翌朝。
「……の幽霊はな……ずぅっとあの男を……」
遠く微睡みの向こう側より、心地の良い男の声。
嗚呼、何と良い子守歌……思い掛けるも、しかし幽霊が如何のと言う言葉にてぞっと鳥肌が全身を襲い、暗い目前をヒュルと白いものが横切り。
思わず瞼を開いた時、其の目と鼻の先に……真っ白な、幽霊。
「うわあァ!!」
悲鳴と共に飛び起きた源三郎の頭が、目前の其れとゴツンとぶつかり、星が散った。
堪らず額を押さえ布団へ転がる源三郎、同じく痛そうに頭をさするは、漸く見慣れてきたし乃雪だ。
「……何じゃ源の字、跳び起きるなよ!」
「おッお前が悪いんだろう!耳元で幽霊が如何のと、」
「聞きたいと申しておった故、話しておったまでじゃ。如何じゃ、幽霊の夢を見られたかえ?」
「お前は!全く……、」
溜息と共に、そう言えば外が酷く騒がしい。
昨日に似た既視感を覚えし乃雪を見れば、もう何時もの振り袖姿となった彼はふわり笑む。
……差し込んでくる朝日を浴び、妙に眩しく見えたのは気の所為に有らず。
「気になるかえ、」
「又誰かが?」
「"誰"、か…… まあ、其の前に先の襖幽霊の話をゆうるり聞いてからにしようぞ。
お前さんが寝ておる最中に総て話し終えてしもうたが、聞いてはおらなかったであろうて?」
「……この頃思うが、お前さんは意地が悪いな」
「真の意地悪は起き掛けの茶等出さぬよ」
随分用意が良い。既に準備されていた茶を急須より湯呑みに注ぎ、すと源三郎へと差し出すし乃雪。
眉間の皴は其のままに一口其れを含めば、嬉しそうに見詰めていたし乃雪は歌を紡ぐ様にゆっくりと語り出す。
「先のシミは、鈴、と言う名の夜鷹じゃ。
……最初にあの男に殺されたは、夜鷹(外にて身を売る女)である彼女であったのだと」
「たえ葉が最初では無かったのか、」
「絵を見せてくれた……
恐らく旦那に逃げられ、病の娘を養う為にそうするしか無かった様子。
何時もの様に夜道に立っておった時、偶々通り掛かったあの瓦版屋に声を掛けた所、背後より瓢箪で殴られたらしい」
「追い剥ぎか、」
「否、」
「……まさか」
「左様。あの男は"其れ"……殺し其の物、そして殺した女を"弄ぶ"事に興奮を感じるのだそうな」
……源三郎の顔が青褪める。
「鈴は顔に水を浴びせられ…しかし、辛うじて死ななかった。
咳き込みながら薄らと意識が残った中、人形の如く弄ばれ、扱われ、近くの川に投げ込まれ、其処で死んだ。
浮かばれぬまま娘の所へ向かえば、娘は薬も飯も口に出来ぬまま独り枯れ死んでおった」
「……」
「鈴は、あの男の顔を知り得ておった。そう、鈴だけは、な」
し乃雪の横顔が、切なげに落ちる。
