岬に向かうため島の外周をぐるりと歩いていると、遠くで戦闘機が空を飛んでいくのが見えた。訓練かなんかを終えて、本土にある航空基地へ戻るのだろうか。
こんなに近くに自分たちを守る大きな力がある。そのはずなのに、心細い。
海沿いの道から眺める空は相変わらず晴れていて、波も穏やかだ。陽那島の西に位置する大島がよく見える。
天気も人の事情など気にしてはくれない――夜中に夢で反芻した動画のことを考えそうになって、やめた。
やがて、比丘尼様の姿が遠くに見えてくる。石灯籠の明かりは、昨日から変わらず燃え続けているようだ。
しかし、なにかがおかしい。なにかが違う。
藪内が駆け出した。慌てて俺もあとを追う。次第に、惨状が露わになっていく……。
比丘尼様の祭壇は、荒らされていた。木の骨組みは折れ曲がり、白い敷き布は地面に引きずりおろされて汚れている。海の幸の尾頭付きの鯛、山の幸の野菜も地面に落ちて転がり、酒瓶には割れているものもあった。
最初は、動物に荒らされたのかと思った。しかし、もっとも手を付けやすそうな鯛や果物が手付かずのままになっている。
それだけではない。
「……これ、血……?」
白い敷き布に、べっとりと付いた赤いものを発見して、藪内が震える声でつぶやいた。
尋常な様子ではない。ここでなにかがあったんだ。俺は辺りを見回した。すると、倒れた祭壇の陰に黒く光るものを見つけた。
画面のひび割れたスマホだった。
俺が拾い上げると、すぐに藪内が横から取り上げた。バッテリーはまだ生きているらしく、持ち上げたことでロック画面が表示される。仲睦まじい母と息子――そしてその背景画像をよくよく眺める間もなく、藪内の顔を認識してロックが解除された。
「これ、オカンの……」
藪内の指が、自分自身からの大量の通知をなぞる。メッセージの受信通知、通話の着信通知。そのうちのひとつをタップしてメッセージアプリを開き、大量の未読バッジを確認したあと、藪内はアプリを切り替えようとした。
と、カメラアプリが立ち上がったままになっていることに気づく。
藪内はカメラアプリを開き、新たに撮影された動画が存在することを知った。
最初、なにを見ているのかわからなかった。
真っ暗ななか、スマホのカメラが明かりを拾い、明度が自動で調節される。一瞬だけ映ったのは、比丘尼様の祭壇と、白飛びした石灯籠の明かり。それから、その向こうに蠢く人影だ。姿かたちは判然としないが、白い人影が、いち、に、さん……。
と、撮影者――藪内の母が一歩踏み出す。ザッザッザッ。岬の入り口に群生する低木の茂みから出て、姿を隠す場所などない一本道を猛然と歩いていく。
「ちょっと、あんたたち! 祭壇を荒らすなんて、どういうつもり? 撮影をしたいんなら、正々堂々と……」
一歩踏み出すごとに画面が揺れて、なにが写っているのかあまりよく見えない。
しかし、言葉の途中で「ぎゃっ!」と叫び声があがった。
ザザザッとマイクがなにかに擦れる音がして、カメラは無理に明度をあげたためにざらついた虚空を写すばかりになる。
画面の端に、へし折られた木材が見えた――破壊された祭壇だ。
藪内の母は、木材につまずいて転んだのか。いや……。
ゴッ、ゴッ、ゴッ。
「急になにす……あっ! 痛っ! やめ、っ! やめてぇ! ぐっ、あ゙、やめろぉ!」
繰り返し、何度も。
鈍い打撃音と、短い叫び声が響く。画面にはなにも写っていないが、その声だけで、なにが行われているのかがわかる。
「ひいっ、ぐすっ、やめ、っあ゙、あ゙あ゙あ゙……」
いや、なにも写っていないからこそ、想像と恐怖が暴走しそうになる。足がガクガク震える。目の前がグラグラ揺れる。吐き気がする。
俺は藪内の表情を窺った。藪内は目を見開いて、動画を凝視していた。
こんなものは、見るべきではない。肉親が傷つけられる場面など、見てはならない。
――一生記憶に焼き付いて、忘れられなくなる。
再生を止めさせようとしたが、藪内は「離せよ!」と大きく腕を振った。そのまま、手のうちのスマホを守るように、背中を丸めて座り込む。
動画はまだ続いているようだ。
聞こえてくる悲鳴は次第に小さくなり、なにかを引きずるような物音がする。
ズル……ズル……。
そして、濡れた足音があとに続く。
ペタ……ペタ……。
懇願する声が、風の向こうに遠ざかる。
「痛い……痛い……離して……離してぇ……」
そして、なにごとかつぶやく、かすかな声も、遠ざかっていった。
「……えして……してよぅ……」
――惨劇のリプレイが、終わった。
俺は呆然と視線を巡らせて、破壊された祭壇の近く、地に落ちた敷き布に隠されていた血の痕を発見する。土が血を吸ってできた、どす黒い痕。
目を凝らせば……風と、俺たち自身の足跡によって消されてしまっているものの、その血溜まりから岬の一本道に、まっすぐと、たしかになにかを引きずっていった痕跡が残っている。
……なにかだって? 藪内の母親だ。
俺はこみあげてきた吐き気に、地面に膝をついて、口を抑えた。なんとか吐かずに、唾を飲み込む。
「っはあ……はぁ……はぁ……」
息を整えながら、藪内を見る。動画の再生は止まった。しかし藪内は、スマホを覗き込んだまま、うずくまっている。衝撃に、脳が、身体が、ついていかないのだろう。
その感覚を、よく知っていた。
俺は、自分をぶん殴りたくなった。藪内の母が行方不明だと聞かされて、無意識にだろうと、一瞬でも「いい気味だ」と思った自分を。残酷な動画を見つめる藪内の手から、なんとしてでもスマホをもぎとらなかった自分を。
自分のような思いをする人間を、もう一人も生み出したくないと願っていたのに。
「っ、そうだ、救急車……いや、警察……!」
自分のスマホを尻ポケットから取り出し、震える手で電話を掛けようとする。しかし、わからなくなる。110番でいいのか? いいはずだ。電話をかければ所轄の警察署に繋がって、最寄りの駐在所に……つまり……。頼りないあの警官の顔が浮かんで、躊躇を通り越して絶望しそうになる。
そして、気づいた。
俺も……母親と連絡がつかない。
昨夜から連絡を取っていない。今朝、目覚めてそのまま藪内のあとを追ってきたから、送るはずだったメッセージも送っていない。けれど、だからこそおかしい。安否のわからないままの藪内の母を、そして返信のない俺を心配して、なにかしら連絡をしてきてもよさそうなものだ。
しかし、取り出したスマホに、母からの着信通知はなかったのだ。
「えっ……」
全身から血の気が引いていく。
まさか。まさか、そんな、恐ろしいことが同時に起こるはずはない。
そう思おうとするけれど、また呼吸が早くなっていく。
藪内は、ゆっくりと顔を上げ、俺を見た。
「……」
呆れたような、諦めたような表情をしていた。彼は立ち上がると、母親のスマホをバックパックのなかに丁寧な手つきで収めた。
そして、駆け出した。
俺は慌ててあとを追った。
普段の体育の授業では、俺のほうが優秀だ。体格もいいし、体力もある。けれど、今日は藪内のほうがずっと速かった。立ち止まらなかった。俺よりも不安と恐怖が強いぶん、アドレナリンが過剰に出ているのかもしれなかった。
俺は遠くに藪内の背中を見ながら、もたつく指で母親に電話をかけた。通じない。「お掛けになった電話は、電波の届かない場所にある、または電源が入っていないため――」。なんどリダイヤルしても通じない。かけ直すごとに焦りが募っていく。
やがて俺は町に戻ってきた。相変わらず、人の姿は見えない。
唯一、藪内が駐在所の前で前かがみになり、ぜえぜえと息を喘がせている。ようやく追いついて隣に並んだ俺を見ないまま、藪内はつぶやいた。
「……っ、死んでない……」
「え?」
「オカンは、死んでない……まだどこかで生きてる」
「ああ……」
たしかに、そうだ。動画が終わる最後の一瞬まで、かすかだけれど、遠くで、抵抗する声がしていた。俺たちは、彼女が死ぬのを見たわけではない。
「警察に、助けを……」
藪内はきれぎれの息を整えきらないうちに、背を伸ばすと、駐在所の戸に手をかけた。
ガラリ。引き戸を開けても、なかに人の姿は見えなかった。
まだパトロールから戻ってきていないのだろうか。しかし……外には自転車が停まっていた。いや、停まるというよりは、乗り捨てられていた。スタンドも立てられず、横倒しになったまま、放置されていた。
……なんだか嫌な予感がした。
「すみませーん! おまわりさん! いませんか!?」
藪内が声を張り上げる。
駐在所は入ってすぐの一間が、応接セットとキャビネット、デスクの置かれた仕事部屋になっている。その部屋の奥に扉があって、そこから先が恐らく私室だ。
藪内は私室へ続く扉の前に立ち、ちょうど目線の高さに填め込まれた明かり採りの窓に顔を近づけた。磨りガラスの向こうにあるものを見ようとするように。
やがて藪内が囁くようにして言った。
「……うめき声がする」
俺は慌てて藪内のそばへ近づいた。同じようにして扉に顔を近づける。
「ゥ……ゥウ……」
たしかに、かすかなうめき声が聞こえた。
至近距離の藪内と目が合う。不安と、恐怖と、疑念。
俺は反射的にドアノブに手をかけ、扉を開けようとした。しかし、鍵がかかっているようで開かない。
ガチャガチャガチャ。静かな駐在所に、ドアノブを乱暴に回す音が響いた。
俺はその音に負けないよう、声を張って呼びかける。
「おまわりさん! だいじょうぶですか? 怪我をしているんですか?」
そのとき頭にあったのは、この警官も、藪内の母を襲った何者かに襲撃されたのではないかという考えだった。パトロールのさなかに襲われ、自転車に乗って逃げ帰り、怯えて私室の奥に立てこもったのではないかと。
「ヴ……ゥヴウ……」
「俺たちです! ついさっき、ここに来て相談した、高校生の二人組です! 藪内と高遠!」
必死に呼びかけ、扉を叩く。しかし、うめき声は遠くにあるままだ。
俺の頭に浮かぶ映像は、最悪の結末に近づいていく。やわらかい腹の肉を食い破られ、腹腔から内臓がこぼれ落ち、血をだくだくと流しながら、死に近づいていく男。
「藪内、どいてろ」
「は?」
俺は執務室へ戻ると、応接セットの椅子を抱えあげた。背の低い、脚付きの一人掛けソファだ。
そして、それを高く掲げると――扉へ向かって思い切り放り投げた。
「おいおいおいおい!」
藪内が悲鳴のような声をあげながら、飛びのいた。ガン! とも、バキ! とも付かない音がして、扉はガタンと外れた。蝶番が壊れたようだ。
本当は明かり採りの窓を割って、そこから腕を入れて鍵を開けようと思っていたのだが、まあいい。
「ふざけんなよ! あんた、ほんっと信じらんねえ! ゴリラかよ!」
藪内が喚いているが、無視して扉の前からソファをどかす。
「入ります」
儀礼的に告げて、戸口にかろうじてひっかかっていた扉を足先で押した。バタン、と扉があちら側へ倒れる。
扉の向こうは、小上がりの座敷になっていた。どうやら休憩室らしい。ちゃぶ台と座布団が並ぶ座敷の隅に、あの警官が腹を押さえてうずくまっている。
ちゃぶ台の上には警官が腰につける帯革が、銃や手錠などの携行品もそのままに投げ置かれていた。
「ヴ……ウァア゙ア゙ー」
苦しそうにうめきながら、警官は畳を搔きむしった。
ガリ……ガリ……。
「だいじょうぶですか!?」
俺は土足のまま、座敷に駆けのぼる。そのあいだにも、畳を搔きむしる動きは激しくなり、爪の先から血が滲みそうなほどに激しく引っ掻く。
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ。
俺の手が、青い制服の肩に触れた瞬間。
「ウバァ!」
突然、警官が顔を上げた。ぎょろりと目を剥いて、こちらを見る。白目がひどく充血していて、黒目の焦点が合っていない。がばあと大きく開いた咥内では、粘っこい唾液が何本も糸を引いている。
「ヴー……ヴヴヴヴー……」
警官は喉の奥でうめきながら、はあ、はあ、はあ、と早いペースで口から息をしている。病気の犬みたいだ。頭のどこかで思った。
――次の瞬間、すべてがスローモーションになった。
「ガァッ!」
警官が、俺に飛びかかってきた。
ためらいを一切感じさせない、目測もなにもない動きで、額と額がしとどにぶつかる。
「いってえ!」と叫びながら畳に転がる俺の身体の上に、「ギャギャギャギャッ!」と興奮した猿のような声をあげながら、警官がのしかかる。がばあっと大きく開いた口が、今にも俺の喉元に食らいつこうとする。
そのとき。
パン、と乾いた音がした。なにかが警官の背をめがけて飛んできて、やつの気が逸れる。
その隙を狙って、俺はやつの股間を思い切り蹴り上げた。
「ギイッ!」
警官が床にひっくり返ってもんどりうつ。俺は起き上がって、入ってきた扉のほうへ駆けた。藪内がエアガンを手に、荒い息をついている。さっきの乾いた音は、BB弾を発射した音のようだ。
「助かった、逃げるぞ!」
しかし藪内は逃げようとしない。「グルルル……」と喉を鳴らしながらうずくまる警官の姿を、じっと見ている。
ふと、カツン、と軽い音がした――藪内がエアガンを床に捨てたのだ。
「援護してください」
「は?」
藪内は言い捨て、急に駆け出した。ちゃぶ台の上の帯革から警棒を抜き取って、瞬時に延ばす。その勢いのまま、反応して起き上がろうとした警官の顔面をぶん殴った。
一度。間髪入れずに、もう一度。二度。三度。
「ギャッ! ギャッ! ギャッ!」
鈍い音と叫び声が繰り返し聞こえる。先ほど見た動画が眼裏に蘇る。立ち尽くす俺に背を向けたまま、藪内は叫んだ。
「早く抜けよ!」
「え?」
藪内は警官の身体に跨ると、警棒で警官の首根っこを押さえる。畳に金属の棒がくっつくほど強く押し付けられて、警官が「ゲェ」と潰れた蛙のような声をあげる。
「拳銃!」
もう一度。藪内に怒鳴られ、俺は訳のわからぬまま帯革のホルスターに取りついた。震える手で黒光りするリボルバーを取り出す。手のひらのうえで、ずしりと重い。
犯罪だ。警官でもないのに銃を持つなんて、こんなのは犯罪……。
「ヴー!」
ガチン! 警官が動きを封じられてなお藪内に噛みつこうと、歯を打ち鳴らす。
ガチン、ガチン、ガチン。
「撃てよ! 早く! なあ!」
繰り返し怒鳴られても、藪内が警官に覆いかぶさっている状態で、どうすればいいのかわからない。いや、本当はわかっている。無防備な頭を撃てと言われている。だが……。
俺は、唇を噛みしめて首を横に振った。
こんなことをする必要はない。
藪内は、下瞼に皺を刻む、あの嘲笑を浮かべた。
「警官を目指してるくせに、こんなときに銃も撃てないんですか? 笑える」
それから、「かわって」と冷徹な声色で命令を下した。
俺は、藪内に向かい合うよう、警官の頭の側から警棒を押さえた。藪内の手に添えるようにして、手と手が触れ合う。
「はは」
従順な俺を、藪内が嗤う。
警官は変わらず目を剥き、ガチガチと歯を鳴らし、俺たちを襲おうとしている。……いずれにせよ拘束を解くわけにはいかない。それだけだ。
そうして藪内は、俺が無造作に畳に置いた拳銃を手に取った。身体をずらして、銃口を青い制服の胸に押し当てた。
その一連の滑らかな動きがなにを意味するか認識するよりも先に、ドン、と重い衝撃があった。
警棒越しに押さえ込んでいた身体から力が抜けていく。警官の血走った目から光が失われていく。顎の力が抜け、噛み鳴らしていた歯列がぽかりと開き、部屋は沈黙に包まれる。
――俺の心臓の音だけが、バクバクとうるさい。
「え……ころ……?」
あまりにあっけなくて、信じられなかった。
俺の気の抜けた声音が癇に障ったのか、藪内が叫ぶ。
「はあ!? まだ生ぬるいこと言ってるんすか!? オカンはこいつに襲われたんですよ!」
呆然と見つめる警官の制服の胸に、じわじわと血の染みが広がっていく。
俺は藪内のつけたその染みのすぐ下に、似たような染みがあることに気がついた。よくよく見れば制服のベルトは外され、シャツがズボンのウエストからはみ出している。
もうひとつ、怪我をしている?
「……」
「なにが飲みすぎだよ、クソクソクソ!」
藪内が怒りに身を任せて警棒を手に取り、振りかぶる。文字どおり、死人に鞭を打とうとして。
「藪内!」
名前を呼んで、制止する。こちらに視線を向けた藪内は、やはり嗤っていた。
俺は、ひとつ息を吸い込んでから言った。
「そいつじゃない。……少なくとも、そいつだけじゃない」
「は?」
「例の動画。祭壇を荒らしてるやつらに立ち向かっていったおまえの母親は、後ろから襲われただろ。だから犯人は、最低でも二人。……動画では三人以上、人影があるみたいだった」
「……」
藪内は勢いを削がれたように、ぐるりと目を回してみせた。振りかぶった警棒を下ろし、けれど手からは離さない。
俺は、小さく息を吐いた。
……頭がガンガンする。とにかくこの場から離れたい。落ち着いて起きたことを考えたい。
自分の母親の無事を確かめたい。
ふらふらと立ち上がり、休憩室の出口へと向かう。藪内は舌打ちをして、俺のあとを追ってきた。そして俺の手に拳銃を――さっき人をひとり殺した、殺すことのできる、本物の拳銃を押し付けた。
「あんたも。武器が要るでしょ」
怒りなのか、悲しみなのか。激しい感情が喉元までこみあげて、俺は息を詰めた。
「っ……殺す必要なかった!」
「あんなの、正当防衛すよ」
「過剰防衛だろ!」
そのとき、背後から、うめき声が聞こえた。
「ア゙ア゙ア゙ァ゙……」
俺たちは、ゆっくりと後ろを振り向いた。
そこにあるのは、死体のはずだった。
しかし、目の前でこと切れたはずの警官は、ゆらりと立ち上がっていた。自らの血に汚れた両手を、両腕を、こちらにだらりと伸ばす――なおも俺たちを捕まえようとするように。
「まだ、生きてた……?」
混乱と恐怖が背筋を這いのぼる。
「あーあ、マジかぁ」
藪内はかったるそうにつぶやくと、警棒を握り直し、警官に飛びかかった。
こんなに近くに自分たちを守る大きな力がある。そのはずなのに、心細い。
海沿いの道から眺める空は相変わらず晴れていて、波も穏やかだ。陽那島の西に位置する大島がよく見える。
天気も人の事情など気にしてはくれない――夜中に夢で反芻した動画のことを考えそうになって、やめた。
やがて、比丘尼様の姿が遠くに見えてくる。石灯籠の明かりは、昨日から変わらず燃え続けているようだ。
しかし、なにかがおかしい。なにかが違う。
藪内が駆け出した。慌てて俺もあとを追う。次第に、惨状が露わになっていく……。
比丘尼様の祭壇は、荒らされていた。木の骨組みは折れ曲がり、白い敷き布は地面に引きずりおろされて汚れている。海の幸の尾頭付きの鯛、山の幸の野菜も地面に落ちて転がり、酒瓶には割れているものもあった。
最初は、動物に荒らされたのかと思った。しかし、もっとも手を付けやすそうな鯛や果物が手付かずのままになっている。
それだけではない。
「……これ、血……?」
白い敷き布に、べっとりと付いた赤いものを発見して、藪内が震える声でつぶやいた。
尋常な様子ではない。ここでなにかがあったんだ。俺は辺りを見回した。すると、倒れた祭壇の陰に黒く光るものを見つけた。
画面のひび割れたスマホだった。
俺が拾い上げると、すぐに藪内が横から取り上げた。バッテリーはまだ生きているらしく、持ち上げたことでロック画面が表示される。仲睦まじい母と息子――そしてその背景画像をよくよく眺める間もなく、藪内の顔を認識してロックが解除された。
「これ、オカンの……」
藪内の指が、自分自身からの大量の通知をなぞる。メッセージの受信通知、通話の着信通知。そのうちのひとつをタップしてメッセージアプリを開き、大量の未読バッジを確認したあと、藪内はアプリを切り替えようとした。
と、カメラアプリが立ち上がったままになっていることに気づく。
藪内はカメラアプリを開き、新たに撮影された動画が存在することを知った。
最初、なにを見ているのかわからなかった。
真っ暗ななか、スマホのカメラが明かりを拾い、明度が自動で調節される。一瞬だけ映ったのは、比丘尼様の祭壇と、白飛びした石灯籠の明かり。それから、その向こうに蠢く人影だ。姿かたちは判然としないが、白い人影が、いち、に、さん……。
と、撮影者――藪内の母が一歩踏み出す。ザッザッザッ。岬の入り口に群生する低木の茂みから出て、姿を隠す場所などない一本道を猛然と歩いていく。
「ちょっと、あんたたち! 祭壇を荒らすなんて、どういうつもり? 撮影をしたいんなら、正々堂々と……」
一歩踏み出すごとに画面が揺れて、なにが写っているのかあまりよく見えない。
しかし、言葉の途中で「ぎゃっ!」と叫び声があがった。
ザザザッとマイクがなにかに擦れる音がして、カメラは無理に明度をあげたためにざらついた虚空を写すばかりになる。
画面の端に、へし折られた木材が見えた――破壊された祭壇だ。
藪内の母は、木材につまずいて転んだのか。いや……。
ゴッ、ゴッ、ゴッ。
「急になにす……あっ! 痛っ! やめ、っ! やめてぇ! ぐっ、あ゙、やめろぉ!」
繰り返し、何度も。
鈍い打撃音と、短い叫び声が響く。画面にはなにも写っていないが、その声だけで、なにが行われているのかがわかる。
「ひいっ、ぐすっ、やめ、っあ゙、あ゙あ゙あ゙……」
いや、なにも写っていないからこそ、想像と恐怖が暴走しそうになる。足がガクガク震える。目の前がグラグラ揺れる。吐き気がする。
俺は藪内の表情を窺った。藪内は目を見開いて、動画を凝視していた。
こんなものは、見るべきではない。肉親が傷つけられる場面など、見てはならない。
――一生記憶に焼き付いて、忘れられなくなる。
再生を止めさせようとしたが、藪内は「離せよ!」と大きく腕を振った。そのまま、手のうちのスマホを守るように、背中を丸めて座り込む。
動画はまだ続いているようだ。
聞こえてくる悲鳴は次第に小さくなり、なにかを引きずるような物音がする。
ズル……ズル……。
そして、濡れた足音があとに続く。
ペタ……ペタ……。
懇願する声が、風の向こうに遠ざかる。
「痛い……痛い……離して……離してぇ……」
そして、なにごとかつぶやく、かすかな声も、遠ざかっていった。
「……えして……してよぅ……」
――惨劇のリプレイが、終わった。
俺は呆然と視線を巡らせて、破壊された祭壇の近く、地に落ちた敷き布に隠されていた血の痕を発見する。土が血を吸ってできた、どす黒い痕。
目を凝らせば……風と、俺たち自身の足跡によって消されてしまっているものの、その血溜まりから岬の一本道に、まっすぐと、たしかになにかを引きずっていった痕跡が残っている。
……なにかだって? 藪内の母親だ。
俺はこみあげてきた吐き気に、地面に膝をついて、口を抑えた。なんとか吐かずに、唾を飲み込む。
「っはあ……はぁ……はぁ……」
息を整えながら、藪内を見る。動画の再生は止まった。しかし藪内は、スマホを覗き込んだまま、うずくまっている。衝撃に、脳が、身体が、ついていかないのだろう。
その感覚を、よく知っていた。
俺は、自分をぶん殴りたくなった。藪内の母が行方不明だと聞かされて、無意識にだろうと、一瞬でも「いい気味だ」と思った自分を。残酷な動画を見つめる藪内の手から、なんとしてでもスマホをもぎとらなかった自分を。
自分のような思いをする人間を、もう一人も生み出したくないと願っていたのに。
「っ、そうだ、救急車……いや、警察……!」
自分のスマホを尻ポケットから取り出し、震える手で電話を掛けようとする。しかし、わからなくなる。110番でいいのか? いいはずだ。電話をかければ所轄の警察署に繋がって、最寄りの駐在所に……つまり……。頼りないあの警官の顔が浮かんで、躊躇を通り越して絶望しそうになる。
そして、気づいた。
俺も……母親と連絡がつかない。
昨夜から連絡を取っていない。今朝、目覚めてそのまま藪内のあとを追ってきたから、送るはずだったメッセージも送っていない。けれど、だからこそおかしい。安否のわからないままの藪内の母を、そして返信のない俺を心配して、なにかしら連絡をしてきてもよさそうなものだ。
しかし、取り出したスマホに、母からの着信通知はなかったのだ。
「えっ……」
全身から血の気が引いていく。
まさか。まさか、そんな、恐ろしいことが同時に起こるはずはない。
そう思おうとするけれど、また呼吸が早くなっていく。
藪内は、ゆっくりと顔を上げ、俺を見た。
「……」
呆れたような、諦めたような表情をしていた。彼は立ち上がると、母親のスマホをバックパックのなかに丁寧な手つきで収めた。
そして、駆け出した。
俺は慌ててあとを追った。
普段の体育の授業では、俺のほうが優秀だ。体格もいいし、体力もある。けれど、今日は藪内のほうがずっと速かった。立ち止まらなかった。俺よりも不安と恐怖が強いぶん、アドレナリンが過剰に出ているのかもしれなかった。
俺は遠くに藪内の背中を見ながら、もたつく指で母親に電話をかけた。通じない。「お掛けになった電話は、電波の届かない場所にある、または電源が入っていないため――」。なんどリダイヤルしても通じない。かけ直すごとに焦りが募っていく。
やがて俺は町に戻ってきた。相変わらず、人の姿は見えない。
唯一、藪内が駐在所の前で前かがみになり、ぜえぜえと息を喘がせている。ようやく追いついて隣に並んだ俺を見ないまま、藪内はつぶやいた。
「……っ、死んでない……」
「え?」
「オカンは、死んでない……まだどこかで生きてる」
「ああ……」
たしかに、そうだ。動画が終わる最後の一瞬まで、かすかだけれど、遠くで、抵抗する声がしていた。俺たちは、彼女が死ぬのを見たわけではない。
「警察に、助けを……」
藪内はきれぎれの息を整えきらないうちに、背を伸ばすと、駐在所の戸に手をかけた。
ガラリ。引き戸を開けても、なかに人の姿は見えなかった。
まだパトロールから戻ってきていないのだろうか。しかし……外には自転車が停まっていた。いや、停まるというよりは、乗り捨てられていた。スタンドも立てられず、横倒しになったまま、放置されていた。
……なんだか嫌な予感がした。
「すみませーん! おまわりさん! いませんか!?」
藪内が声を張り上げる。
駐在所は入ってすぐの一間が、応接セットとキャビネット、デスクの置かれた仕事部屋になっている。その部屋の奥に扉があって、そこから先が恐らく私室だ。
藪内は私室へ続く扉の前に立ち、ちょうど目線の高さに填め込まれた明かり採りの窓に顔を近づけた。磨りガラスの向こうにあるものを見ようとするように。
やがて藪内が囁くようにして言った。
「……うめき声がする」
俺は慌てて藪内のそばへ近づいた。同じようにして扉に顔を近づける。
「ゥ……ゥウ……」
たしかに、かすかなうめき声が聞こえた。
至近距離の藪内と目が合う。不安と、恐怖と、疑念。
俺は反射的にドアノブに手をかけ、扉を開けようとした。しかし、鍵がかかっているようで開かない。
ガチャガチャガチャ。静かな駐在所に、ドアノブを乱暴に回す音が響いた。
俺はその音に負けないよう、声を張って呼びかける。
「おまわりさん! だいじょうぶですか? 怪我をしているんですか?」
そのとき頭にあったのは、この警官も、藪内の母を襲った何者かに襲撃されたのではないかという考えだった。パトロールのさなかに襲われ、自転車に乗って逃げ帰り、怯えて私室の奥に立てこもったのではないかと。
「ヴ……ゥヴウ……」
「俺たちです! ついさっき、ここに来て相談した、高校生の二人組です! 藪内と高遠!」
必死に呼びかけ、扉を叩く。しかし、うめき声は遠くにあるままだ。
俺の頭に浮かぶ映像は、最悪の結末に近づいていく。やわらかい腹の肉を食い破られ、腹腔から内臓がこぼれ落ち、血をだくだくと流しながら、死に近づいていく男。
「藪内、どいてろ」
「は?」
俺は執務室へ戻ると、応接セットの椅子を抱えあげた。背の低い、脚付きの一人掛けソファだ。
そして、それを高く掲げると――扉へ向かって思い切り放り投げた。
「おいおいおいおい!」
藪内が悲鳴のような声をあげながら、飛びのいた。ガン! とも、バキ! とも付かない音がして、扉はガタンと外れた。蝶番が壊れたようだ。
本当は明かり採りの窓を割って、そこから腕を入れて鍵を開けようと思っていたのだが、まあいい。
「ふざけんなよ! あんた、ほんっと信じらんねえ! ゴリラかよ!」
藪内が喚いているが、無視して扉の前からソファをどかす。
「入ります」
儀礼的に告げて、戸口にかろうじてひっかかっていた扉を足先で押した。バタン、と扉があちら側へ倒れる。
扉の向こうは、小上がりの座敷になっていた。どうやら休憩室らしい。ちゃぶ台と座布団が並ぶ座敷の隅に、あの警官が腹を押さえてうずくまっている。
ちゃぶ台の上には警官が腰につける帯革が、銃や手錠などの携行品もそのままに投げ置かれていた。
「ヴ……ウァア゙ア゙ー」
苦しそうにうめきながら、警官は畳を搔きむしった。
ガリ……ガリ……。
「だいじょうぶですか!?」
俺は土足のまま、座敷に駆けのぼる。そのあいだにも、畳を搔きむしる動きは激しくなり、爪の先から血が滲みそうなほどに激しく引っ掻く。
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ。
俺の手が、青い制服の肩に触れた瞬間。
「ウバァ!」
突然、警官が顔を上げた。ぎょろりと目を剥いて、こちらを見る。白目がひどく充血していて、黒目の焦点が合っていない。がばあと大きく開いた咥内では、粘っこい唾液が何本も糸を引いている。
「ヴー……ヴヴヴヴー……」
警官は喉の奥でうめきながら、はあ、はあ、はあ、と早いペースで口から息をしている。病気の犬みたいだ。頭のどこかで思った。
――次の瞬間、すべてがスローモーションになった。
「ガァッ!」
警官が、俺に飛びかかってきた。
ためらいを一切感じさせない、目測もなにもない動きで、額と額がしとどにぶつかる。
「いってえ!」と叫びながら畳に転がる俺の身体の上に、「ギャギャギャギャッ!」と興奮した猿のような声をあげながら、警官がのしかかる。がばあっと大きく開いた口が、今にも俺の喉元に食らいつこうとする。
そのとき。
パン、と乾いた音がした。なにかが警官の背をめがけて飛んできて、やつの気が逸れる。
その隙を狙って、俺はやつの股間を思い切り蹴り上げた。
「ギイッ!」
警官が床にひっくり返ってもんどりうつ。俺は起き上がって、入ってきた扉のほうへ駆けた。藪内がエアガンを手に、荒い息をついている。さっきの乾いた音は、BB弾を発射した音のようだ。
「助かった、逃げるぞ!」
しかし藪内は逃げようとしない。「グルルル……」と喉を鳴らしながらうずくまる警官の姿を、じっと見ている。
ふと、カツン、と軽い音がした――藪内がエアガンを床に捨てたのだ。
「援護してください」
「は?」
藪内は言い捨て、急に駆け出した。ちゃぶ台の上の帯革から警棒を抜き取って、瞬時に延ばす。その勢いのまま、反応して起き上がろうとした警官の顔面をぶん殴った。
一度。間髪入れずに、もう一度。二度。三度。
「ギャッ! ギャッ! ギャッ!」
鈍い音と叫び声が繰り返し聞こえる。先ほど見た動画が眼裏に蘇る。立ち尽くす俺に背を向けたまま、藪内は叫んだ。
「早く抜けよ!」
「え?」
藪内は警官の身体に跨ると、警棒で警官の首根っこを押さえる。畳に金属の棒がくっつくほど強く押し付けられて、警官が「ゲェ」と潰れた蛙のような声をあげる。
「拳銃!」
もう一度。藪内に怒鳴られ、俺は訳のわからぬまま帯革のホルスターに取りついた。震える手で黒光りするリボルバーを取り出す。手のひらのうえで、ずしりと重い。
犯罪だ。警官でもないのに銃を持つなんて、こんなのは犯罪……。
「ヴー!」
ガチン! 警官が動きを封じられてなお藪内に噛みつこうと、歯を打ち鳴らす。
ガチン、ガチン、ガチン。
「撃てよ! 早く! なあ!」
繰り返し怒鳴られても、藪内が警官に覆いかぶさっている状態で、どうすればいいのかわからない。いや、本当はわかっている。無防備な頭を撃てと言われている。だが……。
俺は、唇を噛みしめて首を横に振った。
こんなことをする必要はない。
藪内は、下瞼に皺を刻む、あの嘲笑を浮かべた。
「警官を目指してるくせに、こんなときに銃も撃てないんですか? 笑える」
それから、「かわって」と冷徹な声色で命令を下した。
俺は、藪内に向かい合うよう、警官の頭の側から警棒を押さえた。藪内の手に添えるようにして、手と手が触れ合う。
「はは」
従順な俺を、藪内が嗤う。
警官は変わらず目を剥き、ガチガチと歯を鳴らし、俺たちを襲おうとしている。……いずれにせよ拘束を解くわけにはいかない。それだけだ。
そうして藪内は、俺が無造作に畳に置いた拳銃を手に取った。身体をずらして、銃口を青い制服の胸に押し当てた。
その一連の滑らかな動きがなにを意味するか認識するよりも先に、ドン、と重い衝撃があった。
警棒越しに押さえ込んでいた身体から力が抜けていく。警官の血走った目から光が失われていく。顎の力が抜け、噛み鳴らしていた歯列がぽかりと開き、部屋は沈黙に包まれる。
――俺の心臓の音だけが、バクバクとうるさい。
「え……ころ……?」
あまりにあっけなくて、信じられなかった。
俺の気の抜けた声音が癇に障ったのか、藪内が叫ぶ。
「はあ!? まだ生ぬるいこと言ってるんすか!? オカンはこいつに襲われたんですよ!」
呆然と見つめる警官の制服の胸に、じわじわと血の染みが広がっていく。
俺は藪内のつけたその染みのすぐ下に、似たような染みがあることに気がついた。よくよく見れば制服のベルトは外され、シャツがズボンのウエストからはみ出している。
もうひとつ、怪我をしている?
「……」
「なにが飲みすぎだよ、クソクソクソ!」
藪内が怒りに身を任せて警棒を手に取り、振りかぶる。文字どおり、死人に鞭を打とうとして。
「藪内!」
名前を呼んで、制止する。こちらに視線を向けた藪内は、やはり嗤っていた。
俺は、ひとつ息を吸い込んでから言った。
「そいつじゃない。……少なくとも、そいつだけじゃない」
「は?」
「例の動画。祭壇を荒らしてるやつらに立ち向かっていったおまえの母親は、後ろから襲われただろ。だから犯人は、最低でも二人。……動画では三人以上、人影があるみたいだった」
「……」
藪内は勢いを削がれたように、ぐるりと目を回してみせた。振りかぶった警棒を下ろし、けれど手からは離さない。
俺は、小さく息を吐いた。
……頭がガンガンする。とにかくこの場から離れたい。落ち着いて起きたことを考えたい。
自分の母親の無事を確かめたい。
ふらふらと立ち上がり、休憩室の出口へと向かう。藪内は舌打ちをして、俺のあとを追ってきた。そして俺の手に拳銃を――さっき人をひとり殺した、殺すことのできる、本物の拳銃を押し付けた。
「あんたも。武器が要るでしょ」
怒りなのか、悲しみなのか。激しい感情が喉元までこみあげて、俺は息を詰めた。
「っ……殺す必要なかった!」
「あんなの、正当防衛すよ」
「過剰防衛だろ!」
そのとき、背後から、うめき声が聞こえた。
「ア゙ア゙ア゙ァ゙……」
俺たちは、ゆっくりと後ろを振り向いた。
そこにあるのは、死体のはずだった。
しかし、目の前でこと切れたはずの警官は、ゆらりと立ち上がっていた。自らの血に汚れた両手を、両腕を、こちらにだらりと伸ばす――なおも俺たちを捕まえようとするように。
「まだ、生きてた……?」
混乱と恐怖が背筋を這いのぼる。
「あーあ、マジかぁ」
藪内はかったるそうにつぶやくと、警棒を握り直し、警官に飛びかかった。
