商店街の外れに、透の家はあった。「七尾書店」の白い看板。俺たちは自転車を停めて、しばらく家の前に立っていた。
「行くか」
「うん」
迅は鍵を玄関の鍵穴に差し込んだ。鍵は少し固くて、何度か回して、ようやく開いた。ドアを開けると、中から湿った古い空気が流れ出てきた。潮の匂いがした。
「うわ」
迅が顔をしかめた。
「海の匂いだな、これ」
「うん」
家の中は暗かった。雨戸が全部閉まっていた。迅が玄関の電気をつけようとしたが、つかなかった。
「電気、止まってるな」
「だろうな」
俺たちは靴を脱いで上がった。床は冷たく、歩くたびに軋んだ音がした。廊下を進むと、左に書店だったスペースがあった。本棚がほとんど空になっていて、残っている本も紐で縛って隅に積んであった。
居間には家具がほとんど残っていなかった。テーブルが一つと座布団が二枚。茶箪笥は扉が開いたままで中は空だった。テレビもなかった。
「上に行こう」
迅が言った。階段を上った。一段ごとに、足音が家全体に響いた。二階の海に面した側の部屋。
それが透の部屋だった。ドアを開けた。部屋は暗かった。
雨戸の隙間から細い光が何本か差し込んでいて、光の中に埃が浮いていた。迅が雨戸を開けようとした。雨戸は固かった。
「悠、手伝え」
二人で押した。雨戸はようやく動いて、海から差してくる光が部屋の中に一気に流れ込んだ。光の中で部屋を見た。本棚が一つ。
机が一つ。布団はなかった。畳は変色して黄ばんでいた。本棚にまだいくつかの本が残っていた。古い、表紙のすり切れた本ばかりだった。
「変わってないな」
迅が言った。
「変わってないけど、変わってる」
俺は答えた。何が変わっているのか、うまく言葉にできなかった。たぶん人がいないことだった。

