帰り道、俺は商店街の外れまで自転車を押した。迅とは途中で別れた。商店街は土曜日の夕方なのに人がほとんどいなかった。シャッターを閉めた店が半分以上で、残っている店も客がいなかった。
古い雑貨屋の店主のおじいさんが、店の前で猫に餌をやっていた。痩せた、白と茶色のぶち猫だった。その先に、透の家があった。「七尾書店」の看板が相変わらず、白く塗られた木の板に黒い字でそこにあった。
塗装が少し剥がれてきていて、一年前はもっとはっきりした字だった気がする。家の中は暗かった。雨戸が閉まっていて、二階の窓もカーテンが閉じていた。誰もいないことは、見ればわかった。
俺はその家の前にしばらく立っていた。ふと、家の二階の窓で何かが動いた気がした。目を凝らした。カーテンの隙間から、何かが見えた。
誰かの顔の輪郭のような、白いものだった。一瞬ではなかった。それはカーテンの隙間にしばらく留まっていた。額のあたりと目のあたりが見えた。
目はこちらを見ているようだった。それから、ゆっくりとカーテンの内側に引いていった。引いていって見えなくなった。見えなくなった後も、カーテンは揺れなかった。
風で動いたのならカーテンは揺れるはずだった。揺れなかった。代わりに、家の玄関のドアの下、敷居のところに、何かが滴っていた。水だった。
家の中から外に向かって、水が滲み出ていた。俺は自転車をその場に置いて、玄関に近づいた。近づくと水は流れる勢いを増し、敷居の下から玄関先のコンクリートの上に、水が滲んでいく。透明な水だった。
海の匂いがした。俺はしゃがんで指で触れた。冷たかった。舐めると、塩辛かった。
家の中から海水が滲み出ていた。電気もガスも止まっている家から、海水が。俺は立ち上がって後ずさり、家を見上げた。二階のカーテンの隙間に、今度ははっきりと、人の輪郭が見えた。
それは振り返って、俺を見た。俺は自転車のスタンドを蹴ってその場を離れた。離れながら、一度だけ振り返った。家は暗いままだった。
二階の窓のカーテンは閉まったまま、動かなかった。ただ、玄関の敷居の下から、まだ水が滲んでいた。商店街を抜けるまで、背中の真ん中に見られているという感覚が消えなかった。国道に出てようやく薄れた。薄れたが、消えてはいなかった。

