* * * * * * * * * *
其の頃、遊廓の入り口近く。
門の傍にある大きな柳の木下で胡坐をかき、ひぃひぃと肩で息をしているのは先刻の瓦版屋。
立ち込める白い闇色の霧に何処と無い不安……しかし、誰かが追って来る様な気配がせぬ事を感じ取った後、大きく息を吐き出した。
「ひひひ…… お、惜しかったな…… あの花魁、もう少しで……
男だったなんて、な……ひひ」
そう独り言ちて瓢箪を下ろし、一息つき。
「そうでなくとも……売るにしても……
あの男、邪魔だね……ひひ……
あいつをひきはがさねぇとね……ひ…… ?」
ふと、其処で独り言が止まる。
何かの気配を察した。
気味の悪い、生温い気配だ。
ぬるりぬるり、まるで霧が其の身に魂を持ったかの如く、蠢く。
男の背を、冷たい風がひょうと吹き抜けた。
柳がさわさわさわさわと不自然に揺れ始める。
「……ひっ……!?」
ぞ く っ 。
身が縮む程の激しい寒気。
何事だ、と男が辺りを見回し……
否。見回す必要も無かった。
顔を上げれば、囲まれていたのだ。十五人の……殺した数だけの、女の霊に。
鈴、たえ葉、淡雪、夕凪……
鈴よりも前に、戯れにて殺めた女達も。
皆、脚が無かった。
故に、背が小さく座り込んでいた男が顔を上げるまで気付かなかったのである。
「ぎゃッ……!!?」
男は悲鳴をあげた。しかし其れは冷たい風の唸る音にかき消された。
女達は笑っていた。今この瞬間を待ち望んでいたかの様に、嬉しそうに笑んでいた。
"嗚呼……恨めしい……恨めしいよぉ……"
其の声がわぁんと不思議に響き、男へとゆっくり覆い被さって、
「ぎ…… ぎゃああぁぁぁ…………!!」
ごぼごぼ…ごぼ…と、泡を吹き出す様な音と共に、断末魔の様な声が寝静まった周囲に響き渡った。
さわさわ、さわ。
我関せずと揺れる柳が、霧の粒と共に涼しげだ。
