「そりゃあそうだろう。し乃雪、今のお前さんは其のシミ位恐ろしい顔をしておるぞ?」
「何じゃ、俺は妖かえ?」
「ねねには少なくともそう見えるんだろうよ」
ぷぅと頬を膨らませるし乃雪、くつくつと笑う源三郎。
やがて彼はねねの前に背を向けてしゃがみ、小さな体を背負った。
ねねは大人しく背負われ、少しばかり嬉しそうにすり寄る。
「似合うじゃないか、源の字?父子其のものじゃ」
からかい返せば、「煩ぇ、」と悪態。
「可愛そうだろうが、あんなに慕っておった姉さんを亡くしたのだからよ」
「確かに、そうじゃのぉ…お前さんは優しいな、なれば俺にも同情してくれるのかえ?」
「お前さんが売られた事には同情するが、今の妖しい顔には同情出来ねぇよ」
言いつつも、ふと源三郎は足元に広がる布団に目を落とし、場にしゃがんだ。
何かを見付けたらしい、じっと其の場を見詰め続ける源三郎に、し乃雪の眉根がほんのり寄る。
「ん、如何した源」
「俺には如何も、其の襖幽霊が下手人だとは思えぬ」
「ほぉ?岡っ引気取りかえ、」
「悪いか、」
「色男じゃのぉ?」
「言ってろよ。
……しかし、なれば其のシミ幽霊は如何にして夕凪を殺めたと思う?」
言葉を連ねるも、其の眼はずっと足元を見詰めたまま。
し乃雪も漸く気になり始めたらしく、ゆるりと襖より離れて其の傍に跪いた。
源三郎が見詰めていたのは、枕元の敷布団と畳の境目付近。
良く見れば、其の畳にはうっすらと頭一つ分程のシミ…しかし、敷布団をめくれば其の下にシミは無く、半円の形となっている。
そう言えば、敷布団の方には其のシミは見当たらない。
「ほぉ」
「何じゃ、」
「見ろよ。シミが半月だ」
「だから如何した?」
「気付かねぇなら良い。…其れに、これは」
畳に着いたシミ、其の上と周辺には何か白いものがこびり付いている。
そう言えば其の白いものもシミ其のものもうっすら薄汚れており、濡れた埃の如き繊維状の其れをつまみ上げた源三郎はふむ…と顎を擦る。
何も教えてくれぬまま思いに耽る源三郎、とうとうし乃雪は痺れを切らし、パシンと肩を叩いた。
「何だよ、」
「勿体ぶらずに口に出せ、詰まらぬわえ」
「お前さんも少し考えてみたら如何だ?俺は何と無く下手人が分かって来たぜ」
「其の口振り、つまる所あの襖シミの仕業では無いと」
言えば、今度は源三郎が妖しい笑み。
「雪、」
少々わざとらしく、源三郎はし乃雪に向けた。
不意に目が合ったし乃雪、間の抜けた返事を返す。
「ん、あ?」
「其の押入れの中に布団が入っておる筈だ。彼女にゃ悪いが、ちょいと其の襖を開けて見てくれぬか」
「あ?嗚呼、」
言われ、し乃雪は何の疑いもせずに押入れを開け……
「……何、だ。随分重……」
だが、妙に襖が重く、ギギと嫌な音を立てて上手く開かない。
