「宵の天女・吉原一番の妖狐太夫 宵の内に彼岸へ旅立つ……
上手い事書きやがって」
「悪くは無いわえ、」
「褒められているんじゃあ無ぇぞ、」
「"綺麗"なまま死ねるなれば本望じゃ」
「其の様な死に方されて残される方にもなってみろ!
…全く、」
どうやら鼻血は直ぐに止まった様子。トントンと項の辺りを叩いていた手を止め、ふと顎をひくつかせ。
「……そうだ。
夕凪の事、そろそろ教えてくれても良いであろう?」
思い出し見遣れば、そう言えば襖にくっきりと描かれていた女のシミが跡形も無く消えている。
其れに安堵を覚えるは源三郎、さも当たり前の様に煙管に火を着けたし乃雪はふ…と紫煙を漂わせ、其の姿が幻の如く僅か霞む。
「今聞きたいかえ?酒を持って来ようか、」
「酒は次の宵に笑いながら呑もうぜ。
其れより、気になって眠れねえからよ」
「ふふ…子供め」
「んだと?」
クスクスクス。
笑いながら、するりと脚を組み替えるし乃雪。
女の様に流した脚は白く細く、源三郎は瞬時のみ視線を引っ張られた。
「なれば、…しかし、俺は少し疲れたよ」
ふわ、とあくびを零すし乃雪。
真に疲れてしまったのであろうか、煙管も早々に消し、ころりと布団に転がってしまった。
「やはり明日にしようぞ」
「お前こそ子供じゃあ無えかよ、」
「如何とでも言え。
…きっと明朝……面白い事が起こるわえ……
今宵は……寝よう………」
やがて、とろりと溶けた瞳を瞼に隠し、柔らかな寝息を立て始めたし乃雪。
最後の一言を良く気にもせぬまま、そう言えば源三郎自身も身が酷く重い事に気付く。
なればもう俺も寝ようか……。
布団を敷く為に立ち上がった時、またつぅと鼻血が出る感覚がし、慌てて頭を上へと向けた。
……もう暫し、眠れなさそうである。
