"ざ ぁ ……"
強い風が吹き荒れ、大地に厚く降り積もった新雪が、満月の明かりに照らされきらきらと舞い上がる。
樅の木が揺れ、其処かしこにてドサリと雪が落ちる様を、鴉獄は同じく雪積もる屋根の上にて佇み、眺めていた。
伊賀忍総本山、忍頭氷雨衆。
鴉獄は、調べ物の為に里へ再び帰って来ていた。
昨日早良より頼まれた事で、鴉獄自身も目的の為に知り得たかったものだ。
其の件について、あの資料室にて該当箇所は総て目を通したが、やはり記述は少なく。
今、彼は最後の手段として頭領の帰りを待ち詫びている。
吹き荒れていた風は収まり、流れの速い黒雲が月を朧にぼかした時。
ふと背後に僅かな気配を感じ取り、振り向き、其の場にて跪く。
其れまで影すらなかった場所に、気付けば一人の男が笑みながら佇んでいる。
「流石鴉獄、気付きましたか」
「お待ちしておりました、お頭様」
赤と金の短い髪を風にそよがせながら、鍬刃が笑う。
「最近は如何です?早良乱丸と柏木奈々尾の様子は」
「変わりませぬ。
嗚呼、早良に稽古を付けておりますが、此処暫くは流石に上達が早く、驚いております次第」
「ふふ……楽しい様で何より。信頼されて来た様ですね」
「はっ……」
「し乃雪太夫は、あれから如何です?元気になられました、」
「もう何時も通りに過ごしております。お頭様の御力添えの御陰に御座います」
「重畳、」
にこり。忍らしからぬ笑顔を褐色の顔に浮かべ、鍬刃は頷く。
続き、鍬刃は再び雲より顔を出した満月を見上げ、赤と金に彩られた瞳を瞼の中へ隠し。
「……其れで。
私を待っていたと?また何か良からぬ事でも、」
「否。早良より聞いた情報にて気になる事がありました故、御耳にお入れしたかったのと……お伺いしたき事が」
「ふぅん…… 私も鴉獄に調べて頂きたい事があります故、聞いて頂けるなら伺います」
悪戯っぽい笑みを見せる鍬刃の仕草が、無邪気だ。
鴉獄は口布の下に小さく笑みを作った後、其れ以上反応するでも無く。
「仰せの儘に」
「其れは良かった。なれば、少々急ぐ用事ですから……こちらから先にお話させて下さい、」
口振りから察するに、初めから使いを通じて『用事』とやらを請ける事となったであろう。
「御意……、」
跪いたまま、鴉獄は深く頭を下げた。
