軽くつついた。
と。
ふと、し乃雪は宵の宙をぐるり見回した。
提灯の列をなぞる様で、しかし違う。
其の様をふと異質に感じた様子の源三郎、先の怒りを忘れた様に声掛ける。
「如何した、」
「……今年は来たかえ、」
「何が、」
「源、聞こえぬかえ?」
「だから、何が」
「ほれ……ほれ、見世物小屋の口上じゃ」
あちこち見回すし乃雪の眼には獲物を狙う其れが宿り、やがてぱっと歩き出す。
袖を引かれた源三郎もよろけながら引かれ行き、辿り着いたのは大きな小屋であった。
