黄泉の歌姫は月と海の狭間に揺れる

 鎮守府から、海風にのって華やかな演奏が聞こえてくる。午前中は式典だからと、長澤も天珠も照昌も、キラキラしたバッジの並ぶ正装で出かけていった。
 真っ白な夏服は、朝日を反射して眩しいくらいだった。

 姿見の前で、身支度を整えていく唄子。 
 白に近いほど淡い青に、カモメの刺繍の着物。そして濃紺の帯を飾り結びに。あの日買ってもらって以来、初めて着る余所行きだ。鏡の前でくるりと回ってみたりして、つい頬が緩む。
 長澤から貰った髪紐で、いつものように2つに髪を結わう。天珠から貰ったお手製の公開艦一覧を懐に忍ばせる。そして照昌から貰った日傘を手にして、唄子は長澤邸の扉を閉めた。
 
 午後からの一般公開に、唄子もお邪魔することになっている。その前に、篁からの課題をこなさなければ。

「……よし。」

 ひと声つぶやき、気を引き締める。彼女は日傘をさすと、記念艦三笠へ向けて坂を下っていった。

 ◇

 大勢の人で賑わう三笠。唄子の予想以上の盛況だ。天珠から聞いた話では、この軍艦はまさに日露戦争で活躍した船だという。

(そりゃあ……いっぱい人、来るよね。)

 失念していた。唄子はどうにか、船の近くであり人目につかないところを探すのだった。

 ようやく見つけた木陰に、日傘を立てかける。なんとか、三笠も見える位置だ。
 唄子はひとつ深呼吸をする。そして、神宮寺家にお邪魔した日に覚えたとある軍歌を口ずさんだ。

「轟〜く砲音(つつおーと)、飛び来〜る弾〜丸♪」

 家で練習していたら、天珠だけではなく照昌までノッてきて大合唱になった。
 それほど有名な曲。それに合わせて、夜見之宮の舞を踊っていく。

 海軍記念日のお祭りに日露戦争の英霊たちを招待する。それが篁からの課題だ。

 「杉野〜は何処〜、杉野〜は居〜ず〜や〜♪」

 サビのリズムを刻んでいく。歌も舞もクライマックス。
 そしてふと顔を上げた時、軍服姿の若い青年と目があった。

『杉野はこちらです。呼びましたかな?お嬢さん。』
「……へっ!?」

 思わずピタリと止まってしまった。二の句が告げずにいると、キョトンとした彼の肩を1人の男性が叩いた。

『これ杉野曹長。お嬢さんを驚かせてどうするのだ。』
『これは広瀬中佐!』

 男性らの名前を唄子は復唱する。よく見れば、彼らの姿は半透明に透けているではないか。
 つまり目の前にいるのは、歌われている本人たちの霊だ。

 息苦しさを覚え、辺りを見渡す。そこでやっと、唄子は気づいた。

 ズラリと集まっている海軍の軍人たち。再会を喜ぶように肩を叩く者、三笠に向かって手を振る者、横須賀の街並みに驚く者、様々だ。
 だがその姿は誰もが透けており、周囲の見物客には一切気づかれていない。

(こ、こんなに沢山……!?)

 英霊召喚は、アッサリと成功していた。

『して、お嬢さん。』
「あ、はい…!!」

 軍人の海を代表するように、1人の青年が一歩こちらへ歩み寄る。先程の中佐とは別の英霊だ。
 凛々しい太眉と、口元を飾るヒゲが特徴的な好青年。しなやかな日本刀のような立ち姿は、他の霊達と風格が段違いだ。

『何用故に、我々をこちらへ?』

 その言葉に、唄子はハッとした。思い出されるのは、習い始めたばかりの頃に篁から教えられたこと。

(こちらの都合で呼ぶのだから、霊たちは何をすればいいのか分からない。だから、死霊使いが明確に指示をだすこと……!)

 なんだかボーッとしてしまって、こんな基礎さえ抜けていた。
 深く息を吸って、ゆっくり吐く。それから、唄子は英霊達へ告げた。

「今日は、皆さんの活躍を記念した日だそうです。横須賀鎮守府で、お祭りがあるので……英霊様、どうか、いまの日本を楽しんで下さい……!」

 おぉ、とどよめく声が聞こえてくる。それに呼応するように、ズキズキと頭が痛い。
 目の前の青年が何か告げる。それに曖昧に頷いた。見守っていれば、青年の指揮に従う英霊たち。どうやら、まずは三笠へ向かうようだ。

 そこまで見送って、ホッと息をつく。その瞬間、くらりと視界が反転した。

(あ……倒れる……!)

 衝撃に備えて目をつむる。しかし身体が受けたのは、地面に叩きつけられる痛みではなかった。

「……大丈夫か、唄子や。」

 耳を打つ柔らかな良い声。火照った身体に、ひんやりとした肌が心地良い。
 そっと横たえられ、唄子の頭が骨ばった枕に添えられる。目を開ければ、視界に入る平らな胸元と美しいお顔。

「夜見……之、宮……さん……」

 どうやら、彼に膝枕されているようだった。

 額の汗を拭うように、彼の細い指が唄子を撫でる。そよそよと揺れる風に踊る髪が、頬をくすぐった。

「わ、たし……なんで、倒れ……?」

 風邪でもひいたかのように身体が重い。浅い呼吸で呟くと、夜見之宮は眉を下げた。

「篁も酷な者よ……。だが、軽々とこれだけの数を呼んだそなたの歌は、素晴らしい。唄子。」
「……?」
「呼べはしたが……反動がでたようだ。無理をするでない。」
「反動……」

 力を使いすぎたということか。ならば、せっかく呼べた英霊たちは、もう消えてしまったのだろうか。たった今、お祭りを楽しんでほしいと伝えたばかりだったのに。みんな嬉しそうにしていたのに…。
 
 きゅう、と胸が痛む。じわりじわりと視界が潤む。
 一筋こぼれた雫は、夜見之宮の指に吸い込まれていった。

「唄子や」

 甘い声が名前を呼ぶ。あやすように頭を撫でながら、彼は続けた。

「今日は私が手助けをしよう。そなたが呼んだ英霊たちは、祭りの終演までこの地を満喫する。……安心し給え。」
「……ほんと……?」
「……ああ。」

 一筋、また一筋ととめどなく溢れていく。彼女だけの満月が、そんな唄子を包んでいる。

「篁からの、伝言だ……。」
「……うん……」
「悔しければ……体力を、つけるといい……と。」
「……うん……!」

 それは、異能部隊にいたいのならば必須だろう。冬の宮城広場で、駆け出した照昌に全く追いつけなかった。それを唄子はちゃんと覚えている。
 それがまさか、人数を多く呼ぶことに必要なものだったとは。

 次の目標ができた。
 唄子は暫しの間、愛しい月の膝に身を任せていた。

 ◇ 

 結局、ずいぶん長い間休憩をしてしまった。影が長くなってきた頃、唄子は夜見之宮と共にようやく横須賀鎮守府の門を潜った。

「あ!!小野ちゃんやっと来た!遅いわぁ!」
「ごめんなさい、安倍さん……!」

 入口付近の巡回をしていた照昌が駆け寄ってくる。月讀命に気づいて軽く敬礼をすると、彼は慌てて2人に囁いた。

「なんや、軍人の霊がぎょうさん来てるんやけど、どないなこと?小野ちゃん、なんかした?」

 その言葉に、唄子はついホッと息をついてしまった。夜見之宮の手助けが本当だったこと、英霊様達がちゃんとお祭りを楽しんでいることに、胸が軽くなる。

「実は父上から、日露戦争の英霊様たちをお祭りにご招待するよう言われてて……」
「ほんま!?じゃあホントに本物の英霊達なん!?本人!?」
「はい……」

 照昌は開いた口がふさがらない。そしてうーんと唸ってしまった。

「さっき長澤はんが放送で呼び出されとったで?霊感のある将校にでも見つかったんとちがうかなぁ…」
「え……!お、お呼びしたら不味かったでしょうか……?」
「そらこないにぎょうさんは…」

 頭を悩ます照昌と、顔を曇らせる唄子。そんな彼らへ、月讀命は声をかけた。
 
「……安倍の子よ」
「はいぃっ!」

 流石に、神様本人から呼ばれると気が引き締まる。慌てて敬礼をする照昌だが、夜見之宮は淡々と事実を告げた。

「お前達の先達は、後輩の不利益になる行為をするような……士道不覚悟な者は……いないだろう……?」
「……うん、まあ、はい。そやろな。」

 納得せざるを得ない。なにせ霊達は全員、律儀に正門から入ってくるのだ。しかも敬礼つきで。
 ついでに、本来冥府にいるはずの神様がここに居てくれるなら、トラブルは起こりようがないように思えた。

 唄子と夜見之宮が二人並んで奥へ入っていくのを見送る照昌。

「……あの2人、やっぱ付き合うたんやなぁ。」

 仲睦まじく繋がれた手に、彼が気づかない訳がない。
 その上で脳裏に浮かぶのは、自分の気持ちにすら気づいていない堅物糞真面目な兄貴分。

(背中押したろ思ってたけど……これ後押しする方が酷やなぁ……)

 照昌はこっそり、淡い恋心には触らないことに決めたのだった。

 ◇

 軍楽隊の演奏。それは唄子にとって初めて、西洋音楽の生演奏だ。
 見たことのないキラキラした楽器たち。どれがどの音色を出しているのか、気になって仕方がない。
 そのうえ、演奏は心臓にビリビリと響いてくる。知っている曲も彼等が奏でると、全く違う曲のように聞こえてきた。
 
「あ、神宮寺さん…!」

 楽曲の余韻に浸っていたが、すぐ近くに瑞樹を見つけた唄子。夜見之宮の手を引っ張り、そちらへ向かう。奥さんや、娘さんたちも一緒だ。

「小野さん。なんだか久しぶりですね。」
「鎮守府に行かないと、神宮寺さんだけ会えないから…!」
「そうですね。どうやら、より力を使いこなしているようですし、安心しました。」
「は、はい……!静恵さんに、軍歌を教えて貰えたおかげです!」

 首を傾げる奥方に、英霊召喚の経緯を話す。すると彼女は驚くと同時に、成功を自分ごとのように喜んでくれた。

 そんな静恵が、何かを思い出したように笑みを浮かべる。

「霊と言えば……京華さんに会えたんですってね。」
「はい、そうなんです……!」
「さっき弘道さんとお話したら、以前より顔色が良くなってて……!安心しました。」
「長澤さんと……!!」

 これ以上の朗報があるだろうか。しかも、涼子とレイ子の2人は長澤からお菓子を貰ったという。「間宮の羊羹!」と唄子に自慢してくれた。
 
 今度は長澤も一緒に、とお家に誘われてしまった。喜んで返事をし、神宮寺一家と別れた唄子たちだった。

(あれが……)

 艦隊の停泊している方へ向かう2人の背を見つめる瑞樹。その視線の先にいるのは、夜見之宮……もとい、月讀命。

「……本当に、肝の座っているというか……慣れとは恐ろしいというか……」

 つい、声が漏れる。初めて相対する神話の人物に冷や汗が止まらなかったことは、瑞樹だけの秘密だ。
 唄子が彼と恋人のように手を繋いでるのを見ても卒倒しなかったのは、進歩だった。

 ◇

 戦艦長門。まるで海に浮かぶ城のような巨大さに、唄子は感嘆の声が漏れる。彼女には正直、「三笠より大きい」くらいしか分からない。

 公開されているから絶対に来い!と天珠が輝いていた。そのため来てみたのだが、見物客の量も英霊様達の数も、他の船と全然違う。

「……人気な、ようだな……」
「そう、ですね……。うーん、堂児さんからは必須、って強く推されてるけど、どうしよう……。」

 外から見たから良しとしようか。
 そう迷っていると、ちょうど天珠の姿を見つけることができた。列の整備をしつつ、質問に対応しているようだ。

 だが、突如天珠の動きがピシリと音を立てて止まる。その視線の先には、1人の英霊の姿。

「あ、あの人……」
「うん?」

 夜見之宮に唄子は寄り添い、その英霊を指し示す。そこにいるのは、彼等を代表して唄子へ話しかけてきた青年だ。

 口をあんぐりと開けた天珠が、信じられないというように目を擦る。そして再度青年を見つめる。挙動不審な彼にお客さんは怪訝な顔をしているが、そんなもの彼には見えていない。
 そして、いつも以上に綺麗な敬礼をその英霊へ。恐らく目があったのだろう。嬉しそうに笑う英霊が、楽にしていいと手を振っている。
 油の足りないカラクリのような動きで腕を下げていく天珠。その英霊が立ち去るまで、彼はずっとその英霊へ敬意を払っていた。

「……?そんなに凄い方……?」
「……?」

 唄子と夜見之宮は首を傾げる。英霊の去った方を見て呆然としている天珠が放っておけず、彼等は声をかけることにした。

「あの、堂児さん……?」
「……!!小野!!安倍が式神回してたが、英霊様達をお呼びしたんだってな!!!」
「えぇ!?あ、はい……」

 輝いている。物凄く輝いている。眩しすぎて目を覆いたくなるほどだ。
 長門の案内ができると、ここ1週間ほどずっと興奮しっぱなしだったが、その最高点を軽々と超えてきてしまった。

 ガシッ!と力強く肩を掴まれる。何事かと思ったが、彼の口からあふれた言葉は、唄子の予想の斜め上だった。

「ありがとう……!!ありがとう、小野ぉ……!!」
「……え?」

 まさかの謝礼。しかも涙声だ。

「さっきの御方見たか……!?東郷平八郎閣下だったぞ……!!しかもお若い頃のお姿!!!!」
「……はあ……?」
「つい数年前に国葬のあった、あの東郷平八郎元帥大将閣下だぞ……!!日露戦争にて三笠率いる連合艦隊の司令長官で、当時最強と言われていた露西亜のバルチック艦隊を日本海海戦で破られたまさにその人!!」
「あ、あの…落ち着いて……!!」

 始まってしまった早口の解説。これについていけるのは長澤と瑞樹くらいだ。
 そっと、だがハッキリと、夜見之宮が天珠の腕を唄子から外させる。そこでやっと、興奮のダムが一旦堰き止められた。

「んん……すまん。」
「い、いえ……。憧れの方?に……お会いできてよかったですね……。」
「あぁ……!!」

 間に立ってくれた夜見之宮の背から顔を覗かせる唄子。天珠の頬は未だに赤く、どこまでも上がる口角を抑えようとして余計におかしな顔になっている。

「さっき休憩してたら、軍神たる広瀬中佐ご本人から長門のことを聞かれて……!!俺、今日ほど自分が半妖でよかったと思った日はない……!!」
「そ、そうですか……」

 そこへ、長門の乗組員と思わしき軍人が天珠を呼ぶ。彼の返事は、即答の域を越えている。

「じゃあ、俺は仕事に戻る。小野、ホントにありがとう!!長門、中まで見て行くんだぞ!!いくら海軍記念日と言えど、長門が横須賀にいるのは滅多にないからな!!絶対見ていくんだぞ!!」
「わ、わかりましたから……!お仕事、頑張って下さいね……!」
「あぁ!!」

 相変わらずの念押しをして、天珠は同僚の方へ駆けていく。
 残された2人は、嵐が過ぎ去ったような気分だった。

「……とりあえず、並びましょうか。」
「……律儀だな、唄子よ……。」

 改めて手を繋ぐ。そうして2人は、戦艦長門見学の列へ足を進めるのだった。

 ◇

 月の滲む、夜。真っ暗な海とそこに浮かぶ軍艦たちの明かりを眺めながら、唄子は海辺でぼんやりと休憩していた。

 英霊達の記念日観光は無事、終了。夜見之宮と東郷平八郎に導かれて、彼等は冥府へと帰って行った。
 口々にお礼を言われ、満足げな男たちが次々と光の粒へなっていく。その光景は、かつてないほど胸が温まるものだった。

「おう。こんな所に居たのか」

 聞こえた声に振り返る唄子。
 
「長澤さん……!」

 よっ、と軽く手を掲げた髭面の軍人が、彼女へ歩み寄ってきていた。
 珍しく着崩された軍服。それを風にはためかせながら、彼は唄子の隣へ腰掛けた。

「ほれ。間宮の羊羹。美味いぞ」

 差し出された小さな箱。それを両手で唄子は受け取ると、つい笑いがこぼれてしまった。
 
「涼子ちゃん達にあげたやつですよね?」
「おー。瑞樹達に会ったのか。」
「はい。涼子ちゃんとレイ子ちゃん、嬉しそうにしてましたよ。」
「……そりゃよかった」

 見上げれば、穏やかに微笑む長澤の顔があった。どこか熱のこもった表情。あの再会以来、たまに見せてくれるようになったものだ。

 よかったな、と。唄子は胸が熱くなる。
 ほんの少しでも、恩返しが出来ただろうか。

「……そういやぁ、初めて会ったのもこんな海辺の公園だったな。ありゃあ横浜だったか。」

 波音を聞きながら、長澤が思い出したように呟く。それに唄子は頷いた。

「はい……。年が明けてすぐくらい……。」
「てこたぁ、もう半年かぁ。はえぇな。」

 2人を包むように潮風が駆ける。それはもう、あの日の刺すような冷たさはない。

「今日は楽しかったか?」
「はい!」

 長澤の問いかけに、唄子は嬉々として報告を始めた。
 軍楽隊の演奏に感動したこと。長門の船内に驚いたこと。瑞樹、天珠、照昌の様子。
 そして何より、英霊達を呼ぶことができたこと。そこで分かった次の課題。

「基礎体力、ねえ。」
「はい!明日からまた、執務室で訓練できますよね?」
「……」

 静かに復唱する隊長へ、唄子は当然の確認をする。
 鎮守府へ行けなかったこの2週間は、彼女にとって退屈で寂しい日中だったのだ。

 そんな彼女を見つめる長澤は、胸がチクリと痛む。

(お前、もうこの部隊で訓練する必要なんてねぇくせに……)

 そう思うが、口にはしない。

 横浜で出会った、死にかけの顔をした少女。あの頃は生きさせる為に連れて来ただけだった。執務室も、自分の家も。
 そんな彼女はもういない。華やかな着物に見合う凛々しさで、自身の歌を使いこなし、常に高みを見据えて顔を上げている。

 生きる為とはいえ、自分がいかに残酷なことをしたのか。長澤は自嘲せざるをえなかった。

「……片付けあるから、6月入ったらな。」

 そう誤魔化して、唄子の髪をワシワシと撫でる。
 不満げに膨れる頬。笑って流してデコピンをお見舞いした。

「長澤はーん!小野ちゃーん!」

 そこへ聞こえてきた照昌の声。振り向けば、手を振る彼の隣には瑞樹までいる。その背に背負われているのは、天珠のようだ。

「帰って二次会しよーやー!!神宮寺はんも来れるてぇー!!」
「はーい!」

 返事をしながら、唄子が立ち上がる。そして彼女は、こちらへ手を差し伸べる。

「行きましょう、長澤さん!」
「……あぁ。」

 月に照らされた彼女の可愛らしさたるや。妬けるにも程がある。
 だがその穏やかな明かりこそが、彼女に相応しいのだろう。

 唄子の手を取らず、長澤は立ち上がった。
 そして歩き出す彼等。唄子の方は、あっという間に照昌に追いついて行った。

「あの……堂児さん、大丈夫ですか……?」

 背負われた天珠を気遣わしげに見上げる唄子。
 
「呼ばれて迎えに行ったらもーベロベロ!あり得へんやろ?」

 文句を言いながら、彼の荷物を持っている照昌。
 
「……酒呑童子は、お酒に酔ったところを渡辺綱によって討ち取られていますからね……。恐らく堂児も、その影響というか、遺伝と言うか……。」

 解説と共に苦笑いを浮かべながら、背負い直す瑞樹。
 
「んん……とーごー閣下ぁ……ひろせ中佐ぁ……」

 真っ赤な顔で目を回している天珠。

「家より、行きつけにでも行くかぁ。」

 そう言いながら、長澤は彼らに合流する。並んで、夜の横須賀へ繰り出した。

 大海原の向こうの暗雲も光も、長澤だって分かっている。
 独逸が西班牙(スペイン)へ空爆を仕掛けた。一方仏蘭西では万国博覧会が行われている。この先、どちらへ向かうのか。それを知るのは神のみだろう。

 唄子が「海軍」で居られるほどの平穏が、可能な限り長く続けばいい。

 そんな軍人らしからぬ願いを、長澤は胸に抱かずにはいられなかった。