海から、お迎えにあがりました


俺たちはそれぞれの椅子に座って、靴を脱いで横になった。奥山さんが頭にゴムバンドをつけて、後頭部のあたりに丸いものが何個か押し当てた。電極だろう。

「天井を見てください」

朔本さんが言った。俺は天井を見た。白い平らな天井だった。何の模様もシミもなかった。

「電気を少し落とします」

部屋の電気がゆっくりと暗くなった。九十分は長かった。最初の十分は心臓の音が聞こえていた。二十分過ぎたあたりでそれも気にならなくなった。

三十分くらいで、迅が眠ったらしいのが呼吸の変わり方でわかった。迅は寝るのが早い。修学旅行のとき、消灯から五分で寝た。俺は寝なかった。

寝ようと思ったが寝られなかった。四十分くらい経ったときだった。聞こえた。水音。

ぴしゃ、と何かが滴る音。部屋のどこかで水が滴っていた。俺は目を開けた。電気を落とした暗い部屋で、ぼんやり見えるのは天井のシミ。

シミはなかったはずだ。今朝、というかさっきまで、ここの天井は何もない真っ白な天井だった。それなのに今、天井の真ん中に丸い染みが広がっていた。濡れていた。

ぴしゃ、と。その染みの真下から、水が一滴、落ちた。俺の頬に。冷たかった。

塩辛かった。俺は息を止めた。止めた息の中で、水滴は続けて落ちてきた。二滴、三滴。

俺の頬を伝って、首のあたりまで流れた。それから、観察室から声が聞こえた。朔本さんの声だった。

「データ、止めるな」「そのまま」「いや、大丈夫」「記録、続けろ」

早口で断片的に聞こえた。俺は目を閉じた。閉じた目の裏で、水滴はまだ続いていた。続いていたが、もう天井からではなく、俺の中から滴っているような気がしていた。

「終わりです」

朔本さんの声で目を開けた。部屋の電気が明るくなっていた。天井を見上げた。真っ白だった。

何のシミもなかった。俺は頬を触った。乾いていた。