俺の家から学校までは自転車で十五分。坂を二つ下りて、海沿いの国道を東に走って、漁港の手前で右に折れる。中学からずっと同じ通学路で、高校の三年も最後まで変わらない。人口五万人弱の海沿いの町。
冬は風が強く、夏は湿度が高い。観光客が来るような場所ではないし、産業らしい産業もない。若い人間はみんな進学か就職で町を出ていき、商店街は少しずつ歯抜けになって、シャッターを閉めた店が増えていく。それでも、海はきれいだった。
中学のころ、俺と迅と透はよく学校帰りに堤防まで自転車で来た。三人でただ海を見ていた。何を話したかは半分くらい忘れている。たぶんたいしたことは話していなかった。
透が何か言って、俺と迅が笑って、それで日が暮れていく。そういう時間だった。透は三人の中でいちばん明るかった。明るいという言葉は便利すぎてあまり使いたくないけれど、透は明るいというより、輝いていた。
何かに照らされていた、と言ったほうが近い。透がいると、俺と迅もその光のおこぼれをもらって、少しまともに見えた。その光が、去年の夏に消えた。正確には、去年の七月二十二日。
期末試験が終わって、あと数日で夏休みというその日の放課後、透は校舎の屋上から落ちて死んだ。警察は自殺と判定した。屋上には透が遺書を残していた。三つ折りにされて、フェンスの足元に石で押さえてあった。
「ごめん」とだけ書かれていた。透の字だった。屋上には透のほかに二人いた。俺と迅だ。
俺と迅は警察に同じことを言った。透が屋上にいるのを見つけて止めようとしたが間に合わなかった。透は自分から落ちた、と。それは半分本当で半分嘘だった。
嘘というより覚えていなかった。あの日、屋上に上がってから透が落ちるまでの最後の数分が、俺の中にない。気がついたら、迅と二人でコンクリートの上に倒れていた。下のほうから誰かの叫び声が聞こえていた。
それ以来、あの数分の空白が穴のように俺の中に残っている。穴の縁に近づくと何か嫌なものが手に触れる気がして、すぐに離れる。離れて別のことを考える。迅の顔を見る。
迅が笑って肩を叩いてくれる。それで穴は閉じる。迅は覚えているのだろうか。聞いたことはない。聞かないまま一年が経った。

