あやかしの寄る辺に従い

ほむら「大将、一ついただこうか」

串焼き屋の大将「まいどっ……。はい、一つサービスだよ」

ほむら「澪、ほら……」

澪「ありがとうございます」

ほむらは澪に串焼きを渡すと、自分も串焼きに噛り付いていた。
澪は仮面をつけたまま食べるのに苦労をしていた。

ほむら「ほら、ついてるぞ」

澪の口元についたタレを取ると、そのまま舐めるほむら。
赤面する澪。

ほむら「どうしたんだ?」

澪「何でもないです」

通行人「泥棒だ、泥棒ー!」

声が聞こえた方角から、こちらへ走って来る妖がいた。

ほむら「ちょっと、持っててくれ」

食べかけの串焼きを澪に手渡すほむら。
声が聞こえた方へ、ほむらは走って行き、狐の妖を捕らえていた。
警備兵がすぐに、ほむらの元へ駆けつけていた。

警備兵「ほむら様、お見事でございます」

ほむら「私に先を越されるとは、まだまだだな」

警備兵「そんなことは……」

ほむら「今度、鬼道場で扱いてやるから覚悟しておけよ」

警備兵「またまた、ご冗談を……新婚を邪魔できないですよ」

ほむら「新婚じゃない」

警備兵「え?」

ほむら「婚約者だ」

警備兵「それなら、なおさら大事な時期じゃないですか。婚約者の方を大事にしないと」

警備兵の言葉に固まる澪とほむら。

警備兵「私、何か悪いことを言いました?」

ほむら「いいや、何でもないんだ。こいつを頼む」

財布を盗んだ狐の妖を、タヌキの警備兵へ引き渡すほむら。

警備兵「お二人とも、楽しんでくださいね」

ほむら「……ああ」

警備兵「個人的には、街外れに新しく出来たお化け屋敷がオススメです!」

ほむら「ありがとう」

警備兵が去った後、少し離れた場所にいた澪の元へ戻るほむら。

澪「大丈夫でしたか?」

ほむら「ああ、問題ない。この先に、新しくお化け屋敷が出来たらしいんだ。行ってみるか?」

澪「お化け屋敷?」

ほむら「部屋を暗くして部屋の中で化かし合いをやるのだ。妖がお化け屋敷をやるなんて、始めはどうかと思ったがな」

澪「面白そうですね」

ほむら「行ってみるか?」

澪「はい!」

串焼きを食べ終えた二人は、警備兵の言っていた街外れにあるお化け屋敷へ向かった。

お化け屋敷案内人「二名様、ご案内~!」

お化け屋敷に入るほむらと澪。
小鬼や河童が顔を出して脅かしていた時は笑っていた二人も、奥に進むにつれて怖さが増したのか、表情が強張っていく。

ほむら「澪、大丈夫か?」

澪「……はい」

ほむらが手を差し出すと、澪が手を掴む。
二人が手を繋いで歩いていると、厠のある通路が出てきた。
前を通ろうとした時に、中から赤黒くて丸い塊が転がり出てくる。

澪「ひっ……」

思わずほむらに抱きつく澪。
澪を抱きしめたほむらは、背中を撫でていた。

「あれは、キジムナーだ。大丈夫だ」

「キジムナー?」

「木の精霊だ。澪、怖いなら負ぶっていこうか?」

首を横に振る澪。

「いいえ。行きます」

澪は、目をつぶりながら前へ進んでいた。

「大丈夫か?」

くすくすと笑いながら、澪が転ばないように手を引いて歩くほむら。

「外だ」

澪が目を開けると、そこは街が一望できるテラスのような場所だった。

「お化け屋敷を出ると、この建物の屋上なんだ」

「そう言えば、何回も階段を上っているような気がしましたわ」

夕日がテラスに差し込む。

「きれいですね」

「ああ、きれいだ」

澪を見て微笑むほむら。

「……」

「……」

「行こうか」

ほむらの言葉に、屋上を出て街の入り口にある鬼船へ戻る二人。
ほむらの手に、そっと手を重ねる澪。

「今日は楽しかったです。ありがとうございます、ほむら様」

「ああ、また行こう」

「お化け屋敷は、もう充分ですわ。でも、夕日がきれいでした」

「ははっ、澪は目を瞑って歩いていたもんな」

ほむらが澪を揶揄い、赤くなる澪。

「もう、ほむら様!」

追いかけっこでもするかのように、街を走るほむらと澪。
船着き場へ着くと、澪とほむらは船に乗った。

「手を」

ほむらの手を掴み、乗船する澪。
ほむらは、澪の肩を抱き寄せると船を出した。

「澪、今日はありがとう、楽しかった」

船が空に浮かぶと、ほむらが澪に言った。

「そんな、お礼を言うのは私の方ですわ」

澪がほむらへ振り返ると、顔が思ったより近く、ほむらの頬に澪の唇が触れてしまう。

「!!」

驚く澪に慌てるほむら。

「……」

二人はお互いを意識したのか、赤くなった後は一言も喋ることなく、鬼屋敷へ戻ったのだった。