幼なじみと後輩と1ヶ月

1年後の夏、照りつける日差しはあの頃と何も変わっていなかった。

「ちょっと、いつまで見てるの。お昼ごはん、予約してるんだからね」

隣で日傘を差し、不満げに口を尖らせているのは、同じ大学に通うことになった幼なじみだ。

講義の空き時間や放課後、こうして一緒にいるのが当たり前になっていたけれど、口の悪さだけは相変わらずだった。

「悪いって。あいつが最後の一打席だったから」

僕はフェンス越しに、グラウンドで整列する後輩を見つめた。

あの日、僕の胸で泣きじゃくっていた生意気な後輩。

今はもう、立派な体格になり、チームを背負う頼もしい選手だ。

「……あの子、誰だっけ。あんたがやたら肩入れしてるから、名前だけは覚えたけど」

彼女は興味なさそうに視線をグラウンドへ投げた。

野球部だった彼女にとっても、僕以外の後輩は「知らない子」でしかない。

「あいつ、僕の引退試合でさ、最後にヘッドスライディングして泣いたやつだよ。覚えてない?」

「……。ふーん、あの子が」

彼女は少しだけ目を細めた。

あの日、スタンドから僕の最後の打席も、後輩の絶望的なアウトも全部見ていた彼女。

その目元が赤く腫れていた理由を、僕は今でも怖くて聞けていない。

「……ま、あんたよりはセンスありそうね。顔つきもいいし」

「一言多いんだよ。でも、あいつがいたから、俺は最後まで野球部でいられたんだ」

僕はそう言って、ゆっくりとスタンドの階段を下り始めた。

中学で挫折して、野球を嫌いになろうとしていた僕。

そんな僕に「先輩の野次がないと寂しい」と言って笑った後輩と、「センスないんだから辞めれば」と突き放しながら、最後まで見捨てなかった彼女。

「ねえ、明日から夏休みでしょ。どこか行くって言ってた件、どうするの?」

並んで歩く歩道の熱気。

彼女の歩幅は、あの日より少しだけゆっくりになった気がする。

「……そうだな。どっか行こうか。お前が行きたいところ、どこでもいいよ」

「あっそ。じゃあ、海。あんた、運転練習しときなさいよ」

素っ気ない返事のあと、彼女は少しだけ先を歩き、振り返らずに手を振った。

その背中を追いかけながら、僕はあの日、泥だらけで歩いた帰り道のことを思い出していた。

野球は大嫌いだったけれど。

センスのない三年間を駆け抜けた先に、この景色があるのなら。

あの時、退部届をカバンの奥でくしゃくしゃにした自分に、「間違ってなかったぞ」と声をかけてやりたかった。