4 制裁


 その日はもう授業どころではなくて、全校生徒が即座に下校を命じられた。富谷が飛び降りた場所には警察官がうろうろしている。昨日の死体といい、今日の飛び降りといい、この学校から立て続けに死人が出たことで、学生も皆、表情が暗く、校舎全体がどんよりとした雰囲気に包まれていた。
 僕も気が気じゃなかった。だって、あんな夢を見た後だったから。学校が飛び降り自殺をする夢を見た直後に、同じような事件に遭遇したのだから。夢の中で死んでたのは僕だったけど、それ以外の状況はそっくりだった。
 百パーセント正確ではないけど、僕が夢で見た通りの出来事が、現実に起こっている。もしかしたら、本当にアサヒの言う通り、これは予知夢の類なのだろうか。
 飛び降りたのが富谷だという事実も気になっていた。それに、あのお札のことも。
 気になることばかりだけど、僕たちはひとまず学校を離れることにした。
「――おい」
 校門を出たところで、僕たちを待っていた奴がいた。
 羽佐間だった。
「お前らさ」
 いつも通りの無表情で不愛想な態度だけど、心なしか顔色が良くなかった。仲の良さは置いといて、身近な人間を二人も亡くしたんだから、さすがの羽佐間でも少しは堪えているようだ。
「あの二人に、なんかした?」
 まるで容疑者を睨む刑事のような眼差しで、羽佐間は僕らの顔を見比べた。
 彼の意図することはわかる。昨日は小路。今日は富谷。僕をいじめていた人間が立て続けに死んでいる。これほど僕にとって都合の良いことが起こっているのだから、裏で僕たちが何かしているのではないかと勘繰りたくもなるだろう。
「は? 俺らが殺したとでも言いてえの?」
 と、アサヒが鼻で嗤った。
「殺すって言ってただろ、お前」
「まあ、たしかに殺すとは言ったけどさぁ」
 過去のやり取りを思い出し、アサヒは苦笑いを浮かべた。
「わざわざ金搔き集めて、屋上でばら撒くなんて、そんな手の込んだことするか?」
 アサヒが呆れ顔で肩をすくめる。
「そもそも、富谷が飛び降りたとき、俺ら下にいたし」
 僕たちは上から落ちてくる富谷を見た。確かに校舎の外にいた。少なくとも、屋上にいた富谷を突き飛ばすことはできない。
 これには羽佐間も反論できなかった。ただ黙ったまま、アサヒの顔を睨みつけている。
「ま、誰の仕業かは知らねえけどさ……」
 羽佐間の耳元に顔を近付け、アサヒが囁くように言う。
「次は、お前の番かもな」
 順番的に、と嗤う。
 羽佐間もきっと思う節があったんだろう。自分も狙われるのではないか、と。だから僕らのところに来て、こうやって疑惑を問い詰めた。
 アサヒの挑発は今の羽佐間にはかなり効いたようで、奴は一瞬、怒りを堪えるような顔つきになった。それから、肩を強くぶつけるようにして、無理やり僕たちの間を通って立ち去った。
 振り返り、羽佐間の後ろ姿を眺めながら、
「見たか、今の顔」
 と、アサヒがからかうように笑う。
「あいつ、相当ビビってんなぁ」
「もう、あんなこと言わなくても……」
「少しは薬になっただろ」
 行こうぜ、とアサヒが踵を返す。
 校門には野次馬が集まっていた。狭い世間だから、今朝の事件はとっくに島中に広まっているらしい。記者らしき人もいる。
 すれ違いざまに、
「生徒が飛び降りたんだって」
 と、噂話をするおばさんたちの声が耳に入ってきた。
「あらまあ、飛び降り?」
「学校で飛び降りなんて、思い出しちゃうわよねえ。あの、3年前の――」
 ……3年前?
 僕は心の中で首を傾げた。
 3年前にもあったんだろうか。なにか、同じような事件が。この島で。


 さすがに二又岬に行く気分にはなれなかったので、それから僕たちは港へ向かい、防波堤の上でアイスを食べた。一連の事件のことを考えているせいか、アイスの味はしなかった。
 いったい学校で、この島で、何が起こっているのだろうか。それに、さっきのおばさんたちが言っていた、3年前の事件って、何のことなんだろうか。
 それだけじゃない。気になることは他にもあった。あのとき、飛び降りた富谷の死体を見て気付いたことを、僕は隣のアサヒに打ち明けた。
「――え? 同じタトゥ?」
「そう。右手に、昨日の死体と同じような模様があったんだ」
 手の甲を横切るように走る、二本の線。それが、富谷の手にもあった。血で汚れた右手の甲に。
「偶然とは思えないよね」
「お揃いで墨入れたとか? 友情の証に」
「……それ、本気で思ってる?」
 はは、とアサヒが白い歯を見せて笑う。
「冗談は置いといて。二本線なんて、なんか、江戸時代の罪人みたいだよなぁ」
 と、彼は思い出したように告げた。
「江戸時代の、罪人?」
「ああ。昔は入墨刑ってのがあったんだよ。犯罪者を識別するためでもあり、見せしめの目的もあった。地域によって入墨のデザインは違ったらしいんだけど、中でも特に有名なのが、江戸の二本線だ」
 左腕の肘より下の位置に、ぐるりと腕を一周するように、太い線が二本。それが江戸の罪人の証だったのだと、アサヒは説明した。彼は本当にいろんなことを知っているなと思う。
「もし、お前が見たっていうそのタトゥに、同じような意味があるとしたら――」
 仮に、この二つの事件が連続殺人で、同一人物による犯行だとしたら。右手のマークは江戸時代の罪人の入墨が元ネタだとしたら。あのマークを死体に刻んだのは犯人の仕業で、小路と富谷は罪人だということを、何者かが告発していることになる。
「誰かが、あいつらを罰してるのかもしれない」
 というアサヒの意見には、僕も同意だった。
「さっき学校で、教師と警察が話してるのを盗み聞きしたんだけど、富谷の件はおそらく自殺として処理されるだろうって言ってた」
「え、そんな……」
 僕は思わず眉をひそめた。
 そんなはずないと思う。これがただの自殺だなんて、思えなかった。富谷は自殺するようなやつじゃないし、ましてや謝罪の言葉を書いたお金をばらまくなんて、あり得ない。
「なんか、しっくりこないよなぁ」
「そうだよね」
「ケチで金欠のあいつが、あんなもったいないことするわけないし」
 だったら、誰なんだろうか。
 誰が富谷にあんなことをさせたのか。誰が小路をあんな風にしたのか。いったい、誰の仕業なんだろうか。
「なあ、この事件、俺らで調べてみないか?」
 不意に、アサヒがそんなことを提案した。まるで冒険に行く前の少年のような、どこか楽しそうな顔で。
「……探偵ごっこして遊ぼうとしてない?」
 この島は暇だ。平和で、娯楽がない。不謹慎だけど、殺人事件なんて格好のネタだろう。島民は皆、立て続けに起こった不穏な事件に恐怖心を抱くと同時に、非日常的な刺激に好奇心を擽られているはずだ。このアサヒも。
 そして、この僕自身の中にも、おそらくそういう気持ちがある。
「まあ、それもあるけどさ。犯人を突き止めれば、お前も安心できるだろ? 今のままだとすっきりしないだろうし」
「うん、そうだね」
 ――という次第で、僕たちはこの事件に首を突っ込むことになった。偶然とはいえ、どちらの件も目撃者になってしまったのだから、このまま素知らぬ顔をして過ごすこともできなかったし。
「まずは、容疑者だな。動機の線から容疑者を絞っていこうぜ」
 と、アサヒは張り切っていた。完全に楽しんでいる様子だ。
「考えられるとすれば、やっぱり復讐かなぁ」
 奴らに恨みをもつ人物がいて、小路と富谷に復讐をしている。そう考えるのが妥当だろう。
「そうなると、いちばんの容疑者は……僕たちじゃない?」
 あいつらにいじめられていた僕と、あいつらのいじめのせいで親友を失ったアサヒ。これ以上に強い動機をもつ人物がいるのだろうか、と思った。
 だけど、アサヒには心当たりがあるようだ。
「俺ら以外にも、奴らを恨んでる人はいる」
「たとえば?」
「翔太の両親」
 ……たしかに。
 自殺した佐藤翔太の両親なら、アサヒ以上の恨みをあいつらに抱いていることだろう。殺したいほど憎んでいるはずだ。
「二人とも、こっちに住んでるんだよ。明日は土曜だし、どっちも家にいるかも。行って話聞いてみようぜ」
 という提案に、僕は頷いた。そして、僕からも提案した。
「あと、図書館にも行きたいな」
「図書館?」
「ちょっと、気になることがあって」
 僕はアサヒに事情を説明した。さっき耳にした、おばさんの立ち話のことを。
 3年前の事件とはいったい何なのか。この島の図書館にいけば、当時の新聞記事が見られるかもしれないと思った。
 それから僕たちは図書館に向かった。図書館といっても、そんなにたいしたものではない。蔵書数も、学校の図書室を少しだけ豪華にしたくらいのレベルだ。それでも、この島にまつわる新聞記事のアーカイブは充実していた。
僕たちは図書室のパソコンの前に座り、検索条件を入力した。期間を三年前に絞って、学生、自殺、飛び降り、といったワードを順番に調べていく。
 けれど、どれもヒットしなかった。それらしい事件は見つからない。
「本当に、おばさんたちが話してたのか? 聞き間違いじゃね?」
 隣でアサヒが眉をひそめた。
「いや、たしかに『学校で飛び降り』って言ってたんだけどなぁ……」
 僕は記憶を振り返り、おばさんの言葉を思い出した。『学校で飛び降りなんて、思い出しちゃうわよねえ。あの、3年前の――』――そう言っていたはずだ。
 3年前、学校、飛び降り。
 キーワードを頭の中で反芻した、そのときだった。
 突如、こめかみの辺りに痛みが走った。
 またあの痛みだ。僕は思わず「いたっ」と声をあげ、手で側頭部を押さえた。
「どうした、ツキ」
 アサヒが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「大丈夫か」
「最近、たまに痛むんだよね……」
 何かを思い出そうとするときや、深く考えようとしたときに、よく痛みが走る。最初はたまにだったけど、最近は回数が増えてきた。日に日に頻度が増してる気がする。
「病院行った方がいいんじゃね?」
「……大丈夫、ただの片頭痛だよ」
 検索期間を3年前から5年前まで広げてみたり、自殺以外の転落事故も調べてみたりしたけど、それらしい事件は出てこなかった。結局なにも情報は得られないまま、僕たちは図書館を後にした。
 集会所の前に着いてから、
「じゃ、また明日な」
「うん」
 と、アサヒと別れた。
 家に帰宅すると、いつものように母親がキッチンにいた。僕の顔を見るや否や、「学校で事件があったんでしょう? 遅かったから心配した」と、眉をひそめて言う。
「ごめん。友達と遊んでた」
「あら、そうなの」
 母さんは嬉しそうな顔をした。
 だけど、その直後、
「今の友達はいい子なのねぇ」
 一瞬、母さんの笑顔が消えた。
「前の友達は酷かったけど」
 抑揚のない、冷たく吐き捨てるようなその声色に、僕はぞっとした。
「よかった、いなくなってくれて」
「え――」
 耳を疑う。
 ――今、なんて?
 とてもじゃないけど、母さんとは思えない発言だった。
 驚きと戸惑いで唖然となる。
 それだけじゃない。嫌な考えが頭を過ってしまった。
 僕は気付いてしまった。動機がある人物が、他にもいることに。佐藤翔太の身内以外に。
「……ねえ、母さん」
 僕は恐る恐る、話を切り出した。
 母さんが台所に向かったままの姿勢で、
「んー? なに?」
 と、訊き返す。
 野菜を切る包丁の音が、いやに耳についた。
「母さんは……なにもしてないよね?」
「え? 何の話?」
「僕のクラスメイトに、なにもしてないよね?」
 野菜を切る手がぴたりと止まった。
 無言のまま、母さんは手元をじっと見つめている。
 ほんの数秒のことだったけど、僕にはひどく長い時間に感じた。なかなか答えない母さんを、僕はじっと待ち続けた。
 心臓の鼓動が早くなる。
 数秒置いてから、母さんは僕を振り返り、
「急になに言ってるの、変な子ね」
 と、笑い飛ばした。いつもの笑顔で。
「……ごめん、変なこと言って。忘れて」
 いくら母さんでも、さすがにそんなことはしないと思うけど。ありえないって、わかってはいるけど。さっきの母さんのようすが、どこか変で、発言も態度も別人みたいで、急におかしくなったかのように思えて、僕は疑いを拭い去ることができずにいた。


   〓


 それから夜になると、母さんが外出した。「村の集会に行ってくる」と言っていた。
 僕は家でひとり、母さんが作ったご飯を食べて、部屋のベッドに寝転がった。スマホを見れば、アサヒからメッセージが届いていた。何の前置きもなく、『今なにしてる?』とだけ書いてあった。
 何もしてないよ、と答えると、メッセージはすぐに既読になり、電話がかかってきた。
「もしもし、どうしたの?」
『時間決めよう。明日の』
「あ、うん。そうだね」
『翔太の親に連絡した。久しぶりに線香あげにいってもいいか、って。午後なら家にいるらしい。お前の家に1時に向かいに行くけど、いいか?』
「うん、大丈夫」
 用件はそれだけだったけど、アサヒは電話を切らなかった。僕もまだ彼と喋りたい気分だったから、嬉しかった。
『片頭痛だって言ってたけど、大丈夫かよ』
「大丈夫。そんなに強い痛みじゃないし」
『片頭痛ってのは、脳の血管の拡張と三叉神経の過敏化が主な原因らしい。それに、ストレスとか気圧とか、他の要因が重なって起こるんだってさ』
 僕は思わず笑ってしまった。
「アサヒって、ほんと、いろんなこと知ってるよね」
『検索して調べた』
 心配だったから、と言われて、なんだか落ち着かない気分になってしまう。嬉しいような、むず痒いような。
「天気も悪いし、気圧のせいかもね」
 ここ最近の島の天気は不安定だった。真夏のように太陽が照り付けていたかと思えば、その数時間後には嵐のような雨が降ることもある。現に今日も、ずっと晴れていたのに、家に帰宅する頃には、ぽつぽつと雨が降りはじめた。今はさらに酷くなり、激しく窓を叩く雨音が鳴り続けている。
 そのときだった。雨音に交じって、扉を叩く音が聞こえてきた。それも、何度も何度も。ドンドンドン、と誰かが激しくドアを叩いている。
「ごめん、誰か来たみたい。ちょっと待ってて」
 電話を繋いだまま、僕は部屋を出て、玄関へと向かった。
 母さんが鍵でも忘れたのだろうか、と思ったけど、違った。戸を開けると、そこには予想外の人物が立っていた。
 羽佐間だった。
「は、羽佐間、くん……?」
 雨でびしょ濡れになった羽佐間が、僕の家の前に立っている。
「どうして、ここに……」
 僕の質問には答えず、羽佐間は家の中に押し入ってきた。
「お前だろ」
「え……」
「お前がやったんだろ」
 濡れた前髪の隙間から覗く彼の瞳は、どこかおかしかった。まるで、正気を失っているかのようだった。
「お前が小路を殺した」
「な、なに言ってんの、違うよ!」
「知ってんだよ。小路が最期に会ったのは、お前だった。あの日、あいつは、これからお前に会うって言ってた。その直後に行方不明になった」
 羽佐間が僕の胸倉を掴む。
「富谷も、お前が殺した! そうなんだろ!」
「ちょっと、落ち着いて――」
「お前なんかに殺されてたまるか!」
 そう言いながら、右手でポケットを漁る。
「……殺られる前に、殺ってやる」
 羽佐間はナイフを持っていた。
「や――」
 やめて、と言うこともできなかった。衝撃と恐怖のあまり、僕は動けなかった。体が硬直していた。
 次の瞬間、羽佐間がナイフを振りかざし、僕に襲いかかってきた。
 はっと我に返り、とっさに避けた。ナイフの切っ先が僕の頬を掠め、ぴりっとした小さな痛みが走る。
 僕は羽佐間の体を突き飛ばし、悲鳴をあげながら、家を飛び出した。降りしきる雨の中、ただただ、必死になって逃げた。
 逃げ出した僕を、羽佐間が追いかけてくる。しばらく走ると、目の前に集会所が見えた。助けを求めようと、僕は集会所の敷地に飛び込んだ。だけど、鍵が掛かっていた。建物の灯りは消えている。中には誰もいなかった。
 僕は集会所の裏側に回り込み、身を潜めた。
「……逃げても無駄だ」
 背後で羽佐間の声がした。
 僕の腕を掴み、濡れた地面に引き倒す。羽佐間はナイフを握ったまま、僕の上に馬乗りになった。
「や、やめて――」
 僕は彼の手を掴み、必死で抵抗した。
 しばらく揉み合いになった、その直後――
「が――」
 不意に、羽佐間が大きく目を見開いた。
「う、ぐっ……っ!」
 次いで、口から血を噴き出した。
 羽佐間はよろよろとした足取りで僕から離れると、地面の上に仰向けで倒れてしまった。
「え――」
 彼の胸に、ナイフが刺さっていた。血が止めどなく溢れている。
 そのとき、僕はようやく気付いた。自分の両手を覆う生ぬるい感触に。真っ赤に染まった自身のTシャツに。
「う、うそ、……、そんな……っ」
 羽佐間の血が止まらない。
 どうにか止血しないと。僕は彼の胸に手を添えた。
 心臓が動いていなかった。
「は、羽佐間くん、羽佐間くん……っ!」
 呼びかけても、反応はなかった。
 ただ虚ろな目で、黒い空を見つめるだけだった。
「あ、……ああ、ああ」
 殺してしまった。
 僕が。羽佐間を。殺した。
 体の震えが止まらない。
「う、ああ……ああぁ」
 その場にしゃがみ込み、血まみれの手で頭を抱えた。激しい雨に打たれながら、泣きじゃくることしかできなかった。
 そのときだった。
 一瞬、雨が止んだ。
「――ツキ」
 はっと顔を上げると、目の前に人がいた。ビニール傘を片手に、僕の傍に立っている。その傘が雨を遮り、視界が鮮明になった。相手の顔がよく見える。
 アサヒだった。
「あ、アサヒ……」
「電話の向こうで叫び声が聞こえて、なんかあったんじゃないかと思って……」
 そう言って、アサヒは僕から視線を外した。それから、傍に倒れている死体を見遣り、顔を顰めた。
「ぼ、僕が……僕が、羽佐間を……」
「大丈夫。わかってる。お前は何も悪くない」
 幼い子供に言い聞かせるような優しい声色で、アサヒは言った。
「アサヒ、どうしよう……助けて……」
 僕が見上げると、
「落ち着け、大丈夫だから」
 アサヒはその場にしゃがみ込んだ。傘を持っていない方の手を、僕の肩に置く。
「大丈夫だ、ツキ。大丈夫」
 僕に顔を近付け、僕の目を真っ直ぐに見つめながら、彼は力強く頷いた。
「俺が何とかする」