七月の二十二日が来た。透の一周忌だった。俺と迅は透のお墓に行った。商店街の外れの、海沿いの、小さなお寺。
透の祖父も、そこに眠っていた。透の母さんに、久しぶりに会った。透の母さんは痩せていた。一年前より、もっと痩せていた。でも、目に力があった。
「悠くん、迅くん」
透の母さんは頭を下げた。
「うちの透のことで、二人にも、ずっと、辛い思いを、させてしまった」
「いえ」
「あの子、最後の数か月、何か、考え込んでた。私、何度も、聞いた。でも、教えてくれなかった」
「透は、俺たちにも、教えませんでした」
「そう」
「教えようとしてたんだと、思います」
「そう」
透の母さんは、お墓に手を合わせた。俺と迅も、合わせた。線香の煙が、夏の空に上っていった。
「あの子の祖父も、海の夢を、よく見てた」
透の母さんは、ぽつりと言った。
「だから、あの子が、海の夢を見ると言ったとき、私、ぞっとしたの。でも、何も、できなかった」
「……」
「祖父は、戦後、ずっと、何かを、悔やんでた。船で、生き残った、ことを、悔やんでた」
俺は頷いた。透の母さんは続けた。
「祖父は、晩年、ずっと、こう言ってた。『俺は、子供を、振りほどいた。あの子供の、父親が、すぐ後ろで、流れていった。父親の目を、見たんだ。父親は、子供を、頼んでた。頼まれたのに、俺は、振りほどいた』」
「……」
「ずっと、その、父親と、子供のことを、考えてた」
俺は墓石を見た。七尾の家の、古い墓石。その隣に、新しい、小さな、ぴかぴかの墓石があった。七尾透。十七歳。
「透くん、祖父さんと、一緒に、いるかな」
透の母さんが、ぽつりと言った。
「いる、と思います」
俺は答えた。
「祖父さんを、引き上げに、行ったから」
透の母さんは俺の顔を見て、少し、目を見開いた。それから、薄く笑った。笑いながら、目から涙がこぼれた。
「そう」
「はい」
「そう、ね」
透の母さんは、もう一度墓石に手を合わせた。

