施設に着いた。迅が小声で言った。
「悠、いま、自転車、後ろからついてきてたか」
「ついてきてた」
「お前のじゃないよな」
「俺のじゃない」
「三台目」
「三台目」
迅は施設の入り口を見た。
「これ、施設のせいなのかな」
「わからない」
「先生に、聞いてみる」
奥山さんに廊下で会った。奥山さんは俺たちを見て、目で「危ない」と言った。
「奥山さん」
迅が小声で言った。
「俺たち、最近、いろんなものが見えるんですけど」
奥山さんは廊下の奥を見て、誰もいないことを確認した。それから振り返って小さな声で言った。
「水の出来事は、これからも増えます」
「奥山さんも、見えるんですか」
「私は見えません。けれど、過去の被験者の方々が、毎回、同じことを訴えていらっしゃいました」
「過去の被験者」
「一群、二群、三群――いえ、これ以上は申し上げられません」
奥山さんは目を伏せた。
「松崎さん、藤代さん。これ以上、施設にいない方が、よろしいかもしれません」
「先生が許してくれないですよ」
「先生は、許す立場ではありません」
奥山さんはまっすぐ俺たちを見た。
「先生は、観察する立場です。ご自身を、もう一度、確認なさってください。観察される側で、生きていくつもりですか」
奥山さんはそれだけ言って、廊下を歩き去った。俺と迅は顔を見合わせた。
「一群、二群、三群」
「うん」
「俺たちは、たぶん、四群」
「過去にも、いたんだ」
俺は頷いた。その日、計測室に入る前に、迅が小声で言った。
「悠、トイレ、行く」
「俺も」
「いや、お前は先に行ってろ。俺、ちょっと寄り道」
迅は廊下の奥に消えた。奥山さんの言葉が、頭に残っていた。一群、二群、三群。過去にも被験者がいた。
俺は計測室に向かう途中、廊下の途中でふと立ち止まった。廊下の反対側――いつも歩かない方向に、エレベーターがあった。施設に何度も来ていて、エレベーターを使ったことは一度もなかった。受付、控え室、計測室、所長室、二階の計測室。
全部、階段で行けた。俺はエレベーターのところまで歩いて、ボタンを見た。一階、二階、と二つだけ表示されていたはずだった。二階の下に、もう一つ、ボタンがあった。
「B」
地下。施設の見取り図には地下はなかった。控え室の壁の図には、一階と二階だけが描かれていた。ボタンはあった。
地下があるのに、見取り図には書かれていない。俺は指を伸ばして、押した。押した瞬間、エレベーターが開いた。中は白かった。
俺は乗って、「B」のボタンを再び押した。ドアが閉まった。エレベーターが下に動きはじめた。

