帰り道、俺たちは並んで歩いていた。
空は低く曇り、夕方の風が強い。学ランの上にウィンドブレーカーを着ていても、首元から冷えが入り込んでくる。そろそろダウンが必要になってくるころだろう。
特に話すこともなく、二人で秋の通学路を歩く。祈本はもともとよく喋るやつではないし、俺も部活で散々喋ったあとだった。
ふと、足元にどんぐりが落ちているのが見えた。拾い上げた瞬間、あ、と思う。
「これだよ」
「なにが?」
「クヌギのどんぐり」
俺は手のひらを開いて、祈本に見せた。
「クヌギ先生のあだ名の由来。前に聞いたとき、お前、よくわかってなさそうな顔してただろ」
そう言って渡すと、祈本はどんぐりを受け取り、じっと見つめた。クヌギのどんぐりには、もじゃもじゃした帽子がついている。その形が、パーマをかけたクヌギ先生の髪型に似ているのだ。
「……初めて見た」
「はぁ? そんなわけある? 公園とか、どこにでもあるだろ?」
祈本は答えず、手の中のどんぐりを真剣に見ていた。
「いや、本当に初めてなんだ。どこかで見たことはあっても……こうやって、名前を認識して、まじまじ見たのは初めてだから……初めまして、という感じがする」
そう言って、祈本はどんぐりをくるくる回した。横から、上から確かめるように眺めて、それからふっと笑った。
「……ほんとだ。クヌギ先生に似てる」
その笑顔は、久我山にとって初めて見るものだった。優しかった。慈しみがあった。普通の人間のように思えた。
枯れ葉がカラカラカラと音を立てて道路を追いかけっこしている。それを車がクシャッと無慈悲に踏んだ。そのそばで、また別の葉が木から離れ、ふわりと舞って、追いかけっこに加わっていく。
それを見ながら思った。
俺はまだ負けるわけにはいかない。
もう秋も終わりかけだった。あと数ヶ月で、栄光杯が来る。そこに一年を賭けた約千五百人のクイズプレイヤーが一つの場所に集まり、その大半は、たった半日のうちに名前も残さず敗れていく。
去年は、中二での最年少優勝。今年は、誰も成し遂げていない二連覇を取りにいく。
隣では、祈本がクヌギの帽子を人差し指にはめて、どこか楽しそうに眺めている。俺はそれを横目で見ながら、ひとり、燃える闘志を抱きしめていた。
