「あいつ、自殺する気じゃねーだろうな」
庭のプレハブ小屋兼、俺の自室。キーボードのエンターキーを押したあと、印刷所へ送ったクイズ問題集のデータがもう自分の手を離れたことを確認して、俺は椅子の背にもたれた。
いや、あいつは生きたいと言っていた。持病で死にたいときもあったけど今は違うと。そうはっきり言った祈本を疑いたくはない。
けれど、理論じゃなくて本能が言っている。今日の祈本はおかしかった。いつも多少おかしいやつではあるけれど、あれはそういう種類の奇妙さではなかった。ダンが屋上の怪談を話してから、祈本の輪郭だけが、すうっと夕暮れの中へ薄くなっていくような感じがした。何かを思い出したような、何かに呼ばれているような。そんな顔だった。
デジタル時計を見る。
午前一時。
俺は頭を掻いた。しばらく画面を睨んで、それから乱暴にパソコンの電源を落とした。
「らんらららーん、らんらんらららーん♪」
午前一時。
俺はわざと間の抜けた鼻歌を歌いながら、黄色いスーパーカブに掛けていたヘルメットを被った。顎紐を締め、車体を引いて庭から道路へ出す。深夜の夏の湿気が肌にぬるく貼りついた。
クビキリギスが、ジージーと鳴いている。遠くでは、ホッホー、ホッホー、とアオバズクの声がした。いつもの田舎の夏の夜。カブに跨がり、エンジンをかける。ブロロロ……という音が腹の下で震えた。
切れかけた街灯が、道の先でちかちか点滅している。明かりの周りには、大きな蛾が何匹も集まっていた。白い羽が、光の中でばたばたと乱れている。昼間は何度も通っている道なのに、深夜というだけで、まるで知らない場所に見えた。畑も、用水路も、民家の塀も、全部が黒く沈み、こちらを見ているような気がする。
「るーるんるんるん〜、んんん〜〜♪」
さらに大きな声で鼻歌を続ける。
怖くない。お化けなんか、まっったく怖くない!
俺はひたすら大声で鼻歌を歌い、お化けたちを威嚇しながらカブに乗って道路を走る。
カブのフロントには、ココロ先輩の文字で「FIGHT‼︎」と書かれていた。
