怪奇!ユキ!マジック!



僕が傑作と称する「ユキ」について書こうと思う。
ユキ、市小屋優希、市立弘徳中学校、十四歳。
オカルトが好きで、空気を読まない発言少々、ネットミーム混じりの口調は他人の共感性羞恥を刺激する。
「草」をリアルで言っちゃうような奴だ。
ここまでは僕の自己紹介をした場合とそう変わらない。
僕が「ユキ」を傑作だと思っているのはその容姿だ。
ちなみに僕はユキの事が好きとか可愛いとか思っているわけじゃない。完成されているとは思っているけど。
あくまで観察対象であり、心の友である。
それを踏まえてユキの容姿を説明しよう。
冷たそうな白い肌に、少し眠たそうな大きい目はくるくるしたまつ毛に囲まれていて、唇は薬局で見かける俳優みたいなピンク色で膨らんでいた。
少し長めの不揃いな前髪はユキをより幼くさせていた。肩まで伸びた髪はいつも両肩の上で小さく括られていた。ユキが動くたびに跳ねる両肩の子分は、通り過ぎる他人、見知った友人、全ての視線を釘付けにした。
そしてユキは、その貧相な身体を覆うには少しサイズの大きい学ランを着ていた。
僕たちが通っている中学は僕たちの代から、男女の校則が統一され、男子は髪を伸ばしても括っていれば良く、馬鹿馬鹿しいことにスカートも選ぶ事が可能で(一人もいないが)、女子もズボンを選ぶ事ができた。
そしてユキは、男子旧制服の学ランと、伸ばした髪をカラフルなゴムで二つ結びにする事を選んだ。
ユキは、僕と同じ性別の男だった。


僕について

僕。目広麻勇。市立弘徳中学校、十四歳。
好きな物はたくさんある。ネットサーフィンが特に好きだ。
ミーハーで逆張りで学生生活をエンジョイする友達も彼女もいないつまらない人間だ。
どのくらいつまらないかって言うと、先日の下校時刻突然降った雨の中、傘に入れてくれる友達もいないせいで風邪をひき、二日欠席、途中診察に行った病院でインフルエンザに罹患し、さらに一週間欠席。
その結果、ユキの葬式にクラス参列しそびれてしまった。そのくらいつまらない人間だ。
「…………」
朝、回復した僕はいつも通り準備をして登校し、教室の異様な静かさに違和感を感じた。
そしてユキの席に置かれた花瓶を見て、現在も風邪の悪夢の中なんじゃないかと錯覚を覚える程に混乱した。
混乱でハイになってしまった僕はすぐ近くにいたクラスの女子に話しかけてしまい、全てを教えられた。
ユキは死んだんだ。
グループラインに入ってなかった僕にわざわざ連絡を取れる人なんておらず、そもそも忘れられていた。
だって先生からも何の連絡がなかったのだから。
もし連絡があったら僕は這ってでも参列しただろう。
あの完成された存在の最後の姿を目に焼き付けに向かったに違いない。
しかし今更だ。どうしようもならない。
ユキは僕が雨に濡れて帰った日に、行方が分からなくなったと家族が警察に相談し、その日のうちに川に浮かんだ死体が発見されたらしい。
「自殺らしい」「事故らしい」そんなふわふわ雲を掴むような曖昧な死因が学校中で話し草にされている。
僕は自殺だったら良い、そう思った。
周りが噂するような、「成長が進んで二つ結びが似合わなくなるのを恐れて」なんて馬鹿な理由じゃない。
こんな寒い日に雨で流れが速くなった川に流されるユキ……。
もし事故だったら、ユキはきっとびっくりしてもがいただろう。茶色くなった水をたくさん飲み込んでしまい、恐怖を感じながら、必死に何かに掴まろうとして、もがき、叶わず、苦しみながら死んだ。
考えるだけで僕の胸は張り裂けそうだ。
もし自殺だったら、現実に絶望し、ここじゃないどこかに逃げだすため、きっと恐怖を感じず、救われるために死んだんだ。
ユキにとって、死は救済だったんだ。
そう結論付ける頃には、世界は放課後になっていた。
馬鹿な僕からしたら意味のない授業とHRだった。
担任の間宮からは体調の心配と連絡を忘れていた謝罪をされた。
間宮は憔悴を隠した空元気と言った、全体的に痛々しい雰囲気を纏っていて鬱陶しかった。
大切で可愛い生徒が死んでしまった悲しみを本気で感じているのだろうか、それとも敢えて必要以上に悲劇に浸って感じているのだろうか。
こんな擦れた目線を間宮に向けてしまうのは、僕の性格が悪いから?それとも間宮の鬱陶しさは僕だけじゃなく本物だから?
間宮はよくユキの二つ結びを揶揄っていた。明らかに馬鹿にした目で、自分の感性がまともか周りを確認し、共有する仕草が僕にとって不快だった。
間宮の青臭さを僕は受け入れることができていない。
それにユキもよく、間宮によって不快にされた感情を僕に送信していた。
それでもユキはカリスマ的憧れを一定数集め続け、間宮の冷笑的目線をものともしていなかった。
ユキという傑作には到底及ばない間宮、僕はその構図が大変誇らしかった。
ユキ……。
君は永遠になってしまった……。でもそれは僕の心の中だけだ。
君にこんな器は小さすぎる。
寂しがり屋の君はこんなものじゃないだろう。
君はもっと傑作として広く永遠になるべきだ。
ユキは生前、よく口にしていた願望があった。
その願望を知ってるのは僕だけだ、僕だけが知っている。
だからそれを僕が叶えてあげよう。
決意を固めた僕は、口から大きく息を吐いた。
誰もいない教室で、荷物をまとめる。
忘れ物がないか確認してから、僕はユキの席に向かう。
「……………………」
ゴムが擦れる僕の足音が教室の中で響く。
窓の外から運動部の掛け声が聞こえた。
ユキの席の中はまだ教科書が入ったままで、明日になったらまたユキが座っていそうだった。
だけど机の上に置かれた古そうな花瓶に入った白い菊の花がそれはあり得ないと言っている。
花の匂いが少しする。造花じゃない。
ユキは少し悪趣味な所があった。
この席も喜んで座りそうだ。
ちゃんと残しておくよ、全部。君がここに生きていた証拠。
僕はポケットからスマホを取り出し、電源を入れた。