翌日、星消え霧晴れぬ早朝の事。
あれから結局一晩中話に花を咲かせ呑み明かした源三郎であったが、しかし明けに見合わぬ騒ぎの声にて微睡の中よりうっすらと目を覚ました。
人の騒ぐ声、走る音。
未だ明け六つじゃ無えか…寝惚けながらもそう思った時だ。
ぬくぬくと温かい布団と肌の狭間をひんやりとしたものがするり這い、其の冷たさに身がビクンと跳ねた。
「っ冷てッ!」
寝耳に水ならぬ、寝首に冷え手。
ぼんやり視界定まらぬ目を横切ったものは白くほっそりとした手、其の先に自分を覗き込む白き女の柔らかな笑顔があった。し乃雪だ。
「源三郎様、お早う御座いんす」
「し乃雪、手前ェ…」
何て起こし方をしやがるんだ!と喉元まで出掛るも、向けられた美しい微笑みに怒りが吹き飛ばされ、グゥと唸りに変わる。
「何だよ、未だ陽も出て無ぇのに」
「外も内も騒がしゅうて起きてしもうた。黒町屋の花魁が一人、奥の溝にて浮いておるのだと」
「……何だと?」
ほんのり残っていた眠気が、其の一言にて総て吹き飛ぶ。
良く耳を澄ませば、どうやら野次馬が真っ先に現場へと向かっている様子。噂を聞きつつ時折この見世の前にて立ち止まるらしく、確かに騒がしい。
ふと横を見遣ると、さっさと男物の着流しに身を包み、すわ外へ出んとするし乃雪の姿があった。
どうやら野次馬の中へ混ざろうとしているらしい。
源三郎は「おい、」と声を投げる。
「何じゃ、」
「見に行くのか?」
「嗚呼。源の字、行かぬのかえ?」
「起きたばかりだ、身支度するからちょっと待てよ」
「なればさっさと動きなされ、片付けられてしまうわえ」
表情は殆ど変えぬが、其の眼はらんらんと輝いている。
不謹慎な、と言う言葉が喉元まで来たものの、しかし其れを口にする事はせず、自分の着物を手に取った。
源三郎自身、この騒ぎが気になっていた故だ。
