七月二十二日。期末試験が終わったその週の金曜日だった。試験が終わった解放感で学校全体が浮かれていて、あと数日で夏休みだった。
放課後、俺は美術部の片づけを終えて教室に戻った。教室には誰もいなかった。鞄を取って廊下に出ると、迅と会った。
「悠、屋上行こう」
迅が言った。
「透は」
「先行ってる」
俺たちは屋上に向かった。四階の階段を上がって屋上に続くドアの前に立つと、普段は施錠されているドアがその日は半分開いていて、鍵がドアノブのところでぶら下がっていた。
「鍵、開いてる」
「うん。透が、誰かに借りたって前に言ってた」
「ふうん」
ドアを開けて屋上に出ると、夏の夕方の強い光が目を射した。屋上のコンクリートは午後の太陽で熱くなっていた。一面に広がる白い空と遠くの海と、それからフェンスの向こうに立っている透の背中が見えた。透はフェンスを越えていた。
フェンスの向こう側の、屋上の縁の細いコンクリートの上に立っていた。足元には白い紙が石で押さえてあった。俺は何かを叫んだと思う。何を叫んだかは覚えていない。
迅も何かを叫んだ。透が振り返って俺たちのほうを見て、笑った。その笑い方が、中学一年の体育館で見たのと、合格発表の日に見たのと、同じ笑い方だった。そこから俺の記憶はない。
気がついたとき、俺は屋上のコンクリートの上に倒れていた。迅も隣で同じように倒れていた。下のほうから誰かの叫び声が聞こえていた。
「落ちた」
「人が落ちた」
「救急車」
俺は起き上がろうとしたが、腕に力が入らなかった。コンクリートの熱が頬に直接当たっていて、空が白く回っていた。迅が先に起き上がった。フェンスのところまで歩いていって下を覗き込み、それから振り返って俺を見た。
迅の顔を、俺は今でも覚えている。何の表情もなかった。驚いた顔でもなかった。悲しんだ顔でもなかった。
ただ、何も書かれていない紙のような顔だった。その顔のまま、迅はしゃがんでフェンスの足元の白い紙を拾い、開いて、目で追って、それから震える手でそれを石の下に戻した。戻してから俺のところに歩いてきた。
「悠、立てるか」
「うん」
「行こう、下に」
迅は俺の手を取って立たせた。手を握る力が強くて、少し痛かった。痛いと思った記憶だけはある。俺たちは屋上を出て階段を降りた。
降りながら、迅はずっと俺の手を握っていた。離さなかった。離されたら、たぶん俺は階段の途中で座り込んで立てなくなっていた。下に降りると、人が集まっていた。集まっている人の中心に、透がいた。

