私の執事には謎が多すぎる ー 其の一 妖の獲物になりました

「やっぱり、鬼の気配はしないなあ。せっかく来たんだから、お嬢ちゃんの教室覗いていかない。ね、ね」
俺の腕を掴んでおねだりする彼の手を振り払った。
「ダメだ。お前が行くと授業がストップする」
「え〜、尊のケチ。いいよ。俺ひとりで覗きに行っちゃ……!」
俺に向かってニヤリと目を輝かせる隼人。
「行かせるか!」
この場から消えようとした隼人の首根っこを掴んだら、隣の校舎から眩い光が放たれた。
「え!何あの光!」
天に向かって大きく伸びた閃光を見て琥珀が目を丸くする。
「ホントだ。何あれ?」
隼人も動きを止めてその光に見入った。
「あれは石の……」
撫子が妖に接触した!
俺が光が放たれた場所に瞬間移動しようとしたら、「あっ、待って!」と琥珀と隼人が俺の腕を掴んでついてきた。だが、俺たち三人とも何かにぶつかり床に転がった。
ぶつけたところがじんじんと痛む。
「いって〜!」
「痛た〜!」
隼人と琥珀が呻きながらゆっくりと起き上がる。
俺も肘を少し打ったが、痛みを堪え、目の前のドアを見据えながら立ち上がった。
「結界か?」
移動先は医務室の前の廊下。
恐らくこの医務室から光が放出されたが、強い結界が張ってあって弾かれた。
「厄介な結界だな」
念を込めて医務室のドアを拳で叩くが、熱いしビクともしない。
叩いた拳には軽い火傷ができていた。
多分肘にも火傷が出来ているだろう。
「尊、ひょっとしてここに姉ちゃんがいるの?」
琥珀も立ち上がり、俺を少しキョトンとした様子で俺を見る。
「多分な」
「尊、あの光は何なの?」
今度は隼人が質問してきて、俺は医務室を睨みつけながら返した。
「撫子に預けていた石が反応したんだ」
「石って、いつも尊がつけてたやつ?でも、赤鬼が襲いかかってきた時、闇色に光ってなかった?」
観察力がいいのか、俺は石のことを話して聞かせたことはなかったのに彼はその反応に気付いていた。
「ああ。だが、石を身につけている者が妖に襲われて命の危険にさらされた時、石は持ち主を守るために閃光のような光を放つ」
「つまり、ここに妖とお嬢ちゃんがいるってことか」
隼人も急に真剣な顔でそう呟いて呪文を唱えた。
だが周りの教室のガラス窓が割れるだけで、結界は解けない。
「くそっ、ダメだ。俺じゃどうにも出来ない」
彼は悔しそうに悪態をつく。
そんな彼を見るのは初めてだった。
紅羅の結界は難なく解けたが、これはそうはいかない。
恐らく一角の鬼が張ったもの。
「この結界……すごい熱い」
琥珀が結界に触れ、顔をしかめた。
紅羅の結界とは桁違いの強度。
この中に撫子と妖がいるのに入れないとは……。
グズグズしてはいられない。
撫子を助けないと。
ハーッと息を大きく吸い込むと、結界に手をかざし呪文を唱えた。
解けろ!解けろ!
冷気が立ち込めきて結界が少しずつ凍ると、琥珀が目を見張った。
「尊……何を?」
一方、隼人はブルブル震えている。
「尊、なんでもいいけど早くやって。俺凍っちゃう」
「悪い。もう少し我慢してくれ」
さらに強く念じて結界が完全に凍ると、思い切り蹴りを入れた。
ガシャンと大きな音を立てて崩れる結界。
医務室の中にいたのは、ベッドに横たわる撫子と背広を着た長身の男性。その男性の頭には角がひとつあり、額には緊箍児が嵌められていた。
頭の中で見た鬼。
この鬼こそ、赤鬼の一角。
「撫子から離れろ!」
鬼に向かって叫ぶが、鬼は離れず俺を見て口角を上げた。
「人間が俺の結界を解くとはな。お前が、紅羅をやったのか?」
金色に輝く鬼の目。
その目からは憎悪を感じた。
「ああ。そうだ。大人しく妖の世界にいれば、死ぬことはなかったのにな」
冷淡に告げれば、鬼は傲慢な態度で言い返す。
「ほお。人間如きが生意気なことを言うな。しかも、私は赤鬼の煌だぞ」
「その鬼が人間に操られているとはな。その緊箍児は人間に嵌められたものだろう?」
煌の頭の金の輪っかを見てそんな皮肉を口にすれば、鬼はハハッと笑った。
「こんなもの。外そうと思えばすぐに外せる。人間の戯言に付き合ってやってるだけだ」
その言葉、嘘とは思えなかった。
チラリと撫子に目をやるが、今のところ気を失っていてどこも怪我はしていない様子。
隼人と琥珀は俺と赤鬼のやり取りを周囲を警戒しながら見守っている。
湖の時のようにたくさんの鬼が現れないとも限らない。
「それにしても……お前の顔どこかで見覚えが……」
煌が俺の顔をじっと見るのですぐに否定した。
「俺はお前に会うのは初めてだ」
「だが、確かにどこかで……まあいい。お前にはここで死んでもらう」
煌がニヤリとしたと思ったら、俺に向かって大きく手を振り上げた。
炎の渦巻が俺に襲いかかり、そのまま熱い火に包まれた。
「うっ!」と声を上げて熱さと衝撃に耐える俺を見て煌はほくそ笑む。
「その炎はじわじわとお前を焼いて焦がしていく。苦しんで死ぬがいい。この娘はもらっていく。この女を孕ませて次頭を生ませるというのも面白いな」
高笑いを浮かべ、撫子を抱き上げる煌。
「そんなの絶対に……させるか」
なんとか煌を止めたいが、俺を包む炎がなかなか消えない。
骨まで焼かれそうだ。
俺がすぐにやられないのは、昔炎に焼かれたことがあるから。
紅羅と戦うよりもずっとずっと前だ。
だが、息がうまく出来ず、身体も思うように動かせない。
紅羅と戦った時は、まだ精神的余裕があったが、今は全くなかった。
ただ焦りしかない。
このままでは撫子を奪い返せない。
なんとかしなければ。
一角と次頭ではこんなにも違うのか。
何も反撃出来ずにいる俺を見て隼人が声を荒らげながら竜巻を起こした。
「お前の好き勝手にさせるか!」
「姉ちゃんは渡さない」
琥珀も大猫に変身して自分の毛を針にして煌に放つが、いとも簡単に跳ね返される。
「無駄だ」
煌は指先を少し動かしただけ。
「……そんな」
琥珀は肩を落とし、隼人は煌の力を目の当たりにして引きつり笑いをする。
「ハハッ。これが一角の力か」
煌は琥珀に目をやった。
「お前もどこかで見覚えがある。妖の猫よ、人間と関わらず、自分のいるべき場所へ戻れ。次に人間と一緒にいるところを見たら問答無用で殺す」
煌は琥珀を見てそう告げると、撫子を抱き上げたまま消えようとする。
「煌待て!」
そう叫ぶのがやっとだった。
煌は炎に苦しむ俺を見て楽しげに目を光らせ、撫子を連れて消えた。
空を睨みつけ、大声で叫ぶ。
「忘れるな!絶対に撫子を取り返す!」
虚しく響く俺の声。
だが、ここで凹んでいてはいけない。
あの鬼は俺の一番大事なものを奪ったのだ。
煌への怒り。
それと、撫子を奪い返せなかった自分への怒りで煌の炎を跳ね返す。
身体が熱い。
炎に焼けるという意味ではなくて、自分の身体から熱が放出されている感じだ。
あいつが憎い。
撫子を連れ去ったあいつが憎い。
「尊、どうしたの!身体が宙に浮いてるし、目の色が金色に変わってる!」
琥珀の声でハッと我に返ると、次第に身体の熱が収まり、床にトンと降りた。
この感覚……前にも経験したことがある。
自分の手をまじまじと見つめる。
「悪い。……怒りでちょっと感情が乱れた」
少し呆然としながらそう返したら、隼人が苦笑いしながら突っ込んだ。
「感情が乱れたくらいであんな風にならないって。しかも、あの炎に耐えられるなんて尋常じゃない」
「だが……何の反撃も出来なかった」
そう呟いてギュッと唇を噛む。
ずっと大事に守ってきたのにこんな易々と彼女を奪われてしまった。
「で、どうする?」
俺に判断を仰ぐ隼人の顔を見据えて当然のように告げた。
「決まってる。撫子を奪い返す」
「奪い返すってどこに行ったかもわからないのに?」
驚いて聞き返す彼に目を向けず、ゆっくり目を閉じながら呟く。
「あいつは……自分の城にいる」
撫子に預けた石が俺の脳内に直接伝えてくる。
赤黒く燃え上がる城に煌と撫子がいる。
「……あっ、紅蓮城か!」
俺の言葉に琥珀が反応して声を上げるが、隼人はどこか消極的だ。
「その城にどうやって行くわけ?妖の世界にあるんだよね?」
彼が指摘した問題点を琥珀が手をあげてあっさり解決する。
「おいらが案内する」
琥珀の発言を手放しで歓迎出来なかった。
道案内してくれるのは助かるが、行けば生きて帰って来れないかもしれない。
「次はあの赤鬼に殺されるかもしれないぞ。それでもいいのか?」
琥珀をじっと見つめて問うと、彼は二パッと明るく笑って見せた。
「姉ちゃんはおいらを助けてくれた。姉ちゃんがピンチなのに何もしないのはおかしいだろ?」
琥珀も俺も撫子に救われている。
こいつも俺と同じ気持ちなのだ。
「わかった。琥珀、道案内を頼む」
琥珀と話を進めていたら、横にいた隼人が眉間にシワを寄せながら俺の腕を掴んだ。
「ちょっと待った〜!大事な問題が解決してないけど。あの赤鬼に勝つ自信あるの?」
勝つ自信なんてない。
さっきはあいつに攻撃することさえ出来ていなかったんだから。
「ない。だから、一緒に来いとは言わない。お前は残れ。命の保証は出来ないからな」
それで話を終わらせようとするも、隼人は引かない。
「いやいや、即決しないでよ。尊だって死ぬかもしれないってことでしょう?行かせられないよ」
「撫子を助けるためなら、俺の命なんてどうでもいい」
隼人の目を見てはっきりと告げると、彼は数秒黙り込んでまた口を開いた。
「ああ〜、もうわかりましたよ。俺も行きます。君たち救いようのないバカだけど、一緒についてく俺もバカだわ」
隼人のこういうところは嫌いじゃない。
「本当にいいんだな?」
確認すると彼は俺の肩をポンと叩いた。
「ああ。もう尊に俺の命預ける」
「じゃあ、みんなの覚悟が決まったところで行くよ。ふたりともおいらに乗って!」
琥珀が俺と隼人にニコニコ顔で声をかける。
「了解」
俺と隼人は声を揃えて返事をすると、琥珀の背に乗った。
「いかせしかやあへ」
琥珀が呪文を唱えると、周囲の空間が変化し、暗黒のトンネルのようなものが目の前に現れた。
音のない静かな空間を想像していたが、不協和音がトンネルの奥から聞こえる。
「ここから妖の世界に行けるんだな」
この先に撫子がいる。
じっと前を見据えていたら俺の背後から緊張感の欠片もない声が聞こえた。
「あー、なんかふかふかで寝そう」
俺の後ろで隼人が琥珀の毛を撫で回すので、琥珀が身体をゆすりながら文句を言った。
「隼人、くすぐったいって。振り落とすよ!」
「わー、ごめん、ごめん。この悲壮感漂う空気を変えたくてさ」
琥珀の毛にしがみついて謝る隼人を見てフッと笑った。
「お前はホントいい性格してるよ」
「それ褒めてる〜?」
琥珀に振り落とされそうになりながら叫ぶ隼人の方を振り返り、ニヤリとした。
「ああ。精一杯褒めてる」
それから琥珀が闇のトンネルの中を駆け抜ける。
だが、すんなり通り抜けは出来なかった。
たくさんのツタが俺たちに遅いかかる。
琥珀がジグザグに走って避けようとするが、全部は無理で俺と隼人に絡んできた。
「うげっ、何これ!」
腕に絡みつくツタを見て隼人がギョッとして大きく仰け反った。
「ボーッとするな!」
ネクタイを剣に変え、俺や彼に絡むツタをぶった斬った。
「悪い。なんせ妖の世界に行くのって初めてだからさ」
隼人は体勢を立て直し、次に現れた大きなカブト虫の大群を風を操って吹き飛ばす。
「でも、ちょっと慣れたわ」
ニヤッとする隼人。
適応能力は人一倍高い。
「ほら、余裕ぶってると、雑魚妖怪にやられるぞ」
俺は目の前に飛んできたカマキリを息をふきかけて凍らせた。
雑魚妖怪の相手をどれだけしただろう。
五時間、いや六時間?
人間の世界のように太陽がないから時間の間隔がわからない。
雑魚といえども、術を使えば体力を消耗する。
俺も隼人も息が上がっていた。
「赤鬼さんのお城はまだあ?」
隼人が背後から襲ってきた鳥を風で遠ざけながら琥珀に尋ねる。
「もう少しだよ」
琥珀の言葉通り、目の前に赤黒く燃え上がる岩の城が見えてきた。
石が俺に見せてくれたものと同じだ。
空気が乾燥していて喉がイガイガし、肌も熱を感じてチクチク痛む。
まるで俺たちがここに来るのを阻んでいるかのようだ。
あれが煌の城、紅蓮城。
巨大でまるで山のようだ。
煌の部下の鬼たちが何十匹もいて城の周囲を囲み、警備をしている。
「尊、正面突破する?それともどこかからこっそり侵入する?」
琥珀の問いにしばし考える。
見た感じどこも守りが堅い。
同じ警備なら……。
「正面突破しかない」
俺が正面の門を見据えて答えれば、隼人がヒューと口笛を鳴らす。
「尊って大胆だな」
「わかった。尊も隼人しっかり捕まってて」
クスッと琥珀が笑って速度を上げると、鬼が俺たちに気づいて火の玉を投げてきた。
「琥珀、火の玉は俺と隼人でなんとかするから、お前は真っ直ぐ走れ!」
そう指示を出すと、琥珀は「へーい」と返事をしてさらにスピードを上げた。
無数に飛んでくる火の玉を俺が水の術を使って消せば、隼人は風の術で鬼に倍返しする。
琥珀が俺の背の五倍はありそうな大きな門をぶち破り、俺と隼人は琥珀の背から飛び降りた。
城内に入ったはいいが、鬼に囲まれる状況は変わらない。
「鬼ってさあ、湧いてくるよね?どっかに製造機でもあるのかなあ?」
鬼を見てうんざりした顔になる隼人の質問にニコッと笑って返した。
「あるんじゃないか」
「食糧自給率とかさあ、貧困とかさあ、鬼もちゃんと考えてほしいね」
「たまに面白いこと言うな。鬼がそんな社会的なことを考えるわけないだろ」
フッと俺が笑ってそんな感想を口にすれば、琥珀は真面目な顔で隼人を注意する。
「隼人は現実逃避しすぎ。倒していくしかないんだよ」
火の槍がビュンビュン飛んできて隼人が「わっ!ちゃんと予告してよ」と不満を口にしながら、しなやかな身のこなしで避けていく。
琥珀は数人の鬼と直接やり合い、猫パンチ相手を翻弄し、毛の針を放って鬼を倒していった。
俺も前へ進みながら、遅いかかってくる鬼を一刀両断する。
撫子は城の最上部にいると俺の本能が告げるが、中は迷路のようになっていてなかなか最上部に行けないし、隼人の言葉じゃないが鬼が湧いて出てきてじっくりと道を選ぶ暇もない。
「また行き止まりか」
突き当たりがただの岩なのを見て俺が少し落胆すれば、横で隼人が「城の地図が欲しいよね」とボヤいた。
「ごめん。おいら城の中まではわかんなくて」
肩を落として謝る琥珀に優しく言葉をかけた。
「お前のせいじゃない。ここまで連れて来てくれて感謝してる」
正直言って、琥珀がこんなにいい戦力になるとは思わなかった。
普通の鬼なら琥珀は難なく倒せる。
「さあ、ぐずぐずしている暇はない。また戻るぞ」
隼人と琥珀に声をかけてもと来た道を鬼を倒しながら走る。
しばらくは長くて狭い一本道。
琥珀は少年の姿になって鋭い爪で鬼を引き裂き、隼人も風を操って鬼を切り裂く。
鬼が現れないと思ったら、火の矢や火の玉が飛んで来て結界を張って防ぐも巨大な火の玉が前から転がって来て……。
「結界が壊れた!」
ギャーギャー隼人と琥珀が騒いでまた来た道を引き返そうとする。
「落ち着け!」
俺はふたりを一喝しながら、息を吹きかけて大玉を凍らせ、剣で粉々に砕いた。
「おお、さすが、尊」
隼人と琥珀が手を叩いて俺を褒めるが、冷ややかに返した。
「ほら、行くぞ」
一本道を突き進んでいくが、また行き止まり。
「完全に迷子になってない?」
岩の壁を見て隼人が苦笑し、琥珀は悔しそうに爪で岩を引っ掻く。
「あー、行き止まりばっかりで嫌だあ」
「だったら、この岩をぶち抜こう」
じっと岩を見据えるながらそんなことを口にすれば、ふたりは呆気に取られた顔をする。
「え?ぶち抜けるの?」
「やってみる」
手をかざして意識を集中させる。
それは是清さんが俺に教えてくれた水の術の使い方。
俺が使える水の術は全て是清さんから学んだもの。
他の術は自分の目で見て会得した。
どこからともなく水が湧き出して岩の壁を一気に破壊する。
それを見た隼人と琥珀が「すげ〜!」と歓声を上げるが、岩の壁の向こうは沼のように大きなマグマ風呂だった。
真っ赤なマグマがぐつぐつと音を立てていて、そのマグマの中から鬼が生まれて風呂から這い上がってくる。
「隼人、このマグマ風呂が赤鬼の製造機みたいだぞ」
俺がその話を振ると隼人は引きつった笑いを浮かべた。
「……近づきたくないなあ。落ちたら溶ける」
「おいらも隼人に賛成」
珍しく琥珀が隼人の意見に賛成する。
「そう言ってるとマグマ風呂に落とされるぞ」
琥珀と隼人を注意しながら鬼を倒すが、さすがに疲れが出て来て息が上がる。
隼人も琥珀もヘトヘトといった様子だ。
倒しても倒しても鬼は減らない。
やはり元を絶たないとダメなのだろう。
これからの煌と対戦することを考えると体力を温存しておきたいが、このままではみんなマグマ風呂に落とされれてしまう。
「隼人、琥珀、しばらく鬼を引きつけてくれ!」
大声でそう叫ぶと、マグマ風呂を見据えて呪文を唱えた。
すると、ぐつぐつ煮え立っていたマグマが一瞬にして凍る。
「いや〜、神業だよね。尊が味方でよかったわ」
感心しながら凍ったマグマ風呂を眺める隼人の言葉に琥珀が調子よく相槌を打った。
「ホント、ホント」
だが、喜んではいられない。
まだ煌と対戦していない。
「もたもたしている暇はない。行くぞ」
一刻も早く撫子を救いたい。
隼人と琥珀に声をかけると、くねくねした岩の通路を駆け上がる。
邪魔をする鬼もいるが、もう数は少ない。
鬼を剣で倒し、城の天辺まで上りつめたところで岩の空間が西洋のお城の玉座の間に変化した。
玉座には背広姿の煌が笑みを称えて座っていて、彼から少し離れた場所で撫子が足枷をつけられ、床にぐったりと横たわっている。
その首筋には血を吸われた痕があった。
それを見て心が乱れた。
撫子!
だが、目を凝らしてよく彼女を見ると、ちゃんと息はしているようで少しホッとした。
よかった。生きている。
俺が預けた魔除けの石のネックレスを彼女はしていない。
煌に石を破壊されたのだろうか?
だとすると、彼との戦いはかなり厳しいものになるだろう。
石が彼女を守っているならば、戦いに集中できたのにな。
勝算は全くない。
煌との距離は十間ほど。
そんな彼女の傍らには頭に二本角がある少年がいる。
煌と同じ背広を着ていて、俺が前に倒した紅羅にそっくりだったが、ひと回り小さい。
目が金色だし、彼は紅羅の後の次頭なのだろう。
「よくここまで来たな。褒めてやろう。だが、もうすぐお前たちは死ぬ」
玉座から煌がゆっくりと立ち上がると、撫子が俺たちを見て声を振り絞るようにして叫んだ。
「ダメ!ここに来ちゃダメ〜!」