海から、お迎えにあがりました


その夜、家で再びパンフレットを開いた。最後のページにこう書かれていた。

 被験者として、以下の項目をご了承ください。
 ・週に二回、原則として平日の放課後、施設に通所すること
 ・各セッションは九十分から百二十分程度
 ・脳波計測を含む、非侵襲的な生体計測を受けること
 ・家系に関する聴取に応じること
 ・施設内での出来事について、外部に漏らさないこと
 ・治療プログラムは最低三か月、最大一年の期間を予定しています

「施設内での出来事について、外部に漏らさないこと」

普通のカウンセリングではこういう条項は書かない。書くとしても、もっと違う書き方をする。患者のプライバシーを守ります、とか、第三者に情報を提供しません、とか。これは、施設が患者の情報を守るための条項ではなくて、患者のほうが施設の情報を守るための条項だった。

少し引っかかった。引っかかったが、もう行くと決めていた。ペンを取って署名欄に名前を書いた。書いた直後、ふと自分の字が迅の字に見えた。

そんなはずはなかった。何度も書いてきた俺の名前だ。それなのに書いた直後の一瞬だけ、その字が迅のものに見えた。

俺は自分の名前をしばらく見た。見ているうちに、字はちゃんと俺の字に戻った。ただの見間違いだ、と思った。