海から、お迎えにあがりました


中学の三年間を、俺たちは三人で過ごした。正確には三人だけで過ごしたわけではない。クラスは別々だったし、それぞれに別の友達がいた。透にはバスケ部の他の友達が、迅には軽音部の友達が、俺にも美術部の友達がいた。

それでも放課後になると、誰かが誘うわけでもなく、自然に三人でいつもの場所に集まった。いつもの場所とは堤防だった。学校から自転車で十分、海沿いの国道を東に走った先、漁港の手前の小さな堤防。コンクリートの灰色の堤防で、上に登ると海と遠くの島と、夕方には沈んでいく太陽が見えた。

観光地でも何でもない、地元の人間しか来ない場所だった。俺たちはその端のいつもの場所に並んで座って、何を話したかは半分くらい忘れている。たぶんたいしたことは話していなかった。

誰の悪口とか、テストがどうだったとか、最近見た動画の話とか。透がいると、空気が動いた。迅はたまに、二人だけで歩いているときにこう言った。

「俺たち、透がいないと何も話さないよな」
「そうだな」
「変だよな」
「変だな」

それがいいことなのか悪いことなのか、当時の俺たちにはよくわからなかった。三人で一つの密度ではない。でも二人だと欠けている、という感覚はたしかにあった。


去年の七月のはじめ、透が妙なことを言ったことがある。放課後、屋上で三人で海を見ていたときだった。

「俺、最近、変な夢を見るんだ」

透が言った。

「どんな」

迅が聞いた。

「水の中の夢」
「水の中?」
「沈んでいく。深いところに。周りで人が何人も溺れてる。手を伸ばしてくる。でも、俺はその手を払いのける」

俺と迅は黙っていた。

「払いのけて、自分は浮かびあがる」

透はそこで言葉を切って、海に向かって続けた。

「祖父さんの本を読んでたら、似たような話が出てきた。戦後の海難の生き残りの話」
「祖父さんの本?」
「うちの書店に残ってた。地元の郷土史みたいなやつ。中に古い名簿のコピーが挟まってた。悠と迅の祖父さんの名前も、同じ名簿に並んでた」

俺と迅は顔を見合わせた。

「それ、どういう……」
「いや、いい。忘れてくれ」

透は笑って、立ち上がって、屋上のフェンスのほうへ歩いていった。

「帰ろう」

そのときの俺たちはそれ以上聞かなかった。聞いておけばよかった、と俺は今でも思う。