アヤカシ太夫♂とイロオトコ

 
「訊けるなればとうにそうしておるだろう…しかし、相手はシミだし死人だぞ?
 そもそも、無理じゃあ無いのか。
 其れとも、坊さんか(まじな)い師でも呼ぶのか、」
「お前さんなぁ、」

 意味深長にくつくつと笑う、し乃雪。
 口元隠す其の仕草はゆるりと柔らかく、まるでしなやかな猫の如く。

「まぁ、良いわえ。
 のお源三郎。そう言えば何と無く下手人が見えて来たと言うておったが。
 先ずは其処から聞こうかえ?」
「話を変えるなよ、」
「物事には順番があろうて?お前さんが先じゃ、余計な事を吹き込めばややこしくなる」

 其の"余計な事"を持ち出し掛けたのはお前の方じゃあ無ぇのかよ…。
 そう、し乃雪には聞こえぬ様に声に出さず呟いた時、先刻逃げて行ったねねが丁度良く入口の襖を開けた。
 恐る恐る、しかし足早に近付いて二人の傍へ置いた物は、酒の徳利と猪口が乗った盆である。

「おいおい、晩には早いんじゃあ無ぇのか、」
「何と、お前さんは昼は呑まぬのか?」

 し乃雪が言えば、返って来るは苦笑。

「昼間ッから毎日呑んでいると楽しみが減るからな」
「酒の飲み方すら拘るか、面倒な男じゃ」
「其処は粋だと言う所だろうが、」
「粋と面倒は紙一重じゃの?
 で、」

 窓の縁を降り、すす、と身を寄せ来るし乃雪。嗚呼そうか、これは催促の時に必ず来るものなのか…と源三郎は気付き、彼が切り出す前に口を開く。

「幽霊の前での謎解き話は少々気が引ける」
「詰まらぬ事を申すなよ。どの道何かが起きるのじゃ、構わぬであろう?
 ほら、話し遣れ。お前さんの声は心地が良い」
「しょうが無ェな…、」

 酒の代わりにねねより差し出された湯呑を受け取りながら、ふぅと息を整える。
 ほんのり漂った沈黙の合間を、どうもこの真下に来たらしい、瓦版屋の威勢良い声が割って入り、し乃雪の眼がふと窓の下へと向いた。
 どうやら花魁の連続死を面白可笑しく仕立て上げているらしく、野次馬の勢いも上々、騒がしい。

「この様な所に瓦版屋たァ、珍しいわえ」
「……」
「源三郎、如何した?」
「ふむ………」

 ふと見れば、源三郎の表情が少し曇っている。瓦版屋の不謹慎加減に呆れているのだろうか…し乃雪は勘ぐる様子で其の顔を覗き込んだが、源三郎は直ぐに表情を戻し、湯呑を啜る。

「成る程な」
「何が成る程じゃ?気になるだろうが、」
「今に分かるさ。なれば、話そうか…」

 少しの間、源三郎は目を閉じ、思考を巡らせる。
 ふむ、……と漏らした後、言を紡ぎ始めた。

「先ず、だ。
 夕凪の死に場所、お前さんは何処だと思う?」
「嗚呼?そりゃあお歯黒溝であろうて?」
「如何してそう思うんだ?」
「あすこに亡骸があった、其れに……… 、」

 嗚呼…!と一言漏らしたし乃雪、何かに気付いたらしい。ぺしんと自らの額を叩いた後、漏らす様に訂正する。