・
・【15 大和の現在の気持ち】
・
また場面が変わり、大和が一年先輩の女子マネージャー・石井先輩と会話している。
グラウンドにあるちょっとした段差に座っている石井先輩に並んで座って大和は話し掛けた。
「石井先輩、久慈に渡した練習メニュー、あれ最高ですねっ」
「久慈くんに渡したヤツね、あれは私が温めていた秘蔵の練習メニューだからっ、サイドのFWにはこれでしょ! みたいな!」
「秘蔵って、逆に何で今まで使わなかったんですかっ、秘密の蔵と書いて秘蔵って相当ですよっ」
大和は軽くボケたわけだから、笑顔でツッコんでほしいはずなのに、石井先輩は突然シュンとしてしまった。
『あれ、何か俺、下ネタみたいなこと言っちゃったかな、秘密とか、今の時代、下ネタだったかな』
と心の中で言う大和に、今の僕は「秘密を下ネタだと思う回路はかなり下ネタだよ」とツッコミたい。
すると石井先輩は悲しそうというか寂しそうに、
「実は、泰我くんのために……作っていたんだよねっ!」
と最後は明るそうにそう言い切ってから、石井先輩はまるで穴を埋めるように怒涛で喋る。
「サイドのFWと言えばやっぱり私にとっては泰我くんのドリブル突破でさ、ドリブルを極めつつもラストパスも上手く出せるような、ボールの置き方から考えるべきだという練習メニューで、常にゴールへの逆算を脳内でしていてほしいというか、泰我くんなら絶対それが出来て、出来るはずで、というかうん、絶対良い先輩になって、口頭で後輩に教えられていたはずで、だからなんというか、あ! 何か言葉訳分かんなくなってるよね! ゴメン! でもなんというか! とにかく! やっぱり使わないとなって思って! だから秘蔵から取り出すことにしたんだ!」
「泰我」
と大和は呟いて、唇を噛んだ。
石井先輩は立ち上がって、
「とにかく! 大和くんも休憩それくらいにして! 練習! 練習!」
と勢いだけの音を発して、大和の傍から逃げるようにどこかへ走って行った。
『あぁ、そうか……石井先輩って泰我のこと好きだったんだ……』
と、しみじみと心の中で思っている大和。
何だか僕はちょっと切ない気持ちになっている。
場面転換し、大和が勉強をしているシーンばかり矢継ぎ早に映し出されて、
『出来るだけ泰我の傍にいたいから、近くの東都大付属高校に受験するぞ!』
『というか東都の研究室に遊びに行っているわけだから絶対東都に行かなきゃダメだ!』
『俺の学力じゃ厳しいっ? そんなん分かってる! でもやるんだよ!』
研究室の教授、やっぱり今よりも若い教授が大和にこう言っている。
「出来るだけ、最大限の推薦を書いておくが、やはりテストの点も不可欠だ。頑張ってくれたまえ、大和くん」
「はい!」
『絶対に東都大付属高校に入る!』
一瞬教室で呆然としている光景が流れて、
『はぁ? 何でナツキが夕暮大付属高校に推薦でぇっ? アイツ、バカだし、何もやっていないのに、どういうコネがあるんだぁっ?』
この辺では一番優秀な生徒が通う高校だ。というか将来約束されていると言っても過言じゃない。
東都大付属高校は研究分野が盛んで、その一点のみ夕暮大付属高校よりも上だけども、総合的には、というか学歴を言う場面があれば絶対に、思考停止で夕暮大付属高校のほうが上とされている。
でもきっとそれも、警視総監の娘というコネが発動されたんだろうなぁ、と今だったら分かる。
しかしながら当時の大和は本当にビックリしただろうなぁ。
大和は無事、東都大付属高校に入学した。まあ今まさに東都大にいるから、そりゃそうなんだろうけども。
高校では一心不乱で勉強と研究をし、高校卒業間際で、培養された思い出とその培養菌を大和が発明していたのだ。
そこからシャーレという形に行きつき、大和が大学生になったところで、僕の枕元に置いていく生活になった。
そしてついに僕が目覚めると、
『泰我が目覚めた! 泰我が目覚めた!』
と僕と会話している最中もずっとそのことばかり脳内に埋め尽くされていて、その日の夜には嬉し泣きというかもう大号泣をして、ちょっと落ち着いたところで、白樺や鶴橋に通話で報告するわけだけども、白樺への報告も、鶴橋への報告でも、大和は泣いてしまっていた。
僕と一緒にリハビリをし、ついに完了し、ナツキと対面の前の一週間の間に、防刃ベストをアマゾンで注文しつつ、自分の足で稼いだ情報で実店舗に行き、購入しようとするが、購入のためには何の用途が説明しないといけないらしく、詳しく状況を話していくと決まって、ノーを突き付けられていた。
多分ナツキの件だと知ると、みんなナツキの裏回しにより、そういったモノは購入させられないようされていたんだろうって、今、ナツキの父親が警視総監ということなら分かるけども、当時の大和は、
『一体何なんだ! どうなっているんだ!』
と憤ってくれていた。
結局大和は考えた挙句、説明する時に自分の名前も伏せて全く別の、嘘の話をして、お店側に説明すると買わせてもらえて、防刃ベストをゲットしていた。ちなみにアマゾンのほうは一週間以内には届かなかったみたいだ。
なんとか一旦は無事に乗り越えたものの、ナツキがカウンセリングを受けない話を聞いて驚愕する大和。
『どうなっているんだ! 本当に! こんな法律で合っているのかよ! 絶対おかしいだろ! そこに拒否権あるの本当意味分かんないわ! だって世の中には拒否権が無い事柄だってあるじゃん! そうすればいいじゃん! 本当に!』
大和は何かアイデアが無いかと研究室でいっぱいアイデアを出し合っていた。喧々諤々で、何時間も何日もやっていてくれていたんだ。
そして僕のアイデアを実現することにし、赤黒い培養菌の中身を見始めた大和。
その時だった。
僕にとっては大事件が起きてしまったのだ。
『そんな……泰我……』
そう、僕が大和に疑心暗鬼していたことは勿論、培養された思い出内で何回も殺していたことを大和に見られてしまったのだ!
思考停止する僕に大和はこう言った。
『そんなに苦しんでいたんだ……泰我……ゴメン……俺がダサいせいで……もっと泰我に感謝を伝えていれば良かった……もっと楽しいって言っていれば良かった……ゴメン、泰我……俺、絶対に泰我を一人にはさせない……ナツキのような異常者から守る……いいや、どんな連中からも守る……俺は絶対に泰我と一緒にいる!』
まさかそんな解釈をしてくれるなんて思ってもいなかった、いいや、その後に僕は大和とシェアハウスして今もしているわけだから、許してくれていたことはまあちゃんと考えれば分かることだけども。
でもこんなことをしていても許してくれるなんて、本当に大和の器は大きいと思った。どんなことも許容してくれるなんて本当に僕は幸せ者だ。
だからって嬉しいばかりじゃいられない。やっぱり自分の愚かさには胸が心底ギュッとなる。もっと僕は大和のために何かしてあげたい。
この大和の脳内を巣食う赤黒い培養菌を絶対に除去してやる、と心に改めて誓った。
二人での赤黒い培養菌のチェックが終わり、ナツキもカウンセリングを受ける方向に変わり、ホッと一息は束の間、僕がナツキと対面した時、大和は全てを投げ出して僕のもとへ向かってくれた。
『泰我!』
『泰我ぁ!』
『何も無ければいいが……!』
『俺の命に代えてもいいから俺は泰我に生きていてほしい!』
必死に願いながら電車に乗って、走って僕のもとへ着くと、
『泰我がいてくれた! 良かったぁ!』
と安堵しながら、ナツキを追い払ってくれた。
シェアハウスは大和から言い出してくれた。
その時に大和は、
『シェアハウス出来ることになった! でもなんか……泰我の不幸を利用しているみたいで良くないかもな……』
と自己嫌悪していることを知った。
『それでも泰我と一緒にいたくてなぁ……』
全然不幸の利用とかじゃないし、僕にとって良過ぎる条件なわけだし、そんなこと思う必要なんて無いのに。
護身術の成果なのか、とにかく僕がナツキを転ばせて気絶させて、僕が大和へ赤黒い培養菌を懇願している時、
『泰我は気付いていないかもだけど、もしかすると殺せるのでは?』
と、なんと大和も思っていたことが発覚した。
『ナツキなんて絶対に死んだほうがいい、赤黒い培養菌を置いて殺せればそれでいい』
『泰我が懇願しているからそうしているけども、泰我が言わなきゃ優柔不断のフリして、赤黒い培養菌全部置いていたな、俺も』
でもじゃあ、そのあとの悩んでいる感じの、ナツキを死なせてしまったことを後悔しているような感じの期間は一体何なんだと思っていると、
『あぁ、泰我のせいにしてしまった……もっと俺が主導して、赤黒い培養菌を全部使うことを自ら言えれば良かった……罪を泰我に被せてしまった……いつも最後の最後でツメが甘い……泰我に明るく振る舞わせて、気を遣わせてしまっているし……俺は最低だ……』
そういう意味での憂いだったんだ。全然そんなこと考える必要も無いのに。僕もナツキには死んでほしかったし。
ふと、大和はこんなことを思っていた。
『ナツキも死んで、泰我とも別行動が出来るようになったわけだけども、それはちょっとだけ悲しいかな。ずっと泰我と一緒に行動したかったから。でもそれって重いよな、というか、いつかシェアハウスも辞めないとな』
あ、そっか、それが理由だとシェアハウス辞めないといけないのか、じゃあ大和が目覚めたら、一緒にシェアハウスを継続しようって僕から言おう、と普通に思った。
ある日、あの空き地の前で僕が倒れていることに気付き、すぐに駆け付けた大和。
ナツキがいる、あの赤黒いモヤの空間に立ち、さらには僕にかばわれて、僕は首元を裂傷し、血を噴き出して。
大和は怒り狂ってナツキをボコボコにして、ナツキはモザイクだらけになって消えていくと、現実に戻り、大和は目覚めたが、僕は目覚めなくて。
『また泰我が、泰我が、俺のせいで、あぁぁあああああああああああああああああああぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
心の声からシームレスで大和はその場で叫び、気付いた周りの人が警察や救急車を呼んだんだと思う。
その後、大和は僕のことなどを説明しないといけないので、お医者さんや警察官に全てを話すと、大和はすぐに刑務所に入れられてしまった。問答無用といった感じ。
でもそこで大和は模範囚を務めていると、面会があり、面会相手は知らない名前。僕もその面会相手の名前が書かれた紙を見れたからだけども、僕も知らない名前だ。
大和は、
『泰我の親戚かな?』
とか思っているけども、僕の親戚でもない。
でもその面会相手の顔を見た時に、正直すぐに分かった。ナツキの父親だ。顔がほとんど一緒だ。
面会中はつきっきりで刑務官がいるんだけども、ナツキの父親はその刑務官を外に出して、二人っきりにさせられてから、ナツキの父親がこう言った。
「ナツキを殺してくれてありがとう」
僕は勿論、記憶の中の大和も驚愕している。
ナツキの父親は吐露していった。ナツキは自分の(ナツキの父親の)交際相手の男性と仲良くなり、ソイツからありとあらゆる異常性を叩きこまれた、と。そもそもその自分の交際相手だった男性もナツキの父親への復讐で近付いてきていて、自分の娘をおかしくするため動いていた、と。
自分の個室に戻ってきた大和は小声で、
「じゃあもう本当に良いんだろうな……」
と噛みしめるように呟いた。
大和は出所後、シェアハウスしている家で生活をしているが、僕のリハビリ中、会いに行くことは病院から拒絶されていたみたいだ。そんなことを独り言していた。
だから僕が帰ってきた時、心底嬉しかったみたいで。
含みを持った感じで「一生一緒」と言ったことは、出来れば本当に、本当の本当に一生一緒にいたいという気持ちだったかららしい。
そんな、僕だって大和と一生一緒にいたいわけだから、全然普通だけども。
そんな緊張した心持ちで言わなくても全然良いのに。
やっぱり僕と大和は一心同体で、全て知った上でも仲良く出来て、と思っていたら、どうやら大和側に秘密があることが分かった。
実は、とあるLINEを大和はずっと無視していた。
それは石井先輩からの通知で、出来れば僕にお祝いを直接言いたいと、言ってきていた。
大和は石井先輩が僕のことを好きなことは知っているから、大和は僕を石井先輩にとられると思って、石井先輩の話を出せなかったらしい。
『俺って女々しいなぁ……別に泰我のことを本当に想ってくれる彼女が出来ることはいいことなのにさ……本当に俺ってキモいかも……』
すると、なんと今まで見ていた脳内の光景よりも、さらにボヤボヤした、もっと不確定な世界というか空間になった。
これは……大和の夢……? と直感で抱いた。
実際そうらしく、その大和の夢にはなんとナツキが出現し、
「泰我を独り占めにしたい? アタシと一緒じゃないか」
「あの女に会わせればいいのに、あ、自分が捨てられると思って怖いんだ」
「やっぱり恋愛が一番だもんねぇ」
「泰我に捨てられる大和、ウケるぅ~」
いや、これはあれだ、これこそ赤黒い培養菌の中身だ。
脳内の赤黒い培養菌にナツキの残留思念のようなモノが混ざって、こういう夢を見させているんだ。
死んでも誰かのことを苦しめているということだろう。
大和は毎晩毎晩ナツキからチクチク言われ、研究室で石井先輩から連絡がきた時についに倒れてしまったみたいだ。
じゃあここからは記憶の中の世界じゃない、新しく作られる部分だと思い、僕はモヤの掛かった空間の中で倒れている大和に拳を握って力強く呼び掛けた。その時に間接視野で自分の拳が半透明から元の姿になっていることを一瞬確認しつつ。
「大和! 起きて! 僕は大和がいないとダメなんだよ! 例えちゃんとした彼女が出来たとしても! 僕と大和の絆は一生だよ!」
すると大和が上体を起こし、
「ここはどこだ、というかどうしたんだ、泰我」
「実はその、申し訳無いかもだけども僕は大和の半生を見てきたんだ、大和の脳内に入り込んで。だからここは多分大和の脳内」
すると大和は立ち上がりながら、
「うん、何かそんな気がする」
と納得してくれた。
大和は続ける。
「同時にずっと心の中にいてくれて心強かった気がするよ、でも恥ずかしいな、俺の没ボケも知っちゃったってことぉ?」
いつも通りボケてくる大和。良かった、正常みたいだ。
僕はツッコむように、
「没ボケはいいとして、なんせ没ボケはあとでブラッシュアップして出してくれればいいから」
と言っておくと、大和は笑ってくれた。
いやそんなことより、と、僕は柏手一発叩いてから、思ったことをそのまま口にすることにした。
「こんなに思ってくれていることは本当に嬉しいし、僕と大和は相思相愛なわけだからナツキとは全然違うよ」
そう言った瞬間、この空間がちょっと動揺するように振動したような気がしたので、僕は改めて、声を大にして叫んだ。
「ナツキと大和は全然違う! ナツキはもうこの世界からいなくなれ! この世界は大和の世界だ!」
すると周りのモヤがキラキラと輝きだして、何だか赤黒い培養菌も浄化されたような気がした。
改めて、僕は言いたいことの続きを言うことにした。
「でも、でもやっぱり僕は石井先輩とも、どうなるか分からないけども、ちゃんと挨拶がしたい。僕にとって大和が一番だけども、もっと僕はいろんな人間を知るべきだと思うんだ。僕はもっと成長したい。いろいろあった上で、いろいろ知った上で僕は大和と一緒に人生を歩んでいきたい」
と答えると、大和は恥ずかしそうに後ろ頭を掻いてから、
「だよな」
と微笑んだ。
大和も僕も目を覚まし、脳波は随時チェックしていたみたいで、教授たちは「もう大丈夫」と言ってくれた。
大和の紹介で久しぶりに石井先輩と会って、最近のサッカーの話をたくさんして、LINEも交換して。
相変わらず大和ともシェアハウスをしていて、石井先輩ともお付き合いを前提に友達になったりしつつも、やっぱり一番は大和で。それも石井先輩は認めてくれている。
多分あの頃よりもずっと良い関係を大和とは築けていると思う……って、自己肯定感低めに考えることはむしろ大和にも失礼だと思う。
だから僕は大和とすごく良い関係だと自負している、と自信満々に言える。言う機会は、
「大和、今日もお疲れ様! 一緒の夕ご飯食べよう! そうそう大和に話したいことがいっぱいあってさ」
言う機会はいくらでもある。なんせ一緒に生活しているんだから。今日もいっぱい感謝しようと思っている。
(了)
・【15 大和の現在の気持ち】
・
また場面が変わり、大和が一年先輩の女子マネージャー・石井先輩と会話している。
グラウンドにあるちょっとした段差に座っている石井先輩に並んで座って大和は話し掛けた。
「石井先輩、久慈に渡した練習メニュー、あれ最高ですねっ」
「久慈くんに渡したヤツね、あれは私が温めていた秘蔵の練習メニューだからっ、サイドのFWにはこれでしょ! みたいな!」
「秘蔵って、逆に何で今まで使わなかったんですかっ、秘密の蔵と書いて秘蔵って相当ですよっ」
大和は軽くボケたわけだから、笑顔でツッコんでほしいはずなのに、石井先輩は突然シュンとしてしまった。
『あれ、何か俺、下ネタみたいなこと言っちゃったかな、秘密とか、今の時代、下ネタだったかな』
と心の中で言う大和に、今の僕は「秘密を下ネタだと思う回路はかなり下ネタだよ」とツッコミたい。
すると石井先輩は悲しそうというか寂しそうに、
「実は、泰我くんのために……作っていたんだよねっ!」
と最後は明るそうにそう言い切ってから、石井先輩はまるで穴を埋めるように怒涛で喋る。
「サイドのFWと言えばやっぱり私にとっては泰我くんのドリブル突破でさ、ドリブルを極めつつもラストパスも上手く出せるような、ボールの置き方から考えるべきだという練習メニューで、常にゴールへの逆算を脳内でしていてほしいというか、泰我くんなら絶対それが出来て、出来るはずで、というかうん、絶対良い先輩になって、口頭で後輩に教えられていたはずで、だからなんというか、あ! 何か言葉訳分かんなくなってるよね! ゴメン! でもなんというか! とにかく! やっぱり使わないとなって思って! だから秘蔵から取り出すことにしたんだ!」
「泰我」
と大和は呟いて、唇を噛んだ。
石井先輩は立ち上がって、
「とにかく! 大和くんも休憩それくらいにして! 練習! 練習!」
と勢いだけの音を発して、大和の傍から逃げるようにどこかへ走って行った。
『あぁ、そうか……石井先輩って泰我のこと好きだったんだ……』
と、しみじみと心の中で思っている大和。
何だか僕はちょっと切ない気持ちになっている。
場面転換し、大和が勉強をしているシーンばかり矢継ぎ早に映し出されて、
『出来るだけ泰我の傍にいたいから、近くの東都大付属高校に受験するぞ!』
『というか東都の研究室に遊びに行っているわけだから絶対東都に行かなきゃダメだ!』
『俺の学力じゃ厳しいっ? そんなん分かってる! でもやるんだよ!』
研究室の教授、やっぱり今よりも若い教授が大和にこう言っている。
「出来るだけ、最大限の推薦を書いておくが、やはりテストの点も不可欠だ。頑張ってくれたまえ、大和くん」
「はい!」
『絶対に東都大付属高校に入る!』
一瞬教室で呆然としている光景が流れて、
『はぁ? 何でナツキが夕暮大付属高校に推薦でぇっ? アイツ、バカだし、何もやっていないのに、どういうコネがあるんだぁっ?』
この辺では一番優秀な生徒が通う高校だ。というか将来約束されていると言っても過言じゃない。
東都大付属高校は研究分野が盛んで、その一点のみ夕暮大付属高校よりも上だけども、総合的には、というか学歴を言う場面があれば絶対に、思考停止で夕暮大付属高校のほうが上とされている。
でもきっとそれも、警視総監の娘というコネが発動されたんだろうなぁ、と今だったら分かる。
しかしながら当時の大和は本当にビックリしただろうなぁ。
大和は無事、東都大付属高校に入学した。まあ今まさに東都大にいるから、そりゃそうなんだろうけども。
高校では一心不乱で勉強と研究をし、高校卒業間際で、培養された思い出とその培養菌を大和が発明していたのだ。
そこからシャーレという形に行きつき、大和が大学生になったところで、僕の枕元に置いていく生活になった。
そしてついに僕が目覚めると、
『泰我が目覚めた! 泰我が目覚めた!』
と僕と会話している最中もずっとそのことばかり脳内に埋め尽くされていて、その日の夜には嬉し泣きというかもう大号泣をして、ちょっと落ち着いたところで、白樺や鶴橋に通話で報告するわけだけども、白樺への報告も、鶴橋への報告でも、大和は泣いてしまっていた。
僕と一緒にリハビリをし、ついに完了し、ナツキと対面の前の一週間の間に、防刃ベストをアマゾンで注文しつつ、自分の足で稼いだ情報で実店舗に行き、購入しようとするが、購入のためには何の用途が説明しないといけないらしく、詳しく状況を話していくと決まって、ノーを突き付けられていた。
多分ナツキの件だと知ると、みんなナツキの裏回しにより、そういったモノは購入させられないようされていたんだろうって、今、ナツキの父親が警視総監ということなら分かるけども、当時の大和は、
『一体何なんだ! どうなっているんだ!』
と憤ってくれていた。
結局大和は考えた挙句、説明する時に自分の名前も伏せて全く別の、嘘の話をして、お店側に説明すると買わせてもらえて、防刃ベストをゲットしていた。ちなみにアマゾンのほうは一週間以内には届かなかったみたいだ。
なんとか一旦は無事に乗り越えたものの、ナツキがカウンセリングを受けない話を聞いて驚愕する大和。
『どうなっているんだ! 本当に! こんな法律で合っているのかよ! 絶対おかしいだろ! そこに拒否権あるの本当意味分かんないわ! だって世の中には拒否権が無い事柄だってあるじゃん! そうすればいいじゃん! 本当に!』
大和は何かアイデアが無いかと研究室でいっぱいアイデアを出し合っていた。喧々諤々で、何時間も何日もやっていてくれていたんだ。
そして僕のアイデアを実現することにし、赤黒い培養菌の中身を見始めた大和。
その時だった。
僕にとっては大事件が起きてしまったのだ。
『そんな……泰我……』
そう、僕が大和に疑心暗鬼していたことは勿論、培養された思い出内で何回も殺していたことを大和に見られてしまったのだ!
思考停止する僕に大和はこう言った。
『そんなに苦しんでいたんだ……泰我……ゴメン……俺がダサいせいで……もっと泰我に感謝を伝えていれば良かった……もっと楽しいって言っていれば良かった……ゴメン、泰我……俺、絶対に泰我を一人にはさせない……ナツキのような異常者から守る……いいや、どんな連中からも守る……俺は絶対に泰我と一緒にいる!』
まさかそんな解釈をしてくれるなんて思ってもいなかった、いいや、その後に僕は大和とシェアハウスして今もしているわけだから、許してくれていたことはまあちゃんと考えれば分かることだけども。
でもこんなことをしていても許してくれるなんて、本当に大和の器は大きいと思った。どんなことも許容してくれるなんて本当に僕は幸せ者だ。
だからって嬉しいばかりじゃいられない。やっぱり自分の愚かさには胸が心底ギュッとなる。もっと僕は大和のために何かしてあげたい。
この大和の脳内を巣食う赤黒い培養菌を絶対に除去してやる、と心に改めて誓った。
二人での赤黒い培養菌のチェックが終わり、ナツキもカウンセリングを受ける方向に変わり、ホッと一息は束の間、僕がナツキと対面した時、大和は全てを投げ出して僕のもとへ向かってくれた。
『泰我!』
『泰我ぁ!』
『何も無ければいいが……!』
『俺の命に代えてもいいから俺は泰我に生きていてほしい!』
必死に願いながら電車に乗って、走って僕のもとへ着くと、
『泰我がいてくれた! 良かったぁ!』
と安堵しながら、ナツキを追い払ってくれた。
シェアハウスは大和から言い出してくれた。
その時に大和は、
『シェアハウス出来ることになった! でもなんか……泰我の不幸を利用しているみたいで良くないかもな……』
と自己嫌悪していることを知った。
『それでも泰我と一緒にいたくてなぁ……』
全然不幸の利用とかじゃないし、僕にとって良過ぎる条件なわけだし、そんなこと思う必要なんて無いのに。
護身術の成果なのか、とにかく僕がナツキを転ばせて気絶させて、僕が大和へ赤黒い培養菌を懇願している時、
『泰我は気付いていないかもだけど、もしかすると殺せるのでは?』
と、なんと大和も思っていたことが発覚した。
『ナツキなんて絶対に死んだほうがいい、赤黒い培養菌を置いて殺せればそれでいい』
『泰我が懇願しているからそうしているけども、泰我が言わなきゃ優柔不断のフリして、赤黒い培養菌全部置いていたな、俺も』
でもじゃあ、そのあとの悩んでいる感じの、ナツキを死なせてしまったことを後悔しているような感じの期間は一体何なんだと思っていると、
『あぁ、泰我のせいにしてしまった……もっと俺が主導して、赤黒い培養菌を全部使うことを自ら言えれば良かった……罪を泰我に被せてしまった……いつも最後の最後でツメが甘い……泰我に明るく振る舞わせて、気を遣わせてしまっているし……俺は最低だ……』
そういう意味での憂いだったんだ。全然そんなこと考える必要も無いのに。僕もナツキには死んでほしかったし。
ふと、大和はこんなことを思っていた。
『ナツキも死んで、泰我とも別行動が出来るようになったわけだけども、それはちょっとだけ悲しいかな。ずっと泰我と一緒に行動したかったから。でもそれって重いよな、というか、いつかシェアハウスも辞めないとな』
あ、そっか、それが理由だとシェアハウス辞めないといけないのか、じゃあ大和が目覚めたら、一緒にシェアハウスを継続しようって僕から言おう、と普通に思った。
ある日、あの空き地の前で僕が倒れていることに気付き、すぐに駆け付けた大和。
ナツキがいる、あの赤黒いモヤの空間に立ち、さらには僕にかばわれて、僕は首元を裂傷し、血を噴き出して。
大和は怒り狂ってナツキをボコボコにして、ナツキはモザイクだらけになって消えていくと、現実に戻り、大和は目覚めたが、僕は目覚めなくて。
『また泰我が、泰我が、俺のせいで、あぁぁあああああああああああああああああああぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
心の声からシームレスで大和はその場で叫び、気付いた周りの人が警察や救急車を呼んだんだと思う。
その後、大和は僕のことなどを説明しないといけないので、お医者さんや警察官に全てを話すと、大和はすぐに刑務所に入れられてしまった。問答無用といった感じ。
でもそこで大和は模範囚を務めていると、面会があり、面会相手は知らない名前。僕もその面会相手の名前が書かれた紙を見れたからだけども、僕も知らない名前だ。
大和は、
『泰我の親戚かな?』
とか思っているけども、僕の親戚でもない。
でもその面会相手の顔を見た時に、正直すぐに分かった。ナツキの父親だ。顔がほとんど一緒だ。
面会中はつきっきりで刑務官がいるんだけども、ナツキの父親はその刑務官を外に出して、二人っきりにさせられてから、ナツキの父親がこう言った。
「ナツキを殺してくれてありがとう」
僕は勿論、記憶の中の大和も驚愕している。
ナツキの父親は吐露していった。ナツキは自分の(ナツキの父親の)交際相手の男性と仲良くなり、ソイツからありとあらゆる異常性を叩きこまれた、と。そもそもその自分の交際相手だった男性もナツキの父親への復讐で近付いてきていて、自分の娘をおかしくするため動いていた、と。
自分の個室に戻ってきた大和は小声で、
「じゃあもう本当に良いんだろうな……」
と噛みしめるように呟いた。
大和は出所後、シェアハウスしている家で生活をしているが、僕のリハビリ中、会いに行くことは病院から拒絶されていたみたいだ。そんなことを独り言していた。
だから僕が帰ってきた時、心底嬉しかったみたいで。
含みを持った感じで「一生一緒」と言ったことは、出来れば本当に、本当の本当に一生一緒にいたいという気持ちだったかららしい。
そんな、僕だって大和と一生一緒にいたいわけだから、全然普通だけども。
そんな緊張した心持ちで言わなくても全然良いのに。
やっぱり僕と大和は一心同体で、全て知った上でも仲良く出来て、と思っていたら、どうやら大和側に秘密があることが分かった。
実は、とあるLINEを大和はずっと無視していた。
それは石井先輩からの通知で、出来れば僕にお祝いを直接言いたいと、言ってきていた。
大和は石井先輩が僕のことを好きなことは知っているから、大和は僕を石井先輩にとられると思って、石井先輩の話を出せなかったらしい。
『俺って女々しいなぁ……別に泰我のことを本当に想ってくれる彼女が出来ることはいいことなのにさ……本当に俺ってキモいかも……』
すると、なんと今まで見ていた脳内の光景よりも、さらにボヤボヤした、もっと不確定な世界というか空間になった。
これは……大和の夢……? と直感で抱いた。
実際そうらしく、その大和の夢にはなんとナツキが出現し、
「泰我を独り占めにしたい? アタシと一緒じゃないか」
「あの女に会わせればいいのに、あ、自分が捨てられると思って怖いんだ」
「やっぱり恋愛が一番だもんねぇ」
「泰我に捨てられる大和、ウケるぅ~」
いや、これはあれだ、これこそ赤黒い培養菌の中身だ。
脳内の赤黒い培養菌にナツキの残留思念のようなモノが混ざって、こういう夢を見させているんだ。
死んでも誰かのことを苦しめているということだろう。
大和は毎晩毎晩ナツキからチクチク言われ、研究室で石井先輩から連絡がきた時についに倒れてしまったみたいだ。
じゃあここからは記憶の中の世界じゃない、新しく作られる部分だと思い、僕はモヤの掛かった空間の中で倒れている大和に拳を握って力強く呼び掛けた。その時に間接視野で自分の拳が半透明から元の姿になっていることを一瞬確認しつつ。
「大和! 起きて! 僕は大和がいないとダメなんだよ! 例えちゃんとした彼女が出来たとしても! 僕と大和の絆は一生だよ!」
すると大和が上体を起こし、
「ここはどこだ、というかどうしたんだ、泰我」
「実はその、申し訳無いかもだけども僕は大和の半生を見てきたんだ、大和の脳内に入り込んで。だからここは多分大和の脳内」
すると大和は立ち上がりながら、
「うん、何かそんな気がする」
と納得してくれた。
大和は続ける。
「同時にずっと心の中にいてくれて心強かった気がするよ、でも恥ずかしいな、俺の没ボケも知っちゃったってことぉ?」
いつも通りボケてくる大和。良かった、正常みたいだ。
僕はツッコむように、
「没ボケはいいとして、なんせ没ボケはあとでブラッシュアップして出してくれればいいから」
と言っておくと、大和は笑ってくれた。
いやそんなことより、と、僕は柏手一発叩いてから、思ったことをそのまま口にすることにした。
「こんなに思ってくれていることは本当に嬉しいし、僕と大和は相思相愛なわけだからナツキとは全然違うよ」
そう言った瞬間、この空間がちょっと動揺するように振動したような気がしたので、僕は改めて、声を大にして叫んだ。
「ナツキと大和は全然違う! ナツキはもうこの世界からいなくなれ! この世界は大和の世界だ!」
すると周りのモヤがキラキラと輝きだして、何だか赤黒い培養菌も浄化されたような気がした。
改めて、僕は言いたいことの続きを言うことにした。
「でも、でもやっぱり僕は石井先輩とも、どうなるか分からないけども、ちゃんと挨拶がしたい。僕にとって大和が一番だけども、もっと僕はいろんな人間を知るべきだと思うんだ。僕はもっと成長したい。いろいろあった上で、いろいろ知った上で僕は大和と一緒に人生を歩んでいきたい」
と答えると、大和は恥ずかしそうに後ろ頭を掻いてから、
「だよな」
と微笑んだ。
大和も僕も目を覚まし、脳波は随時チェックしていたみたいで、教授たちは「もう大丈夫」と言ってくれた。
大和の紹介で久しぶりに石井先輩と会って、最近のサッカーの話をたくさんして、LINEも交換して。
相変わらず大和ともシェアハウスをしていて、石井先輩ともお付き合いを前提に友達になったりしつつも、やっぱり一番は大和で。それも石井先輩は認めてくれている。
多分あの頃よりもずっと良い関係を大和とは築けていると思う……って、自己肯定感低めに考えることはむしろ大和にも失礼だと思う。
だから僕は大和とすごく良い関係だと自負している、と自信満々に言える。言う機会は、
「大和、今日もお疲れ様! 一緒の夕ご飯食べよう! そうそう大和に話したいことがいっぱいあってさ」
言う機会はいくらでもある。なんせ一緒に生活しているんだから。今日もいっぱい感謝しようと思っている。
(了)



