私の執事には謎が多すぎる ー 其の一 妖の獲物になりました

水瀬家を出ると、俺は隼人と列車に乗って山奥にある湖に向かった。
「いやあ、なんか旅行気分だなあ。水瀬家の女中さんが作ってくれたこの弁当もうまいしさあ」
俺の対面の席に座り、車窓の風景を眺めながらお握りを口にする隼人。
「お前はいつでも楽しそうで羨ましいよ」
ある意味この状況ではしゃいでいられるこいつは大物。
ハーッと溜め息をつきながら窓の外の景色に目をやる。
「あれ?尊、弁当手をつけてないじゃん。食べないなら俺が食おうか?」
そう申し出る彼に弁当を差し出した。
「好きに食え。夕飯の時間にはまだ早いし、俺はそんなに腹が減ってない」
「わー、さんきゅ〜。尊いい奴だなあ」
弁当をもらってはしゃぐ隼人に皮肉を言う。
「お前はいつも脳内お花畑で羨ましいよ。ところで、お前は湖に行ったことはあるのか?」
実は俺は過去に是清さんと三つの封印を見て回ったことがある。
その時は何も異常はなかった。
「いいや。親父は封印の時に天月の当主と一緒にいたようだが俺は一度も。今回封印が破られたのがわかったのも、湖を見張らせていた親父の式神が消されたからなんだ」
その話は是清さんからも聞いている。
鬼を封印する時、四大宗家の当主も勢揃いしていたらしい。
「なるほどね。まだお前も現場を見ていないわけか」
足を組み直して隼人の話に相槌を打つと、彼は俺の分の弁当をパクパク口にした。
「まあね。でもさあ、尊は瞬間移動の術が使えるみたいだけど、なんでわざわざ列車に乗るの?」
「昔、封印された場所に瞬間移動で行こうとしたが、何度試してもダメだったからだ。封印のせいかもしれない」
「へえ。封印の力が強すぎてってことなのかな。その封印を解くなんて恐怖を感じるね。人間がたくさん殺されて湖が血の色に染まっていないことを祈るよ」
「お前、とびきりの笑顔でそんなこと言うな。縁起でもない」
スーッと目を細めて隼人を注意すると、彼はどこか謎めいた表情を浮かべた。
「悪い、悪い。でもさあ、天月家の当主がいたら封印も破られなかっただろうにね。どうして天月家は滅んだのかなあ。天月家の当主の子供も死んだらしいじゃないか。親父に聞いても『知らん』しか言わなくてさあ」
天月家の話題はタブーとなっていて、四大宗家の集まりでも誰も口にしない。
「是清さんからは何も聞いていない。そもそも俺は四大宗家の血は引いていないし、俺が天月家のことを詳しく知っているわけがないだろ」
無表情で言い返す俺の顔を見て、隼人が二パッと笑った。
「うん。そうだよね。ちょっと聞いてみたくてさあ。俺は天月家の当主がどんな力を持っていたかも知らないし、興味があってね。会ってみたかったんだ」
「生きてたら、俺も会いたいよ」
ポツリと呟く俺を見て、彼は鋭く目を光らせた。
「ふーん。会ってみたいじゃなくて、会いたいんだ?なんか無関心装ってる尊の方が俺より思いが強そう」
「別に深い意味はない」
素っ気なく言って、夕焼け色に染まる山の景色を眺めた。
それから三時間列車に乗って湖に近い駅に辿り着いたのは午後九時すぎ。
「うわ〜、さすがに真っ暗だね。今夜湖に行くのは無理じゃない?」
駅を出て空を見上げながら俺に尋ねる隼人に近くにある茅葺き屋根の寂れた宿を指差して言った。
「誰も今夜行くとは言ってない。今日は宿に泊まる」
山の裾野にひっそりと佇む宿を見て引く隼人。
「……え?あの宿?やってるの?」
「さあ。行ってみないとわからん」
すたすたと宿に向かう俺の後を彼は文句を言いながらついてくる。
「それでも執事?ちゃんと確認しなよ。お嬢ちゃんがいないと手抜きなんだから」
「嫌ならお前は野宿するか?」
冷ややかに返せば、こいつは俺に手を合わせて謝った。
「あー、ごめんなさい。神さま仏さま尊さま!一生ついて行きます」
「調子のいい奴」
フッと笑って宿の引き戸を開けたら、八十歳ぐらいの白髪のお婆さんが目の前にいた。
「いらっしゃいませ」
お婆さんを見て隼人が飛び上がる。
「わあっ!」
やけにタイミングがいいな。
隼人じゃないが、少し驚く俺。
だが、表情に出さずに話を進める。
「夜分にすまない。一晩泊まりたいんだが」
俺がお婆さんに話しかけているのに、隼人が俺に顔を近づけて声を潜めた。
「ちょっと………ここはやめない?」
「食事も頼めるだろうか?」
隼人を無視して話を進めるとお婆さんは「はい」と小さく笑って俺たちを奥にある部屋に案内した。
六畳ぐらいの古い和室。
座卓と座布団しか置いていない質素な部屋。
他にも部屋はふた部屋あった。
灯りは蝋燭の炎だけで薄暗い。
「なあなあ、本当にここに泊まるの?薄気味悪いんだけど。絶対、こういうところ幽霊が出るぞ。いや、あのお婆さんが幽霊じゃない?」
ビクビク怯える隼人を見てフッと笑った。
「妖倒す奴が何を言ってんだか」
「だって、妖と幽霊は全然違うじゃんか。幽霊はなんか実体がなくて、足もなくて……。それですすり泣きとかしちゃってさあ。どう戦っていいかわからない。もうとにかく滅茶苦茶怖いんだよ」
幽霊の怖さを力説する隼人に呆れ顔で返した。
「お前は一度でも幽霊を見たことがあるのか?」
「な、ないけどさあ」
隼人が震える声で答えたその時、部屋の戸がスッと空いて、彼が俺に抱きついた。
「わあ、出た〜!」
「お食事をお持ちしました」
お婆さんが夕食を持って来て座卓に並べると、すぐに出て行く。
「お前、いつまで俺に抱きついているつもりだ。男といちゃつく趣味はないんだが」
俺に抱きついている隼人に冷たく言えば、彼はパッと離れた。
「あっ、ごめん、ごめん」
「お前、びびり過ぎ」
ポリポリ頭をかきながら謝る彼に注意して出された夕食を食べ始める。
ご飯とキャベツの味噌汁に、山菜の和え物、それとこんにゃくの味噌田楽。
「……肉と魚がない」
隼人は質素な料理を見てガクッと項垂れる。
「夕飯にありつけるだけでも有り難いと思え。それに、結構イケる。お前もあったかいうちに食べろ」
そう言って勧めると、彼は「……うん」と沈んだ声で返事をして味噌田楽を食べ始めた。
「うわっ、何これ、うまい!」
「だから結構イケるって言っただろ」
「尊の味噌田楽、俺にくれない?」
「お前、列車の中でも俺の弁当食っただろうが」
俺の味噌田楽に手を伸ばす彼の手を力いっぱい叩いた。
「いてっ!だって、俺育ち盛りだから」
「もうお前はそれ以上成長しない」
そんなたわいもない話をして夕食に舌鼓をうち、その後部屋から少し離れた場所にある風呂に入って自分たちの部屋に戻ってくると、布団が二組敷いてあった。
「宿はボロいけど、サービスはしっかりしてるな」
少し感心したように言って隼人は布団にダイブする。
そんな彼を見て溜め息をついた。
「そんな子供みたいにはしゃぐな。床が抜ける」
「せっかく遠出したんだから楽しまないと。尊、枕投げしよ」
「しない」
「ちぇっ、つまんないの。それにしても、尊が執事服以外の服着るの初めて見た。浴衣似合うなあ。水も滴るいい男って感じ」
俺をじっと見て楽しげに言う彼に冷淡に返して布団に入る。
「お前……俺を襲うなよ」
「うーん、でも尊美形だから、新たな世界の扉を開くのも面白いかも」
フフッと笑って、隼人が俺の布団に入ろうとしたのでゲンコツをお見舞いした。
「ふざけるのもいい加減にしろ!疲れる」
「痛い〜。だって、静かになるとやっぱり怖いんだもん」
叩かれた頭を押さえながら隼人は言い訳する。
「いいから寝ろ。明日は早いぞ」
「……はい」
俺に怒られてしゅんとなった彼が自分の布団に入った。
これでやっと静かに眠れると思ったのだが、外でバキッという音がしてまた隼人が俺に声をかけてきた。
「なあ尊、やっぱり幽霊が……」
「風が強くて木の枝でも折れたんだろ。とにかく寝ろ」
それからまたしばらくして廊下でも床がギギッと軋む音がした。
「みーこーと〜!」
「お前ホント煩い。古い建物なんだから床くらい軋むだろ」
そう話してしばらく目を閉じるが、微かに人の気配がする。
お婆さんではない。
隼人も気づいたのか黙って俺と目を合わせた。
ふたりでしばらく寝たフリをしていたら、何者かが戸を開けて部屋に入って来て俺たちに襲いかかった。
敵はふたり。
全身黒ずくめ、顔にも黒いマスクをしている。
素早く動いて敵を交わすと、相手は火を吹きかけてきた。
俺が火をよけると、障子に燃え移る。
隼人も敵の攻撃をうまくよけているが防戦一方。
このままではいけない。
「隼人、水の術を使ってみろ」
敵の火の放射をかわしながら命じると、彼はニヤリとした。
「了解」
隼人は手を大きく広げ、水の呪文を唱える。
すると、大量の水がどこからともなく湧き出て来て火は一瞬にして消えた。部屋の窓が大きな音を立てて割れてそのまま水で流される。
この場にいた全員がその光景に呆気に取られる。
「お前、少しは加減しろ」
力のコントロールがまだまだだ。
眉間にシワを寄せて怒ると、隼人は笑って誤魔化した。
「ハハッ。火は消えたし、結果オーライでいいじゃないか」
「全然よくない」
「まだ実戦で初めて使うんだから大目に見てよ」
そんな言い合いをしながら敵の繰り出す攻撃をさけて、相手を不意打ちの攻撃で倒す。
俺が敵を羽交い締めにすれば、隼人は自分の相手を足蹴にしていた。
「お前らは何者だ?」
俺の質問に敵は答えず、手足を動かして抵抗する。
そこへまたお婆さんが現れた。
「おふたりとも大丈夫ですか?わっ……!」
敵がお婆さんに火を吹きかける。
咄嗟に俺と隼人が盾になってお婆さんを守ると、敵は煙幕を張って逃げた。
「あちゃー、逃げられたか」
「気にするな。お婆さん、大丈夫ですか?」
少し残念がる隼人にそう言うと、お婆さんに目を向けた。
「はい。私は大丈夫ですが。宿が……」
悲しそうに肩を落とすお婆さん。
俺たちが泊まらなければ、こんなことにはならなかっただろう。
「大丈夫です。元通りに、いや、それ以上に綺麗に直しますからね。隼人、すぐに修復しろよ」
お婆さんに優しく声をかけると、隼人をギロッと見据えた。
「え〜、俺悪くないよ」
「半分はお前の責任だ。早くやれ」
不満を口にする隼人に厳しく言うと、彼は仕方ないって顔をしてしぶしぶ式神を出した。
「すぐに直して」
十体現れた式神に命じ、彼は式神が働く様子をのんびり見物。
俺も式神を出して作業を手伝わせると、修復された畳の上にゴロンと横になる隼人を見やった。
「お前も何かしたら?」
「俺、式神たくさん出すと疲れるんだよね。明日のために体力温存しないと」
その言い訳にイラッとする。
欠伸をして眠ろうとする彼の背中に思い切り蹴りを入れた。
「お前も働け!」



「もう一時間以上歩いてるけどまだ着かないの?」
疲れた様子で俺を見る隼人に無表情で答えた。
「湖はあの山の向こうだ」
次の日の朝、早起きして湖に向かうが、霧が凄くてすぐには辿りつけなかった。
「げげっ。あそこまで歩くの?俺もう帰りたい」
すぐに弱音を吐く彼に、チクリと嫌味を言う。
「帰るのにも一時間かかるぞ」
俺の言葉に一瞬固まるも、すぐにこいつは立ち直った。
「あー、はいはい。行きますよ。……尊、やっぱり昨夜襲って来たのって不知火家の者だよね?」
ちょっと考えるような顔で俺に確認する隼人に淡々と答えた。
「まあ、火の術を使うんだからそうだろうな。湖に行かせたくない理由があるんだろう」
俺たちの邪魔をするということは、封印を解いたのは不知火家に違いない。
「つまり、封印を解いたのは不知火家ってことか。あー、不知火家って気に入らないんだよねえ。傲慢でいつも偉そうで。四大宗家で不知火家が一番だと思ってる」
ぶつくさ不満を口にする隼人の言葉にフッと笑った。
「そこはお前に同意する」
訳あって俺も不知火家のことをよく思っていない。
それから二時間程山道を歩いてようやく目的地に着くが、その場所を見て俺たちは言葉を失った。
湖が干上がっていて、土の上にたくさんの魚の死骸があって悪臭が漂っている。
湖があった中心部には大きな丸い岩があり、その横に穴が空いていた。
恐らく、あの穴に赤鬼の一角が封印されていたのだろう。
「すごい匂いだな」
手で鼻を押さえながらそんな言葉を口にすると、横にいた隼人がゴホゴホとむせた。
「俺……匂いに敏感なんだよね。ああ〜、悪臭なくなれ〜」
彼が呪文を唱えたら、風が吹き荒れて匂いがしなくなった。
「あー、これでやっと息ができる」
ホッとした様子で深呼吸する隼人をチラッと見ると、丸い岩に近づいてそっと触れた。
すると、ある光景が頭の中に流れ込んで来た。
白髪の老人と長い黒髪の青年が、火の術を使って湖の水を干上がらせ、現れたこの岩を少しずつ動かして封印を解く。
それから、赤鬼の一角に緊箍児をはめ、ふたりは中にいた赤鬼の一角と何か話をして……。
封印を解いたことよりも緊箍児を鬼に嵌めたことに衝撃を隠せなかった。
封印を解いたのは予想していたからかもしれない。
会話の内容を知りたいのに、岩がゴゴゴと大きな音を立てて粉々に砕け散り、空が急に暗くなった。
俺のネックレスの石も暗い光を放っている。
「妖……。一体何が?」
スーッと目を細めて空を見据えると、隼人も「何が起こった?」と声を上げた。
「ウー」とか「ウォー」とか獣の咆哮が聞こえて来たかと思ったら、周囲の山から百を越える赤鬼が現れて囲まれる。
瘴気が立ち込めて異様な光景。
「うわー、結構やばい状況」
鬼たちを見て苦笑いする彼の言葉に相槌を打った。
「確かに」
どこからか花火が一発ポンと上がって鬼が一斉に襲いかかって来る。
体当たりしてくる鬼もいれば、火の玉を投げる鬼もいた。
「最近、火ばっかり見てて飽き飽きする」
俺がハーッと軽く溜め息をついて水の術で火の玉を消せば、隼人は挑戦的な笑みを浮かべ、風の術を使って竜巻を起こし、鬼を倒していく。
「俺は闘志がみなぎるけどね」
「それは頼もしいな。全部お前に任せようかな?」
悪戯っぽく目を光らせ、ネクタイを外すと呪文を唱えて氷の剣に変え、俺に向かってくる鬼たちを滅多斬りにした。
「冗談。あっ、その剣カッコいい。次はその術教えてよ」
「お前が水の術をもっと使いこなせるようになったらな」
俺と隼人はそれぞれ水や風の術を使って鬼を倒していくが、数が多い。
「これじゃあ埒が明かない。なんかいい術ないの?」
隼人が俺と背中を合わせ、息を乱しながら言う。
「仕方ない。とっておきのを使おう」
まずは湖の周りに霧を発生させた。
それからフーッと息を吐いて氷の結晶を作ると、彼に命じた。
「隼人。この結晶を飛ばせ!」
「あいよ」
彼がニヤリとして風の術を使うと、氷の結晶が舞って、鬼に付着する。
すると、鬼がみなくず折れて苦しみ出した。
「あの結晶何?」
鬼の様子を見て不思議そうに驚く隼人。
「水瀬家に伝わる毒だ」
俺の説明を聞いて彼は文句を言う。
「そんなのあるなら最初から出してよ」
「結構厄介な毒なんだ。使い方を誤ると自分が毒にやられる」
是清さんの真似をして初めて実戦で使ってみたが、思いのほか上手くいった。
是清さんでもこんなに大量の毒は使わない。
隼人の風の術があったから、鬼を一気に倒せることができたのだろう。
「ああ。なるほど」
少し顔を強張らせながら隼人が頷いた。
しばらくして鬼は皆倒れて消滅していく。
「ひとつ質問があるんだけどさあ、なんで霧を発生させたの?氷の結晶を見えにくくするため?」
消滅する鬼を眺めながら、隼人は真面目な顔で尋ねた。
「ああ。あまり敵にこちらの手の内を明かしたくなかった。きっと、俺たちの様子を不知火家の奴らが見張っているからな」
声を潜めて答えると、彼は周囲を警戒しながら本音を口にした。
「鬼よりもそっちの方が厄介かも。他の鬼の封印まで解かれたら、最悪じゃないか」
「封印は強力だ。そんないっぺんに解けないさ。今頃、不知火家の当主たちは力を使い果たして寝込んでいるだろう」
封印を解き、鬼に緊箍児まではめたのだ。相当な力がいる。
緊箍児は天月の当主だけが使える特別な術だったはず。なのに……どうしてあいつらが使えるのか。
「当主たち?」
怪訝な顔をする彼に俺が頭の中で見たものを話して聞かせた。
「さっき丸い岩に触れた時、不知火家の当主、不知火信篤とその息子の哲馬が封印を解く光景が頭の中に見えたんだ」
あいつらの顔は宗家の集まりでも見たし、よく覚えている。
「せっかく封印したものを解放してホント呆れるね。何がしたいんだか」
「妖を使ってこの世界を支配したいのかもしれないな。不知火家の当主たちは緊箍児を鬼にはめていた」
恐らく俺が倒した赤鬼が水瀬家が管轄する街に現れたのも偶然ではないはず。
緊箍児を使って鬼を操ったんじゃないだろうか。
そういえば、紅羅は腕に金の輪っかをつけていた。
今思うと、緊箍児だったんだ。
火の術を使う不知火家は水の術を使う水瀬家を昔から恐れていた。
邪魔な水瀬家を潰そうとしているのかもしれない。
「緊箍児〜!」
俺の話を聞いて素っ頓狂な声を上げる隼人の口を慌てて塞いだ。
「シッ!お前、声が大きい」
「ごめん。でも、緊箍児なんて伝説でしか聞いたことないもの出してきて……ますます厄介だな」
「最初の花火もあいつらの仕業だろう。お前はもし不知火か水瀬を選べと言われたらどっちを選ぶ?」
多分近い将来選択を迫られるはず。
俺の問いに隼人はとびきりの笑顔で答えた。
「そんなの決まってる。水瀬だよ」
「言うと思った」
彼の返答にフッと微笑んだ。
それから、隼人は今回の件を報告に一度風磨家に帰り、俺は水瀬家に戻って撫子の寝室に向かった。
離れていても彼女のことは常に頭にあった。
式神を撫子のそばにつけたのは、万が一撫子が鬼に襲われてもすぐに戻るため。
式神が俺に何も連絡を寄越さなかったのは彼女が無事だという証拠。
そっと彼女の部屋に入る。
「撫子の様子は?」
俺の声で、撫子のベッドのそばにいた式神と琥珀が俺の方を振り返った。
「尊さま、お帰りなさいませ」
「あっ、尊、お帰り〜」
撫子はベッドでぐっすりと眠っていた。
彼女のそばに行き、その頬に触れる俺に式神が言った。
「撫子さまはたまにうなされる時がありましたが、今は落ち着いています」
「今日は姉ちゃんの学校休ませたんだ。姉ちゃんは行きたがってたけどね。あと、尊がいなくて寂しがってたよ」
撫子を見ながら補足説明をする琥珀の頭をポンと軽く叩く。
「そうか。琥珀も式神もご苦労だった」
「尊が帰って来てくれて安心した。じゃあ、おいらは寝るね。あふ〜」
寝ずについていてくれたのか、琥珀は欠伸をしながら消え、彼と同時に役目を終えた俺の式神も消えた。
撫子とふたりきりになると、眠っている彼女に口付けて優しく微笑んだ。
「撫子、戻ってきたよ」