喉元を擽られる猫の様に目を細め、擦り寄って来た身を、しかし源三郎はするり交わす。「いけず、」と笑ったし乃雪の鼻を、浅黒く太い指がぶにと押し上げた。
「ふがッ」
「そんな事より、し乃雪!」
「何じゃぁぁ」
「知り得た事、教えろよ!あすこまでして何か得たのだろう?気になるだろうが、」
尚押し上げ続ける指を掴んだし乃雪、先刻とは違う不敵な笑みを浮かべる。女の妖しさと男の大胆さが混じり、不思議な魅力が源三郎の胸を叩き。
「夕凪、では無かった」
「お?」
「このシミ……夕凪の姿こそ取っておるが、あれは別の者じゃ」
「……良く、読めぬが。
つまり何か?俺達は見当違いと??」
「まぁまぁ、総て終わってからでも遅くはなかろうて」
「待て待て待て、此処で止めるか!?」
「お伽話の裏側は幕が閉じた後の方が面白い、……違う、かえ?」
そうほくそ笑みながら、ふとし乃雪は表を見た。
窓の外に居る、先刻より其処に居た、者。
以前より、じっと此方を見詰めていた其れと――目が合った。
し乃雪は、笑った。
はんなりと笑む華の如き笑みは、しかし其の奥底に毒を含んでいる様で、酷く美しい。
