病室のベッドに横たわる母の手を握る結衣。
▼結衣モノローグ
『母が死んだこの日、私は普通の女の子ではなくなって』
別邸の寝室(洋風)。結衣の前に跪く彩人。
彩人「これより先、貴女に仇なすものは、全て排除いたします」
▼結衣モノローグ
『幼馴染は、私の守護者となった』
【季節:四月】
●学校・昇降口(夕方/雨)
ザー……と、強い雨音。
次々と生徒たちが傘を開いて出ていく。
その流れの中、篠ノ井結衣は友人A・Bと並んで歩き、昇降口で足を止める。
(結衣容姿:十六歳。腰まで伸びたストレートの黒髪。瞳は黒。身長は146センチくらい。制服(ブレザー)を着用)
結衣、外を見つめて小さく呟く。
結衣「雨……」
空を見上げる。どんよりとした灰色。
A「結衣ちゃん、傘持ってる? 私の貸そうか?」
A、鞄から折りたたみ傘を取り出しかける。
結衣、軽く手を振りながら笑う。
結衣「あ、いいよいいよ。うち車だから」
彩人(コマ外)「結衣」
結衣、ぴくりと反応。前を向く。
雨の中、黒い傘を差した彩人が立っている。片手にはもう一本の傘。
(彩人容姿:十九歳。黒の短髪。瞳は赤。身長は180センチくらい。細マッチョ。長袖Tシャツにジーパン着用)
結衣、表情をぱっと明るくさせる。
結衣「彩人!」
弾んだ声。小走りで駆け寄る。
彩人、自然な動作で結衣の頭上に傘を傾け、もう一本を差し出す。
彩人「悪ぃ、取り込み中だったか?」
結衣、首を振る。
結衣「ううん、大丈夫。——それじゃあ、また明日ね!」
結衣、振り返り、A・Bに大きく手を振る。
A・B「ばいばーい!」
A・B、手を振り返す。
彩人、軽く微笑みA・Bに一礼。そのまま結衣と並んで歩き出す。
A・B、小声でささやき合う。
A「なにあの人……かっこよ……。結衣ちゃんのお兄さん?」
B「いや、幼馴染だってさ」
結衣・彩人、雨の中傘を差し、駐車場に停めてある車まで並び歩く。
▼結衣モノローグ
『この人は鬼葉彩人。小さい頃から一緒にいる、お兄ちゃんみたいな存在の人』
彩人の横顔。
●学校・駐車場
彩人、車の後部座席のドアを開ける。
結衣、乗り込む。
▼結衣モノローグ
『でも私達は世間一般の幼馴染とは少し違う』
彩人が運転席に座り、車を発進させる。
●病院・病室(夕方/雨)
窓を打つ雨音。薄暗い廊下。
病室の扉の横には、「篠ノ井詩織様」と書かれた名札。
結衣、花束を胸に抱え、少しだけ息を整えてから扉を開ける。
(※彩人は車内で待機)
静かな病室。
ベッドに横たわる母・詩織。
(詩織容姿:四十代。痩せ細り、儚げ。黒髪は腰まで流れている)
結衣、ゆっくりと歩み寄る。
結衣「お母様」
詩織、薄く目を開ける。
詩織「……結衣……来てくれたのね」
結衣、ほっとしたように笑う。
結衣「うんっ。具合はどう?」
詩織、僅かに息をつきながら。
詩織「少し……良くなってきたわ」
結衣「そっか……よかった」
窓際の花瓶まで移動。
詩織、申し訳なさそうに目を伏せる。
詩織「ごめんね……迷惑ばかりかけて」
結衣、花を花瓶に挿しながら、軽い調子で。
結衣「もう、そんな謝らないでよ。誰も迷惑だなんて思ってないんだから」
詩織、小さく笑う。
詩織「……ありがとう」
結衣、近くの椅子に腰を下ろす。
詩織「学校はどう? 楽しい?」
結衣「うん、楽しいよ。クラス替えでね、新しい友達も出来たの」
詩織「そう……」
詩織、微笑んだまま話を聞く。
詩織「彩人くんとはどう? 仲良くしてる?」
結衣、一瞬固まる。
結衣「えっ……う、うん」
視線を逸らし、僅かに頬が赤くなる。
詩織、その反応を見てくすりと笑う。
詩織「ふふ……そう」
短い沈黙。雨音だけが強くなる。
詩織、ふと真剣な眼差しになる。
詩織「……結衣」
結衣、顔を上げる。
詩織「貴女に、伝えなきゃいけないことが――」
その瞬間。詩織の瞳が、微かに光を帯びる。
何かに驚くように目を見開く詩織。
結衣「お母様?」
詩織、安心したように笑う。
詩織「――自分の幸せを、第一に生きなさい。そうすれば……きっと……」
言葉が途切れ、詩織の目がゆっくりと閉じる。
結衣「……お母様——?」
●病院・駐車場・車内
フロントガラスを叩きつける雨。
運転席に座る彩人。
スマホをいじって時間を潰している。
スマホが鳴る。
着信表示:結衣
彩人、すぐに通話ボタンを押す。
彩人「おー、どうした?」
結衣「…………」
彩人「結衣……?」
彩人の目つきが変わる。ただ事ではないと悟る。
結衣「彩人。——お母様、死んじゃった……」(震えた声)
●篠ノ井家(大きな日本家屋)・縁側 (夜/雨)
しとしとと降り続く雨。
広い屋敷に、静かな雨音が満ちている。
結衣、縁側に座り、庭をぼんやりと眺めている。
(結衣服装:パジャマ)
少し離れた廊下から、彩人が歩いてくる。
(彩人服装:夕方と同じ、長袖Tシャツにジーパン)
結衣の姿に気付き足を止める。
声をかけようとするが躊躇っている。
そのとき。
結衣の父・聡が、彩人とは反対側の廊下からやってくる。
聡「まだ起きていたのか」
結衣、ゆっくりと聡の方を向く。
結衣「お父様……」
聡、彩人の方を見る。
聡「彩人くん、こんな遅くまですまなかったな。今日はもう休んでくれ」
彩人「え……あ——ありがとうございます」
少し戸惑った様子で礼を言う。その際、結衣を一瞥。
彩人「それでは旦那様、お嬢様、おやすみなさいませ」
深々と頭を下げる
結衣「——うん、おやすみ」(少し寂しそうに)
彩人、来た廊下を戻る。
聡、結衣の隣に座る。
聡「……せめて部屋に戻りなさい。風邪をひくぞ」
結衣「……」
結衣、答えない。ただ視線を落とす。
聡「お前に何かあったら、私は——」
結衣「お父様、あのね」
服の襟をぐいっと引っ張り、聡に鎖骨の下にある印(目みたいな模様)を見せる。
聡、目を見開いた後に、悲しげに目を細める。
聡「ああ……やはりお前が引き継いでしまったか……」
【次の日】
●篠ノ井家・結衣の部屋(朝/曇り)
部屋内装:和室、ベッド、勉強机、木刀(勉強机に立てかけてある)
ベッドに寝転ぶ結衣。天井を見上げている。
(服装:パジャマのまま)
ゆっくりと手を動かし、印がある部分に触れる
[回想]
●篠ノ井家・詩織の部屋
布団で横になっている詩織。幼い結衣が傍らに座っている。
詩織、結衣に自身の鎖骨の下にある印を見せる。
詩織「これは篠ノ井家に代々伝わる特別な力、未来視を受け継いだ人間の証。ご先祖様はこの力で災いを未然に防いで、そうして我が家はお金持ちになったの」
結衣、興味深そうに印を見つめる。
結衣「未来が見えるの……? すごい……!」
純粋な憧れの眼差し。
詩織、フフと笑った後、少しだけ表情が陰る。
詩織「でもね、たとえ事前に何が起こるか分かっても、それを阻止する力がなければ、未来は変わらないわ」
結衣の方に向けていた顔を天井へ。瞳はどこか遠くを見つめている。
結衣、きょとんとしている。
詩織「だから、強くなりなさい、結衣。大丈夫、貴女は戦える子だから」
小さく笑う。
[回想終わり]
●篠ノ井家・結衣の部屋(朝/曇り)
結衣、ベッドに寝転んだまま。
襖をノックする音。
廊下から結衣の叔母・琴絵の声。
琴絵「結衣さん、私よ。入っていい?」
結衣(琴絵叔母様……)
身体を起こす。
結衣「どうぞー」
琴絵「失礼するわ」
琴絵、入室。手には紙袋を持っている。
(琴絵容姿:三十代後半。細身でしなやかな体つき。長い黒髪を一つにまとめ、柔らかな物腰だが、どこか底知れない気配を纏っている。パンツスーツ着用)
琴絵「久しぶりね、結衣さん」
結衣「お久しぶりです。戻られていたんですね」
琴絵「ええ、聡さんから連絡があって飛んできたの。——辛かったわね」
結衣を気遣うような表情。
結衣「——大丈夫です、覚悟はしていましたから。もう長くないと、薄々分かっていたので」
力なく笑う。
琴絵「……そうやって無理するのは昔からの悪い癖ね」
琴絵、紙袋を床に置く。
琴絵「いいのよ、強がらなくて。泣きたいときは、ちゃんと泣きなさい」
結衣、僅かに目を伏せる。
結衣(叔母様はいつも優しい——)
結衣「はい、ありがとうございま——」(微笑みながら)
突如、結衣の目が光り、脳内に映像(未来視)が流れる。
[未来視内容]
琴絵「そうだわ、お土産を持ってきたの」
琴絵、紙袋に手を伸ばす。
琴絵「気に入ってくれるといいんだけど……」
琴絵が紙袋からナイフを取り出し、それを結衣の胸に突き刺す。
結衣、ベッドの上で血を流して倒れる。
琴絵、結衣を見下ろしほくそ笑む。
琴絵「ああ……。これでようやく、未来視の力は私のものに——!」
[未来視内容終わり]
結衣、表情を強張らせ固まる。
琴絵「そうだわ、お土産を持ってきたの」
琴絵、紙袋に手を伸ばす。
琴絵「気に入ってくれるといいんだけど……」
琴絵、ナイフを取り出す。
結衣、勉強机に立てかけてある木刀を手にし、琴絵のナイフを弾き飛ばす。
ナイフ、畳の上を滑る。
結衣、息を荒らげながら、琴絵に木刀を向ける。
結衣「……ッハァ、ハァ……」
琴絵、きょとんとした後にくすりと笑う。両手を上げる。
琴絵「あらあら、もう覚醒しちゃったの?」
琴絵、紙袋を蹴飛ばす。
琴絵「さすが姉さんの子」
紙袋から黒い墨のようなものが溢れる。
墨が二体の妖怪の姿に変貌(どちらも色は黒。※琴絵が使役する妖怪に共通する特徴)結衣を襲う。
結衣「!?」
結衣、一体を木刀で叩き消滅させた後、部屋を出て逃げる。
●篠ノ井・全体
使用人「キャアアアアッ!!」
遠くから使用人の悲鳴。
続けて、怒号、物の壊れる音。
屋敷の各所で妖怪が出現。
逃げ惑う使用人たち。
護衛たちが刀を抜き、応戦する。
●篠ノ井家・廊下
結衣、必死に走る。
荒い呼吸。
背後から迫る妖怪。
角を曲がった先は行き止まり。
結衣「……っ!」
振り返る。
追ってきた妖怪が、じり、と距離を詰める。
結衣、目をぎゅっと閉じる。
ザンッ!! と鋭い斬撃音。
一瞬の静寂。
結衣、恐る恐る目を開ける。
視界に映ったのは崩れ、消えかけていく妖怪。
そしてその後ろ、刀を構えた彩人。
結衣「彩人!」(安藤の表情)
彩人「怪我はないか」
結衣「うん、大丈――あっ!」
新たな妖怪(巨大な斧を所持)が、彩人の後ろからやってくる
妖怪、唸り声と共に、斧を振りかぶる。
彩人、即座に振り返る。
ガキンッ!!
振り下ろされた斧を、刀で受け止める。
彩人、僅かに口元を緩める。
彩人の髪と肌が、じわりと赤く染まり始める。
彩人「――務めの時だ」
変化が加速する。
髪は鮮やかな赤へ。
肌も同じく赤色に染まる。
指先の爪が鋭く伸び、頭部に二本の角が現れる。
衣服は黒の軍服へ変化。
変化後。
彩人、踏み込む。
一閃。
ズバンッ!!
斧の妖怪が両断され、霧散する。
結衣、ほっとした直後、自身の瞳が光る。
[未来視]
天井崩壊。
妖怪が彩人の背後に着地。
彩人、背後から攻撃され負傷。
[未来視終わり]
結衣「彩人! 後ろ——!」
天井崩壊。
彩人、振り返り、天井から降りてきた妖怪を切り伏せる。
妖怪、消滅。
彩人、少し焦った表情。
聡(コマ外)「おーい! 大丈夫か!」
聡がこちらにやってくる。
結衣「お父様!」
結衣、安堵の表情。しかしすぐに顔色を変える。
結衣「そうだ! 叔母様は!?」
●道路
車で道路を走る琴絵。
琴絵「やっぱり一筋縄じゃいかないわね。でも、これで終わりじゃないわ。必ず手に入れてみせる、未来視の力——!」
狂気と執念が滲む表情。
▼結衣モノローグ
『母が死んだこの日、私は普通の女の子ではなくなって』
別邸の寝室(洋風)。結衣の前に跪く彩人。
彩人「これより先、貴女に仇なすものは、全て排除いたします」
▼結衣モノローグ
『幼馴染は、私の守護者となった』
【季節:四月】
●学校・昇降口(夕方/雨)
ザー……と、強い雨音。
次々と生徒たちが傘を開いて出ていく。
その流れの中、篠ノ井結衣は友人A・Bと並んで歩き、昇降口で足を止める。
(結衣容姿:十六歳。腰まで伸びたストレートの黒髪。瞳は黒。身長は146センチくらい。制服(ブレザー)を着用)
結衣、外を見つめて小さく呟く。
結衣「雨……」
空を見上げる。どんよりとした灰色。
A「結衣ちゃん、傘持ってる? 私の貸そうか?」
A、鞄から折りたたみ傘を取り出しかける。
結衣、軽く手を振りながら笑う。
結衣「あ、いいよいいよ。うち車だから」
彩人(コマ外)「結衣」
結衣、ぴくりと反応。前を向く。
雨の中、黒い傘を差した彩人が立っている。片手にはもう一本の傘。
(彩人容姿:十九歳。黒の短髪。瞳は赤。身長は180センチくらい。細マッチョ。長袖Tシャツにジーパン着用)
結衣、表情をぱっと明るくさせる。
結衣「彩人!」
弾んだ声。小走りで駆け寄る。
彩人、自然な動作で結衣の頭上に傘を傾け、もう一本を差し出す。
彩人「悪ぃ、取り込み中だったか?」
結衣、首を振る。
結衣「ううん、大丈夫。——それじゃあ、また明日ね!」
結衣、振り返り、A・Bに大きく手を振る。
A・B「ばいばーい!」
A・B、手を振り返す。
彩人、軽く微笑みA・Bに一礼。そのまま結衣と並んで歩き出す。
A・B、小声でささやき合う。
A「なにあの人……かっこよ……。結衣ちゃんのお兄さん?」
B「いや、幼馴染だってさ」
結衣・彩人、雨の中傘を差し、駐車場に停めてある車まで並び歩く。
▼結衣モノローグ
『この人は鬼葉彩人。小さい頃から一緒にいる、お兄ちゃんみたいな存在の人』
彩人の横顔。
●学校・駐車場
彩人、車の後部座席のドアを開ける。
結衣、乗り込む。
▼結衣モノローグ
『でも私達は世間一般の幼馴染とは少し違う』
彩人が運転席に座り、車を発進させる。
●病院・病室(夕方/雨)
窓を打つ雨音。薄暗い廊下。
病室の扉の横には、「篠ノ井詩織様」と書かれた名札。
結衣、花束を胸に抱え、少しだけ息を整えてから扉を開ける。
(※彩人は車内で待機)
静かな病室。
ベッドに横たわる母・詩織。
(詩織容姿:四十代。痩せ細り、儚げ。黒髪は腰まで流れている)
結衣、ゆっくりと歩み寄る。
結衣「お母様」
詩織、薄く目を開ける。
詩織「……結衣……来てくれたのね」
結衣、ほっとしたように笑う。
結衣「うんっ。具合はどう?」
詩織、僅かに息をつきながら。
詩織「少し……良くなってきたわ」
結衣「そっか……よかった」
窓際の花瓶まで移動。
詩織、申し訳なさそうに目を伏せる。
詩織「ごめんね……迷惑ばかりかけて」
結衣、花を花瓶に挿しながら、軽い調子で。
結衣「もう、そんな謝らないでよ。誰も迷惑だなんて思ってないんだから」
詩織、小さく笑う。
詩織「……ありがとう」
結衣、近くの椅子に腰を下ろす。
詩織「学校はどう? 楽しい?」
結衣「うん、楽しいよ。クラス替えでね、新しい友達も出来たの」
詩織「そう……」
詩織、微笑んだまま話を聞く。
詩織「彩人くんとはどう? 仲良くしてる?」
結衣、一瞬固まる。
結衣「えっ……う、うん」
視線を逸らし、僅かに頬が赤くなる。
詩織、その反応を見てくすりと笑う。
詩織「ふふ……そう」
短い沈黙。雨音だけが強くなる。
詩織、ふと真剣な眼差しになる。
詩織「……結衣」
結衣、顔を上げる。
詩織「貴女に、伝えなきゃいけないことが――」
その瞬間。詩織の瞳が、微かに光を帯びる。
何かに驚くように目を見開く詩織。
結衣「お母様?」
詩織、安心したように笑う。
詩織「――自分の幸せを、第一に生きなさい。そうすれば……きっと……」
言葉が途切れ、詩織の目がゆっくりと閉じる。
結衣「……お母様——?」
●病院・駐車場・車内
フロントガラスを叩きつける雨。
運転席に座る彩人。
スマホをいじって時間を潰している。
スマホが鳴る。
着信表示:結衣
彩人、すぐに通話ボタンを押す。
彩人「おー、どうした?」
結衣「…………」
彩人「結衣……?」
彩人の目つきが変わる。ただ事ではないと悟る。
結衣「彩人。——お母様、死んじゃった……」(震えた声)
●篠ノ井家(大きな日本家屋)・縁側 (夜/雨)
しとしとと降り続く雨。
広い屋敷に、静かな雨音が満ちている。
結衣、縁側に座り、庭をぼんやりと眺めている。
(結衣服装:パジャマ)
少し離れた廊下から、彩人が歩いてくる。
(彩人服装:夕方と同じ、長袖Tシャツにジーパン)
結衣の姿に気付き足を止める。
声をかけようとするが躊躇っている。
そのとき。
結衣の父・聡が、彩人とは反対側の廊下からやってくる。
聡「まだ起きていたのか」
結衣、ゆっくりと聡の方を向く。
結衣「お父様……」
聡、彩人の方を見る。
聡「彩人くん、こんな遅くまですまなかったな。今日はもう休んでくれ」
彩人「え……あ——ありがとうございます」
少し戸惑った様子で礼を言う。その際、結衣を一瞥。
彩人「それでは旦那様、お嬢様、おやすみなさいませ」
深々と頭を下げる
結衣「——うん、おやすみ」(少し寂しそうに)
彩人、来た廊下を戻る。
聡、結衣の隣に座る。
聡「……せめて部屋に戻りなさい。風邪をひくぞ」
結衣「……」
結衣、答えない。ただ視線を落とす。
聡「お前に何かあったら、私は——」
結衣「お父様、あのね」
服の襟をぐいっと引っ張り、聡に鎖骨の下にある印(目みたいな模様)を見せる。
聡、目を見開いた後に、悲しげに目を細める。
聡「ああ……やはりお前が引き継いでしまったか……」
【次の日】
●篠ノ井家・結衣の部屋(朝/曇り)
部屋内装:和室、ベッド、勉強机、木刀(勉強机に立てかけてある)
ベッドに寝転ぶ結衣。天井を見上げている。
(服装:パジャマのまま)
ゆっくりと手を動かし、印がある部分に触れる
[回想]
●篠ノ井家・詩織の部屋
布団で横になっている詩織。幼い結衣が傍らに座っている。
詩織、結衣に自身の鎖骨の下にある印を見せる。
詩織「これは篠ノ井家に代々伝わる特別な力、未来視を受け継いだ人間の証。ご先祖様はこの力で災いを未然に防いで、そうして我が家はお金持ちになったの」
結衣、興味深そうに印を見つめる。
結衣「未来が見えるの……? すごい……!」
純粋な憧れの眼差し。
詩織、フフと笑った後、少しだけ表情が陰る。
詩織「でもね、たとえ事前に何が起こるか分かっても、それを阻止する力がなければ、未来は変わらないわ」
結衣の方に向けていた顔を天井へ。瞳はどこか遠くを見つめている。
結衣、きょとんとしている。
詩織「だから、強くなりなさい、結衣。大丈夫、貴女は戦える子だから」
小さく笑う。
[回想終わり]
●篠ノ井家・結衣の部屋(朝/曇り)
結衣、ベッドに寝転んだまま。
襖をノックする音。
廊下から結衣の叔母・琴絵の声。
琴絵「結衣さん、私よ。入っていい?」
結衣(琴絵叔母様……)
身体を起こす。
結衣「どうぞー」
琴絵「失礼するわ」
琴絵、入室。手には紙袋を持っている。
(琴絵容姿:三十代後半。細身でしなやかな体つき。長い黒髪を一つにまとめ、柔らかな物腰だが、どこか底知れない気配を纏っている。パンツスーツ着用)
琴絵「久しぶりね、結衣さん」
結衣「お久しぶりです。戻られていたんですね」
琴絵「ええ、聡さんから連絡があって飛んできたの。——辛かったわね」
結衣を気遣うような表情。
結衣「——大丈夫です、覚悟はしていましたから。もう長くないと、薄々分かっていたので」
力なく笑う。
琴絵「……そうやって無理するのは昔からの悪い癖ね」
琴絵、紙袋を床に置く。
琴絵「いいのよ、強がらなくて。泣きたいときは、ちゃんと泣きなさい」
結衣、僅かに目を伏せる。
結衣(叔母様はいつも優しい——)
結衣「はい、ありがとうございま——」(微笑みながら)
突如、結衣の目が光り、脳内に映像(未来視)が流れる。
[未来視内容]
琴絵「そうだわ、お土産を持ってきたの」
琴絵、紙袋に手を伸ばす。
琴絵「気に入ってくれるといいんだけど……」
琴絵が紙袋からナイフを取り出し、それを結衣の胸に突き刺す。
結衣、ベッドの上で血を流して倒れる。
琴絵、結衣を見下ろしほくそ笑む。
琴絵「ああ……。これでようやく、未来視の力は私のものに——!」
[未来視内容終わり]
結衣、表情を強張らせ固まる。
琴絵「そうだわ、お土産を持ってきたの」
琴絵、紙袋に手を伸ばす。
琴絵「気に入ってくれるといいんだけど……」
琴絵、ナイフを取り出す。
結衣、勉強机に立てかけてある木刀を手にし、琴絵のナイフを弾き飛ばす。
ナイフ、畳の上を滑る。
結衣、息を荒らげながら、琴絵に木刀を向ける。
結衣「……ッハァ、ハァ……」
琴絵、きょとんとした後にくすりと笑う。両手を上げる。
琴絵「あらあら、もう覚醒しちゃったの?」
琴絵、紙袋を蹴飛ばす。
琴絵「さすが姉さんの子」
紙袋から黒い墨のようなものが溢れる。
墨が二体の妖怪の姿に変貌(どちらも色は黒。※琴絵が使役する妖怪に共通する特徴)結衣を襲う。
結衣「!?」
結衣、一体を木刀で叩き消滅させた後、部屋を出て逃げる。
●篠ノ井・全体
使用人「キャアアアアッ!!」
遠くから使用人の悲鳴。
続けて、怒号、物の壊れる音。
屋敷の各所で妖怪が出現。
逃げ惑う使用人たち。
護衛たちが刀を抜き、応戦する。
●篠ノ井家・廊下
結衣、必死に走る。
荒い呼吸。
背後から迫る妖怪。
角を曲がった先は行き止まり。
結衣「……っ!」
振り返る。
追ってきた妖怪が、じり、と距離を詰める。
結衣、目をぎゅっと閉じる。
ザンッ!! と鋭い斬撃音。
一瞬の静寂。
結衣、恐る恐る目を開ける。
視界に映ったのは崩れ、消えかけていく妖怪。
そしてその後ろ、刀を構えた彩人。
結衣「彩人!」(安藤の表情)
彩人「怪我はないか」
結衣「うん、大丈――あっ!」
新たな妖怪(巨大な斧を所持)が、彩人の後ろからやってくる
妖怪、唸り声と共に、斧を振りかぶる。
彩人、即座に振り返る。
ガキンッ!!
振り下ろされた斧を、刀で受け止める。
彩人、僅かに口元を緩める。
彩人の髪と肌が、じわりと赤く染まり始める。
彩人「――務めの時だ」
変化が加速する。
髪は鮮やかな赤へ。
肌も同じく赤色に染まる。
指先の爪が鋭く伸び、頭部に二本の角が現れる。
衣服は黒の軍服へ変化。
変化後。
彩人、踏み込む。
一閃。
ズバンッ!!
斧の妖怪が両断され、霧散する。
結衣、ほっとした直後、自身の瞳が光る。
[未来視]
天井崩壊。
妖怪が彩人の背後に着地。
彩人、背後から攻撃され負傷。
[未来視終わり]
結衣「彩人! 後ろ——!」
天井崩壊。
彩人、振り返り、天井から降りてきた妖怪を切り伏せる。
妖怪、消滅。
彩人、少し焦った表情。
聡(コマ外)「おーい! 大丈夫か!」
聡がこちらにやってくる。
結衣「お父様!」
結衣、安堵の表情。しかしすぐに顔色を変える。
結衣「そうだ! 叔母様は!?」
●道路
車で道路を走る琴絵。
琴絵「やっぱり一筋縄じゃいかないわね。でも、これで終わりじゃないわ。必ず手に入れてみせる、未来視の力——!」
狂気と執念が滲む表情。



