其の日、し乃雪は起きてからずっとそわそわと落ち着きが無い。
まるでばったの如く布団より飛び出し、さっさと身支度を済ませた彼は、源三郎が酒残った薄ら眼にてゆるり起きた時には既に彼の枕元に正座していた。
「……幾ら何でも早過ぎるぞ、」
事情を知れども、起き掛けで掠れた声には呆れ色。
其れに、し乃雪は何食わぬ顔にてしれっと返す。
「何がじゃ、」
「まるで子供の様だ、そんなに祭りが楽しみか?」
「別に楽しみでは無いわえ」
「嘘つけ!昨日からもう落ち着かなかったじゃ無えか、」
寝間着を脱ぎながら言えば、し乃雪はほんのりとだけ頬を赤く染め、「悪いか、」と強がりを零した。
今日より三日間、吉原近くの神社にて祭りが行われる。
この界隈、初夏にあるこの祭り、そして秋にある遊廓内の社にある祭りには、普段は見ぬ女や子供も含めて賑わう。
娯楽の少ない遊女達も楽しみに心踊らせる時期ではあれど、彼女達は遊廓の外に出る事は適わない。
「なればお前は如何なんだ?」
そわそわと落ち着きの無いし乃雪に源三郎が訊いた所、酷く簡潔な返答にて彼は納得した。
「俺は遊女では無い故にな」
「嗚呼、……」
そうであった。
其の容(かんばせ)の美しさ故に、又忘れかけていた源三郎。
途端、尚落ち着かぬし乃雪の姿が少年の其れに見得、源三郎は笑いながら零す。
「昔の俺もそうだったなぁ、」
「何が」
「祭りとなりゃあ真っ先に縁日へ突っ込んで行ったものよ。
あれは如何してああも心躍るモンなんだろうな?」
「神社とは神なる場、神々が民の心を沸き立たせる節もあるのやも知れぬな……
……しかし、お前さんは今は違うのかえ?」
「昔程じゃぁ無くなったな……俺も歳を取ったのかねぇ、」
何気無くそう口にした源三郎であったが、其れを聞きそっぽを向いてしまったし乃雪の心中を察し、ぺしんと額を叩いた。
初夏の、暖かな日差し。
今日は青空が広がり、雨降る気配は微塵も感じさせない。
源三郎とは吉原の前にて別れ、今はし乃雪独り。
あの男、この祭りには毎年何らかの形で参加しているらしく、今日は特に外せないのだと言う。
からっとした空気の中、そう言えば既に遠く神社の方より喧噪が聞こえる。
すれ違う人の多さも相まって、し乃雪の顔は知らずの内に微笑みを浮かべた。
偶には、と町娘の姿に着替え、足早に神社へ向かう。
日光に照らされた道が酷く眩しいが、祭りの高揚感に比べれば余りに些細。
何時もは余り人が訪れぬ其の神社へ辿り着けば、昼下がりだと言うに既に人の海となり、活気が心地良く取り巻いている。
祭りとは何と華やかで美しきものよ……にこにこと笑みを浮かべるし乃雪、酷く心を躍らせながらも一つ目の大鳥居の隅を潜る。
