「……しかし、お前は面白い野郎だな」
皮肉か本音か、自身でも分からぬ其の言葉に、し乃雪は只ふわりと微笑んだ。
紛う事無く、其の笑みは恋う男へと向ける女の笑みで、しかし源三郎は思わず顔を背けてしまった。
し乃雪が恋うは俺ならず、彼の身の回りにて起こる怪異の方。
目を向けられた自分はよもや其の一部か……其処にぞくりと恐怖を感じた故である。
「まっこと恐ろしきは妖にあらず、な……」
「何か言うたか源、」
「さてね、」
この太夫との付き合いは、一体何時まで続くのやら……。
小さく溜息を漏らし、しかし飽きの来ないこの男に興味を抱いている己が居る事も又事実。
─── 一度(男と知らず)惚れた奴だ……
「仕方無ぇ。とことん付き合うてやるか、」
「付き合う気があるなればほれ、早う」
「……」
─── ……この野郎。
其の一言を着流しの中にそっと隠し、源三郎が漸く立ち上がった時、し乃雪の顔が玩具を貰った子供の様にぱっと華咲いたのは言うまでも無い。
襖幽霊 完
