海から、お迎えにあがりました


走りながら迅はもう少し話した。

「俺、母親にぜんぶは話してないんだ。ただ、祖父さんってどんな人だったの、って聞いた。それでいろいろ出てきた」
「どんな話」
「祖父さんは戦争の頃、海で何かあったらしい。母親も詳しくは知らないって言ってた。ただ、生きてる間、祖父さんはあんまり笑わない人だったって」
「ふうん」
「夜中によくうなされてたって。海に潜ってる夢ばっかり、見てたって」

俺は自分の祖父のことを思い出そうとした。ほとんど思い出せなかった。写真の中の痩せた老人の顔だけ。生きてるあいだに話したこともあったはずなのに、何を話したのか覚えていなかった。

「俺、家に帰ったら、祖父さんのこと、もうちょっと母さんに聞いてみる」
「そうしろ」

走りながら、迅は少し黙っていた。それから続けた。

「悠。俺たち、自分の家のこと知らなさすぎだよな。祖父さんのことも、親のことも、ちゃんと知らないで来た。透のことも、たぶん」

迅の声が少し低くなった。

「俺たち、透のことを知ってると思ってた。でも実は、何も知らなかった」

俺は答えなかった。答える代わりに、ペダルを強く踏んだ。