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不機嫌めに歩み行く細身の着流し姿に着いて歩き、す、と自室の襖を開けた其の様を、源三郎は眺めていた。
が、其のままひたり動かなくなったし乃雪。
…… 言葉無きまま、"何か"を、見詰め。
暫し間を置き、源三郎は気付く。
「し乃雪?」
まるで木と化したかの如き其の様、訝しみつつ小さく声を投げた時だ。
何か糸が切れた様に、やがて其の背の肩が小刻みに揺れ、其れは笑いへと変わっていく。
「何だ、如何した?」
源三郎とし乃雪の間に居たねねが、部屋を覗いて俄かに怯えた様子を見せ、たっと廊下へ走り去った。
振り向かぬし乃雪の様子も見るに、どうやら部屋の中に何かがあるらしい。
そっと、不気味に笑うし乃雪の横より部屋を覗き見、……途端、源三郎は声を漏らした。
何時もの殺風景なし乃雪の部屋。
――押入れの襖に、縦に長い大きなシミが出来ていたのである。
“ざわり、"
シミが、動く。
蟻の大群が動いているかの如く、しかしまっこと其れはシミであり、やがてゆっくりと人の形となり。
乱れた髪の、恨めしそうな死に顔が、ゆっくり、ざわざわ、し乃雪達を――見た。
「…何、だ…これは、」
「嗚呼、面白いな源三郎!」
けたけたと笑い止まらぬ様子であったし乃雪が、漸く涙を拭きながら源三郎へと眼を向けた。
濡れた紅玉の瞳は酷く美しいが、源三郎には趣も何も感じない。
「…あのなぁ、この一大事に良くも笑っておられるな?」
「これ程面白き事は無かろうて、このシミ幽霊は俺を女と見たのじゃぞ?」
「……幽霊が間違えるのかよ……」
「何じゃ源の字?俺を女と思うて十九両も注ぎ込んだ癖に」
「其れとこれとは」
「別…とは言わせぬぞ?」
恥ずかしそうに顔を上げた源三郎の胸元を、つるりと指が滑る。色めいた其れが何とも妖しく、ぐぅと声が漏れた。
「しかしだ、お前さんの身が危ないと言う事だろう。
怖く無いのか?」
「何を申す?怖いさ」
「、」
「しかしな、源の字。
お前さんは何故に危なや怖やと訊く?」
「何故にと?」
白磁の様に白き顔に、浮かんだ笑顔が妖しく変わる。
薄暗き部屋へ臆する事無くするり入ったし乃雪、ふわり舞う様に畳を歩み、やがて何時もの窓辺に腰を下ろし。
「このシミが真に幽霊なれば、何かを思うて出て来たと言う事。
思いを知れば無念が晴れる、無念が晴れれば其処でお終い、となろうて?」
「そりゃあそうだが、」
「なれば、訊こう。…とはならぬかえ?」
其れを聞いた源三郎、しかし眉根が寄るばかり。
其処で漸く彼も部屋へ踏み入り、恐る恐るし乃雪の傍に胡坐をかいた。
