海から、お迎えにあがりました


施設を出ると、雨はもう本降りになっていた。俺たちは自転車を押しながら、海沿いの道を歩いた。レインコートのフードの内側に、雨の音が響いていた。

「悠、俺、あの先生、嫌いだ。でも、嫌いになるだけだと、負ける気がする。嫌いになって、それ以外に、何か、しないと」

迅は雨の中を歩きながら続けた。

「俺たち、もう、通うの、やめるか」

俺は迅の横顔を見た。迅はまっすぐ前を見ていた。

「やめても、たぶん、今日のあれは続く。俺の家でも、悠の家でも、学校でも、止まらない。だったら、行かないより行ったほうがいい。少なくとも、何が起きてるか見えるところにいる」

俺は黙って聞いていた。

「それに、透のこと」

迅は一度息を吐いた。

「あの先生しか知らない。あの先生から聞き出さないと、俺たちは透がなぜ落ちたのか、一生分からないままだ」

レインコートのフードの内側で、雨の音が大きくなった。

「だから、行く」
「行くか」
「行って、あの先生が知ってることをぜんぶ、こっち側に引っ張る。あの先生は、観察してるつもりだろうけど――俺たちも、観察する側に回る」

雨の中で迅は少しだけ笑った。笑い方が、不敵だった。

「俺たちは、あの予測を外さないと。俺たちが生きてるっていう事実が、あの先生にとってのいちばんの敗北になる。だから、生きよう」

俺は頷いた。頷いただけで、声は出さなかった。声を出すと、自分の中の何かが揺れそうな気がしたからだった。

雨の中を歩く迅の横顔を、俺はもう一度見た。迅の頬に、雨が降っていた。雨が迅のフードの先から、頬に伝って流れていた。

「迅、ありがとう」
「何が」
「何か」
「何か、か」

迅は笑った。笑った迅の頬を、雨が伝った。