17時を回ると、次第に部屋が暗くなってきた。俺たちはそれ以上、文字を追うのを諦め、夕食を取った。
腹がいっぱいになると、やがて眠くなってくる。これまでに起きたこと。それに対する衝撃。恐怖。絶望。罪悪感。――すべてを押し流す、眠気が襲ってくる。まるで身体を駆け巡っていたアドレナリンの効果が、急に切れたみたいだった。
「おまえ……自分の部屋で寝ろよ……」
「いや、いいすよ……同じ部屋にいたほうが、安全だし……」
リビングルームのソファに横になって、むにゃむにゃと話す。すぐそばのコーヒーテーブルに懐中電灯と拳銃、警棒が並べて置かれていて、忌々しいはずの武器はまばゆい明かりを反射して光っている。
藪内の言うことはもっともだ――一緒にいたほうが安全。だが、自分だけ二人掛けのソファを使っているのはずるいんじゃないか? 藪内よりもずっと図体のでかい俺は、一人掛けのソファになんとか丸くなって眠りに落ちようとしている。
シャワーを浴びたあと藪内に借りた部屋着は丈が足りなくて、手首と足首がスースーする。
藪内が眠たげな声で話しかけてくる。
「今日、思ったんですけど……」
「なに……」
とても瞼を開けていられなくて、俺は目を閉じた。意識が急速にぼやけていく。
「もし状況が違ったら、オレたちもオレたちのオカンみたいに仲良くなれてたんですかね?」
状況が違ったら。藪内がいじめられていなかったら。警官にいじめからの助けを求めて、二次加害に遭わなかったら。俺の父親が事件に巻き込まれて死んでいなかったら。俺の夢が警官じゃなかったら……。
「いや、無理だろ……」
あまりに要素が多すぎるし、それぞれの要素が人格形成に及ぼした影響も大きすぎる。状況が違ったら……それはもう俺たちじゃない。別人だ。
目をつぶっていたから、俺が答えたときの藪内の表情はわからなかった。ただ、小さく息を呑む音がした……ような気がした。
違う、と内心焦る。別におまえを傷つけたかったわけじゃない。
「……おまえ、俺と仲良くなりたいんなら、せめてそのソファ……」
――譲れよ。そういうとこだぞ。
言い終わる前に、俺は眠りに落ちていった。かろうじて、藪内が懐中電灯を消したのがわかった。
次に目を覚ましたとき、部屋は真っ暗だった。ドンドン、ドンドン、と玄関扉を叩く音が耳に届く。
「……」
薄く開いた目に、知らない天井が映っている。ゆっくりと身体を起こすと、藪内がすぐそばのソファで眠っている。
ああ……夢じゃなかった。
ここは藪内の家で。俺たちの母親は行方不明で。外にはゾンビがうじゃうじゃいる。
ずん、と心が重く沈む。
ドンドン、ドンドン。
俺を起こしたノックは、まだ続いている。誰だ? 人間か? ――なぜチャイムを鳴らさない?
藪内を何度か揺さぶったが、目を覚まさない。俺は玄関まで様子を見に行くことにした。
リビングルームから廊下へ出ると、はっきりと音が耳に届いた。
カチャカチャカチャ……と、なにかを繰り返し押す音。それから、ドンドンドンと扉を叩く音。同時に、「あかりん! あかりん、開けて!」と叫ぶ声。
美咲の声だ!
急いでドアスコープから外を覗く。必死の形相でドアを叩く美咲がいる。ほかに人影は見えない。
「助けて! ねえ、開けてよ!」
俺はドアを開けた。突然開いたドアに、「きゃっ!」と声をあげて美咲が飛びのく。俺はその手を掴んで、家に引き込んだ。
「えっ、諒ちゃん!?」
美咲が俺の顔を見上げて、驚きの声をあげる。説明をするまえに、背後でギシッと床の軋む音がした。
リビングルームから藪内が出てきたのだ――俺がコーヒーテーブルに置いてきた拳銃を構え、銃口をこちらに向けている。
「あっ、あかりん……」
美咲は不安そうな声を出す。しかし、銃器に大して興味がないからか、それが藪内の普段持ち歩いていたエアガンと違うことに気づいていないようだ。大きく慌てる様子はない。
一方、藪内は低い声で尋ねた。
「怪我してんの?」
美咲が戸惑いながら答える。
「え? してないけど……」
「……ちゃんと確認しました?」
藪内は俺に、鋭い視線を向けた。これまでも向けられたことのないような、冷たい視線だった。
「いや、まだだ。確認しないで開けて悪かった。でも……」
「確認してないんなら、今、そこでそいつに怪我がないか見てください。早く!」
ぴしゃりとした命令口調。美咲を「そいつ」と呼んだ。俺の胸に、ふたたび藪内への反発が渦巻いていく。
小さな女の子を助けるのに、躊躇する必要はないだろう。大体、美咲が怪我をしていたら――どうするんだ? 外へ放り出すのか? また殺……。
「なに……あかりん、怖いよ……」
俺はしゃがみこんで、怯える美咲と目を合わせた。
「みさきち。怪我をしていないか確かめさせてもらってもいいか?」
「うん……でも、どうやって……? 服は脱ぐの……? やだな……」
俺は藪内を見た。
「懐中電灯を持ってきてくれ」
藪内が、取ってきた懐中電灯でこちらを照らしていて、ひどく眩しい。光源を見ないようにして、俺は美咲に抵抗がないところまで服を脱ぐように頼む。
美咲はコートを脱いで、ためらいながらセーターも脱ぎ、長袖の下着一枚になった。幸いなことに、下着の色は肌色だ――血痕があれば、すぐにわかる。
「嫌じゃなかったら、服の上から軽く触ってもいいか? ボディチェックのイメージで」
美咲がうなずく。俺は藪内を見る。怪我をしていたら、すでに血が滲んでいるか、触れたら痛がるはずじゃないか?
藪内もうなずいた。渋々という表情だった。
了承が得られたので、上半身を調べた。その次は、コーデュロイのズボンごしに下半身も。
美咲は本人の言葉どおり、無傷だった。俺たちは美咲を家に上げ、リビングルームへ連れていった。
懐中電灯の明かりに浮かぶ時計は、午前二時半を示している。
「それで、一体どうしたんだ?」
俺の問いかけに、美咲は震えながら話しはじめた。
――朝起きたら、諒ちゃんとあかりんがいなくて、みんなちょっと困ってた。でも、友介とおねえちゃんが、あかりんは荷物がないから早めに帰ったのかもしれない。諒ちゃんは荷物があるからすぐに戻ってくるだろうって言って、普通にご飯食べて待ってたの。
でも、ふたりともなかなか戻ってこなくて。あたしたちスマホは持ってないけど、友介は今日のためにお母さんからスマホを借りてたから、それで集会所にいる自分のお父さんに連絡したの。
そしたら、「大変なことが起きた」「そのまま学校にいろ」ってだけ連絡が来て……。
でもさあ、「大変なことが起きた」って言われて、じっとしてるの無理じゃんねえ。特に友介みたいな性格だとさ。様子を見に行くって、駆け出していっちゃった。
おねえちゃんとあたしとあおいちゃんとあいちゃんは、ちゃんと学校にいたよ。
でも夕方になって、「帰りましょ」の放送が流れて……おうちに帰ろうかってことになったの。
それで、学校の外に出て……本当に大変なことが起きたんだって、わかった。
「あたしね。小さいころから、よく夢を見てたの」
……急に話が変わった。美咲が必死に言葉を紡ぐのを、うつむいて胸が塞がる思いで聞いていたが、思わず顔を上げる。
美咲は、微笑んでいた。
「夜にね、嫌なことがあると……頭のなかにイメージが浮かんでくるの。その最中は、身体は凍ったみたいに動かないんだけど、頭のなかは自由だから……」
その「夢」のなかで、美咲は岬の人魚像の前に横たわっている。白い装束を着せられて、逃げ出さないように両手両足を後ろで縄に縛られている。そこに、たいそう美しい女性がやってくる。女性は、白い脚絆と白い襦袢を身に着け、襦袢の裾はからげて上から白い腰巻をしている。
彼女は美咲を縛る縄をほどき、どこか遠くへ連れて行ってくれるのだと言う。
「おねえちゃんにも話したことがあるんだけど、おねえちゃんもちょっと前まで同じ夢を見てたんだって」
「『人喰い人魚』の怪談の影響だろ」
藪内がつまらなそうに鼻で笑った。
「服装とか、そのまんまじゃん」
「違う!!」
美咲が突然、大きな声を出した。顔を真っ赤にして怒っている。
「あの女の人は、あたしを助けてくれるの! 人魚様たちは、本当はみんなを助けてくれるんだよ!! なのに、みんなが人を食べる化け物だなんて作り話をするから、怒って呪いをかけたんだよ!!」
昨日、美咲が友介の怪談に顔を強ばらせていたのは――怯えていたわけじゃなく、憤っていたのか。
「呪い?」
藪内が半笑いで尋ねた。美咲はますます反発して、身を乗り出す。
「そうだよ! だからあの怪談みたいに、みんな人喰いの化け物になっちゃったんだ! おねえちゃんだって……おねえちゃんだって……」
美咲は顔をくしゃくしゃにすると、しゃくりあげ始めた。
「うっ、う……おねえちゃんと、あたしは、なんとか家までたどり着いて、ずっと遊んでたの……いつもは怒られるゲームを一晩じゅうして……っう、ひっく……でも、急に部屋の電気が消えて……ブレーカーが落ちてるわけでもなくって……ちょっと様子を見てくるって、おねえちゃんは家の外に出て……ちょっとだけの、はずだったの……うっ、グスッ、でも、隣の家のおじさんが、裸んぼで、胸まで血まみれになって、うちの庭に立ってて……うわああん!」
不思議と美咲の口から、今日まで健在のはずの両親については語られなかった。……美咲にとって、本当の家族とは姉だけだったのかもしれない。
腹がいっぱいになると、やがて眠くなってくる。これまでに起きたこと。それに対する衝撃。恐怖。絶望。罪悪感。――すべてを押し流す、眠気が襲ってくる。まるで身体を駆け巡っていたアドレナリンの効果が、急に切れたみたいだった。
「おまえ……自分の部屋で寝ろよ……」
「いや、いいすよ……同じ部屋にいたほうが、安全だし……」
リビングルームのソファに横になって、むにゃむにゃと話す。すぐそばのコーヒーテーブルに懐中電灯と拳銃、警棒が並べて置かれていて、忌々しいはずの武器はまばゆい明かりを反射して光っている。
藪内の言うことはもっともだ――一緒にいたほうが安全。だが、自分だけ二人掛けのソファを使っているのはずるいんじゃないか? 藪内よりもずっと図体のでかい俺は、一人掛けのソファになんとか丸くなって眠りに落ちようとしている。
シャワーを浴びたあと藪内に借りた部屋着は丈が足りなくて、手首と足首がスースーする。
藪内が眠たげな声で話しかけてくる。
「今日、思ったんですけど……」
「なに……」
とても瞼を開けていられなくて、俺は目を閉じた。意識が急速にぼやけていく。
「もし状況が違ったら、オレたちもオレたちのオカンみたいに仲良くなれてたんですかね?」
状況が違ったら。藪内がいじめられていなかったら。警官にいじめからの助けを求めて、二次加害に遭わなかったら。俺の父親が事件に巻き込まれて死んでいなかったら。俺の夢が警官じゃなかったら……。
「いや、無理だろ……」
あまりに要素が多すぎるし、それぞれの要素が人格形成に及ぼした影響も大きすぎる。状況が違ったら……それはもう俺たちじゃない。別人だ。
目をつぶっていたから、俺が答えたときの藪内の表情はわからなかった。ただ、小さく息を呑む音がした……ような気がした。
違う、と内心焦る。別におまえを傷つけたかったわけじゃない。
「……おまえ、俺と仲良くなりたいんなら、せめてそのソファ……」
――譲れよ。そういうとこだぞ。
言い終わる前に、俺は眠りに落ちていった。かろうじて、藪内が懐中電灯を消したのがわかった。
次に目を覚ましたとき、部屋は真っ暗だった。ドンドン、ドンドン、と玄関扉を叩く音が耳に届く。
「……」
薄く開いた目に、知らない天井が映っている。ゆっくりと身体を起こすと、藪内がすぐそばのソファで眠っている。
ああ……夢じゃなかった。
ここは藪内の家で。俺たちの母親は行方不明で。外にはゾンビがうじゃうじゃいる。
ずん、と心が重く沈む。
ドンドン、ドンドン。
俺を起こしたノックは、まだ続いている。誰だ? 人間か? ――なぜチャイムを鳴らさない?
藪内を何度か揺さぶったが、目を覚まさない。俺は玄関まで様子を見に行くことにした。
リビングルームから廊下へ出ると、はっきりと音が耳に届いた。
カチャカチャカチャ……と、なにかを繰り返し押す音。それから、ドンドンドンと扉を叩く音。同時に、「あかりん! あかりん、開けて!」と叫ぶ声。
美咲の声だ!
急いでドアスコープから外を覗く。必死の形相でドアを叩く美咲がいる。ほかに人影は見えない。
「助けて! ねえ、開けてよ!」
俺はドアを開けた。突然開いたドアに、「きゃっ!」と声をあげて美咲が飛びのく。俺はその手を掴んで、家に引き込んだ。
「えっ、諒ちゃん!?」
美咲が俺の顔を見上げて、驚きの声をあげる。説明をするまえに、背後でギシッと床の軋む音がした。
リビングルームから藪内が出てきたのだ――俺がコーヒーテーブルに置いてきた拳銃を構え、銃口をこちらに向けている。
「あっ、あかりん……」
美咲は不安そうな声を出す。しかし、銃器に大して興味がないからか、それが藪内の普段持ち歩いていたエアガンと違うことに気づいていないようだ。大きく慌てる様子はない。
一方、藪内は低い声で尋ねた。
「怪我してんの?」
美咲が戸惑いながら答える。
「え? してないけど……」
「……ちゃんと確認しました?」
藪内は俺に、鋭い視線を向けた。これまでも向けられたことのないような、冷たい視線だった。
「いや、まだだ。確認しないで開けて悪かった。でも……」
「確認してないんなら、今、そこでそいつに怪我がないか見てください。早く!」
ぴしゃりとした命令口調。美咲を「そいつ」と呼んだ。俺の胸に、ふたたび藪内への反発が渦巻いていく。
小さな女の子を助けるのに、躊躇する必要はないだろう。大体、美咲が怪我をしていたら――どうするんだ? 外へ放り出すのか? また殺……。
「なに……あかりん、怖いよ……」
俺はしゃがみこんで、怯える美咲と目を合わせた。
「みさきち。怪我をしていないか確かめさせてもらってもいいか?」
「うん……でも、どうやって……? 服は脱ぐの……? やだな……」
俺は藪内を見た。
「懐中電灯を持ってきてくれ」
藪内が、取ってきた懐中電灯でこちらを照らしていて、ひどく眩しい。光源を見ないようにして、俺は美咲に抵抗がないところまで服を脱ぐように頼む。
美咲はコートを脱いで、ためらいながらセーターも脱ぎ、長袖の下着一枚になった。幸いなことに、下着の色は肌色だ――血痕があれば、すぐにわかる。
「嫌じゃなかったら、服の上から軽く触ってもいいか? ボディチェックのイメージで」
美咲がうなずく。俺は藪内を見る。怪我をしていたら、すでに血が滲んでいるか、触れたら痛がるはずじゃないか?
藪内もうなずいた。渋々という表情だった。
了承が得られたので、上半身を調べた。その次は、コーデュロイのズボンごしに下半身も。
美咲は本人の言葉どおり、無傷だった。俺たちは美咲を家に上げ、リビングルームへ連れていった。
懐中電灯の明かりに浮かぶ時計は、午前二時半を示している。
「それで、一体どうしたんだ?」
俺の問いかけに、美咲は震えながら話しはじめた。
――朝起きたら、諒ちゃんとあかりんがいなくて、みんなちょっと困ってた。でも、友介とおねえちゃんが、あかりんは荷物がないから早めに帰ったのかもしれない。諒ちゃんは荷物があるからすぐに戻ってくるだろうって言って、普通にご飯食べて待ってたの。
でも、ふたりともなかなか戻ってこなくて。あたしたちスマホは持ってないけど、友介は今日のためにお母さんからスマホを借りてたから、それで集会所にいる自分のお父さんに連絡したの。
そしたら、「大変なことが起きた」「そのまま学校にいろ」ってだけ連絡が来て……。
でもさあ、「大変なことが起きた」って言われて、じっとしてるの無理じゃんねえ。特に友介みたいな性格だとさ。様子を見に行くって、駆け出していっちゃった。
おねえちゃんとあたしとあおいちゃんとあいちゃんは、ちゃんと学校にいたよ。
でも夕方になって、「帰りましょ」の放送が流れて……おうちに帰ろうかってことになったの。
それで、学校の外に出て……本当に大変なことが起きたんだって、わかった。
「あたしね。小さいころから、よく夢を見てたの」
……急に話が変わった。美咲が必死に言葉を紡ぐのを、うつむいて胸が塞がる思いで聞いていたが、思わず顔を上げる。
美咲は、微笑んでいた。
「夜にね、嫌なことがあると……頭のなかにイメージが浮かんでくるの。その最中は、身体は凍ったみたいに動かないんだけど、頭のなかは自由だから……」
その「夢」のなかで、美咲は岬の人魚像の前に横たわっている。白い装束を着せられて、逃げ出さないように両手両足を後ろで縄に縛られている。そこに、たいそう美しい女性がやってくる。女性は、白い脚絆と白い襦袢を身に着け、襦袢の裾はからげて上から白い腰巻をしている。
彼女は美咲を縛る縄をほどき、どこか遠くへ連れて行ってくれるのだと言う。
「おねえちゃんにも話したことがあるんだけど、おねえちゃんもちょっと前まで同じ夢を見てたんだって」
「『人喰い人魚』の怪談の影響だろ」
藪内がつまらなそうに鼻で笑った。
「服装とか、そのまんまじゃん」
「違う!!」
美咲が突然、大きな声を出した。顔を真っ赤にして怒っている。
「あの女の人は、あたしを助けてくれるの! 人魚様たちは、本当はみんなを助けてくれるんだよ!! なのに、みんなが人を食べる化け物だなんて作り話をするから、怒って呪いをかけたんだよ!!」
昨日、美咲が友介の怪談に顔を強ばらせていたのは――怯えていたわけじゃなく、憤っていたのか。
「呪い?」
藪内が半笑いで尋ねた。美咲はますます反発して、身を乗り出す。
「そうだよ! だからあの怪談みたいに、みんな人喰いの化け物になっちゃったんだ! おねえちゃんだって……おねえちゃんだって……」
美咲は顔をくしゃくしゃにすると、しゃくりあげ始めた。
「うっ、う……おねえちゃんと、あたしは、なんとか家までたどり着いて、ずっと遊んでたの……いつもは怒られるゲームを一晩じゅうして……っう、ひっく……でも、急に部屋の電気が消えて……ブレーカーが落ちてるわけでもなくって……ちょっと様子を見てくるって、おねえちゃんは家の外に出て……ちょっとだけの、はずだったの……うっ、グスッ、でも、隣の家のおじさんが、裸んぼで、胸まで血まみれになって、うちの庭に立ってて……うわああん!」
不思議と美咲の口から、今日まで健在のはずの両親については語られなかった。……美咲にとって、本当の家族とは姉だけだったのかもしれない。
