海から、お迎えにあがりました


月曜日の放課後、迅と二人で施設に向かった。施設は海月町という海沿いの古い住宅街の中にあった。学校から自転車で二十分。

海岸線に沿って東に走った先の漁港よりさらに先の町で、普段、用事がないと行かない方角だった。国道を外れて住宅街に入ると、道が急に細くなった。低い屋根の古い家が並び、塀のところどころに苔がついていて、人通りはほとんどなかった。

「ここで合ってる?」

迅が地図を見ながら言った。スマホの画面に青い点が点滅していた。

「合ってる、と思う」
「思う、じゃなくて、合ってる」

迅が笑った。地図の青い点が示している場所に、その建物はあった。二階建ての白い建物だった。住宅街の中で、その建物だけが明らかに新しかった。コンクリートの壁が真っ白で、四角い窓が均等に並んでいて、出入り口の上に控えめな金属のプレートが取り付けられていた。

「世代継承記憶研究所」

俺たちは自転車を停めて、しばらく建物を見た。

「思ったより普通の建物だな」

迅が言った。

「うん」
「なんかもっと、廃病院みたいなとこかと思ってた」
「お前、想像力がヤバい」
「悠もそう思ってただろ」
「思ってない」

少し思った。入り口の自動ドアを抜けると、白い廊下があった。床も壁も天井も全部白く、蛍光灯の光が反射して、空間全体が薄く発光しているように見えた。窓は全部曇りガラスで、外の景色が見えない。

廊下の左手に受付があった。若い女の人が座っていた。眼鏡をかけて白衣を着ていた。

「松崎悠さんと藤代迅さん、ですね」
「はい」
「お待ちしていました。所長がお会いになります。こちらへ」

受付の女の人は立ち上がって、廊下の奥に俺たちを案内した。歩きながら自分の名前を「奥山」と名乗った。それだけ。何の役職なのかわからない。

歩くと、足音が廊下に響かなかった。床は多分、特殊な素材だった。迅が隣で何度か自分の足元を見ていた。奥山さんは廊下の突き当たりのドアの前で止まった。

「こちらが所長室です」

ノックすると、中から「どうぞ」と聞き覚えのある、淡い声がした。