未来視少女と守護鬼

 病室のベッドに横たわる母の手を握る結衣(ゆい)
 ▼結衣モノローグ
『母が死んだこの日、私は普通の女の子ではなくなって』

 別邸の寝室(洋風)。結衣の前に跪く彩人。
 彩人(あやと)「これより先、貴女に仇なすものは、全て排除いたします」
 ▼結衣モノローグ
『幼馴染は、私の守護者となった』


【季節:四月】
 ●学校・昇降口(夕方/雨)
 ザー……と、強い雨音。
 次々と生徒たちが傘を開いて出ていく。
 その流れの中、篠ノ井(しののい)結衣(ゆい)は友人A・Bと並んで歩き、昇降口で足を止める。
(結衣容姿:十六歳。腰まで伸びたストレートの黒髪。瞳は黒。身長は146センチくらい。制服(ブレザー)を着用)
 結衣、外を見つめて小さく呟く。
 結衣「雨……」
 空を見上げる。どんよりとした灰色。

 A「結衣ちゃん、傘持ってる? 私の貸そうか?」
 A、鞄から折りたたみ傘を取り出しかける。
 結衣、軽く手を振りながら笑う。
 結衣「あ、いいよいいよ。うち車だから」

 彩人(コマ外)「結衣」
 結衣、ぴくりと反応。前を向く。
 雨の中、黒い傘を差した彩人が立っている。片手にはもう一本の傘。
(彩人容姿:十九歳。黒の短髪。瞳は赤。身長は180センチくらい。細マッチョ。長袖Tシャツにジーパン着用)

 結衣、表情をぱっと明るくさせる。
 結衣「彩人!」
 弾んだ声。小走りで駆け寄る。

 彩人、自然な動作で結衣の頭上に傘を傾け、もう一本を差し出す。
 彩人「(わり)ぃ、取り込み中だったか?」
 結衣、首を振る。
 結衣「ううん、大丈夫。——それじゃあ、また明日ね!」
 結衣、振り返り、A・Bに大きく手を振る。

 A・B「ばいばーい!」
 A・B、手を振り返す。
 彩人、軽く微笑みA・Bに一礼。そのまま結衣と並んで歩き出す。

 A・B、小声でささやき合う。
 A「なにあの人……かっこよ……。結衣ちゃんのお兄さん?」
 B「いや、幼馴染だってさ」

 結衣・彩人、雨の中傘を差し、駐車場に停めてある車まで並び歩く。

 ▼結衣モノローグ
『この人は鬼葉(きば)彩人(あやと)。小さい頃から一緒にいる、お兄ちゃんみたいな存在の人』
 彩人の横顔。

 ●学校・駐車場
 彩人、車の後部座席のドアを開ける。
 結衣、乗り込む。
 ▼結衣モノローグ
『でも私達は世間一般の幼馴染とは少し違う』
 彩人が運転席に座り、車を発進させる。


 ●病院・病室(夕方/雨)
 窓を打つ雨音。薄暗い廊下。
 病室の扉の横には、「篠ノ井(しののい)詩織(しおり)様」と書かれた名札。
 結衣、花束を胸に抱え、少しだけ息を整えてから扉を開ける。
(※彩人は車内で待機)

 静かな病室。
 ベッドに横たわる母・詩織。
(詩織容姿:四十代。痩せ細り、儚げ。黒髪は腰まで流れている)

 結衣、ゆっくりと歩み寄る。
 結衣「お母様」
 詩織、薄く目を開ける。
 詩織「……結衣……来てくれたのね」
 結衣、ほっとしたように笑う。
 結衣「うんっ。具合はどう?」
 詩織、僅かに息をつきながら。
 詩織「少し……良くなってきたわ」

 結衣「そっか……よかった」
 窓際の花瓶まで移動。
 詩織、申し訳なさそうに目を伏せる。
 詩織「ごめんね……迷惑ばかりかけて」

 結衣、花を花瓶に挿しながら、軽い調子で。
 結衣「もう、そんな謝らないでよ。誰も迷惑だなんて思ってないんだから」
 詩織、小さく笑う。
 詩織「……ありがとう」

 結衣、近くの椅子に腰を下ろす。
 詩織「学校はどう? 楽しい?」
 結衣「うん、楽しいよ。クラス替えでね、新しい友達も出来たの」
 詩織「そう……」
 詩織、微笑んだまま話を聞く。
 詩織「彩人くんとはどう? 仲良くしてる?」

 結衣、一瞬固まる。
 結衣「えっ……う、うん」
 視線を逸らし、僅かに頬が赤くなる。
 詩織、その反応を見てくすりと笑う。
 詩織「ふふ……そう」

 短い沈黙。雨音だけが強くなる。
 詩織、ふと真剣な眼差しになる。
 詩織「……結衣」
 結衣、顔を上げる。
 詩織「貴女に、伝えなきゃいけないことが――」
 その瞬間。詩織の瞳が、微かに光を帯びる。
 何かに驚くように目を見開く詩織。

 結衣「お母様?」
 詩織、安心したように笑う。
 詩織「――自分の幸せを、第一に生きなさい。そうすれば……きっと……」
 言葉が途切れ、詩織の目がゆっくりと閉じる。
 結衣「……お母様——?」

 ●病院・駐車場・車内
 フロントガラスを叩きつける雨。
 運転席に座る彩人。
 スマホをいじって時間を潰している。
 スマホが鳴る。
 着信表示:結衣
 彩人、すぐに通話ボタンを押す。
 彩人「おー、どうした?」
 結衣「…………」
 彩人「結衣……?」
 彩人の目つきが変わる。ただ事ではないと悟る。
 結衣「彩人。——お母様、死んじゃった……」(震えた声)


 ●篠ノ井家(大きな日本家屋)・縁側 (夜/雨)
 しとしとと降り続く雨。
 広い屋敷に、静かな雨音が満ちている。
 結衣、縁側に座り、庭をぼんやりと眺めている。
(結衣服装:パジャマ)

 少し離れた廊下から、彩人が歩いてくる。
(彩人服装:夕方と同じ、長袖Tシャツにジーパン)
 結衣の姿に気付き足を止める。
 声をかけようとするが躊躇っている。

 そのとき。
 結衣の父・(さとし)が、彩人とは反対側の廊下からやってくる。
 聡「まだ起きていたのか」
 結衣、ゆっくりと聡の方を向く。
 結衣「お父様……」

 聡、彩人の方を見る。
 聡「彩人くん、こんな遅くまですまなかったな。今日はもう休んでくれ」
 彩人「え……あ——ありがとうございます」
 少し戸惑った様子で礼を言う。その際、結衣を一瞥。

 彩人「それでは旦那様、お嬢様、おやすみなさいませ」
 深々と頭を下げる
 結衣「——うん、おやすみ」(少し寂しそうに)
 彩人、来た廊下を戻る。

 聡、結衣の隣に座る。
 聡「……せめて部屋に戻りなさい。風邪をひくぞ」
 結衣「……」
 結衣、答えない。ただ視線を落とす。
 聡「お前に何かあったら、私は——」
 結衣「お父様、あのね」
 服の襟をぐいっと引っ張り、聡に鎖骨の下にある印(目みたいな模様)を見せる。
 聡、目を見開いた後に、悲しげに目を細める。
 聡「ああ……やはりお前が引き継いでしまったか……」

【次の日】
 ●篠ノ井家・結衣の部屋(朝/曇り)
 部屋内装:和室、ベッド、勉強机、木刀(勉強机に立てかけてある)
 ベッドに寝転ぶ結衣。天井を見上げている。
(服装:パジャマのまま)
 ゆっくりと手を動かし、印がある部分に触れる

[回想]
 ●篠ノ井家・詩織の部屋
 布団で横になっている詩織。幼い結衣が傍らに座っている。
 詩織、結衣に自身の鎖骨の下にある印を見せる。
 詩織「これは篠ノ井家に代々伝わる特別な力、未来視を受け継いだ人間の証。ご先祖様はこの力で災いを未然に防いで、そうして我が家はお金持ちになったの」
 結衣、興味深そうに印を見つめる。
 結衣「未来が見えるの……? すごい……!」
 純粋な憧れの眼差し。
 詩織、フフと笑った後、少しだけ表情が陰る。
 詩織「でもね、たとえ事前に何が起こるか分かっても、それを阻止する力がなければ、未来は変わらないわ」
 結衣の方に向けていた顔を天井へ。瞳はどこか遠くを見つめている。
 結衣、きょとんとしている。
 詩織「だから、強くなりなさい、結衣。大丈夫、貴女は戦える子だから」
 小さく笑う。
[回想終わり]

 ●篠ノ井家・結衣の部屋(朝/曇り)
 結衣、ベッドに寝転んだまま。
 襖をノックする音。
 廊下から結衣の叔母・琴絵(ことえ)の声。
 琴絵「結衣さん、私よ。入っていい?」
 結衣(琴絵叔母様……)
 身体を起こす。
 結衣「どうぞー」
 琴絵「失礼するわ」
 琴絵、入室。手には紙袋を持っている。
(琴絵容姿:三十代後半。細身でしなやかな体つき。長い黒髪を一つにまとめ、柔らかな物腰だが、どこか底知れない気配を纏っている。パンツスーツ着用)

 琴絵「久しぶりね、結衣さん」
 結衣「お久しぶりです。戻られていたんですね」
 琴絵「ええ、聡さんから連絡があって飛んできたの。——辛かったわね」
 結衣を気遣うような表情。

 結衣「——大丈夫です、覚悟はしていましたから。もう長くないと、薄々分かっていたので」
 力なく笑う。
 琴絵「……そうやって無理するのは昔からの悪い癖ね」
 琴絵、紙袋を床に置く。
 琴絵「いいのよ、強がらなくて。泣きたいときは、ちゃんと泣きなさい」
 結衣、僅かに目を伏せる。
 結衣(叔母様はいつも優しい——)
 結衣「はい、ありがとうございま——」(微笑みながら)
 突如、結衣の目が光り、脳内に映像(未来視)が流れる。

[未来視内容]
 琴絵「そうだわ、お土産を持ってきたの」
 琴絵、紙袋に手を伸ばす。
 琴絵「気に入ってくれるといいんだけど……」
 琴絵が紙袋からナイフを取り出し、それを結衣の胸に突き刺す。
 結衣、ベッドの上で血を流して倒れる。
 琴絵、結衣を見下ろしほくそ笑む。
 琴絵「ああ……。これでようやく、未来視の力は私のものに——!」
[未来視内容終わり]

 結衣、表情を強張らせ固まる。
 琴絵「そうだわ、お土産を持ってきたの」
 琴絵、紙袋に手を伸ばす。
 琴絵「気に入ってくれるといいんだけど……」
 琴絵、ナイフを取り出す。
 結衣、勉強机に立てかけてある木刀を手にし、琴絵のナイフを弾き飛ばす。
 ナイフ、畳の上を滑る。
 結衣、息を荒らげながら、琴絵に木刀を向ける。
 結衣「……ッハァ、ハァ……」
 琴絵、きょとんとした後にくすりと笑う。両手を上げる。
 琴絵「あらあら、もう覚醒しちゃったの?」
 琴絵、紙袋を蹴飛ばす。
 琴絵「さすが姉さんの子」
 紙袋から黒い墨のようなものが溢れる。
 墨が二体の妖怪の姿に変貌(どちらも色は黒。※琴絵が使役する妖怪に共通する特徴)結衣を襲う。
 結衣「!?」
 結衣、一体を木刀で叩き消滅させた後、部屋を出て逃げる。

 ●篠ノ井・全体
 使用人「キャアアアアッ!!」
 遠くから使用人の悲鳴。
 続けて、怒号、物の壊れる音。
 屋敷の各所で妖怪が出現。
 逃げ惑う使用人たち。
 護衛たちが刀を抜き、応戦する。

 ●篠ノ井家・廊下
 結衣、必死に走る。
 荒い呼吸。
 背後から迫る妖怪。

 角を曲がった先は行き止まり。
 結衣「……っ!」
 振り返る。
 追ってきた妖怪が、じり、と距離を詰める。
 結衣、目をぎゅっと閉じる。

 ザンッ!! と鋭い斬撃音。
 一瞬の静寂。
 結衣、恐る恐る目を開ける。

 視界に映ったのは崩れ、消えかけていく妖怪。
 そしてその後ろ、刀を構えた彩人。
 結衣「彩人!」(安藤の表情)
 彩人「怪我はないか」
 結衣「うん、大丈――あっ!」

 新たな妖怪(巨大な斧を所持)が、彩人の後ろからやってくる
 妖怪、唸り声と共に、斧を振りかぶる。
 彩人、即座に振り返る。
 ガキンッ!!
 振り下ろされた斧を、刀で受け止める。
 彩人、僅かに口元を緩める。
 彩人の髪と肌が、じわりと赤く染まり始める。

 彩人「――務めの時だ」
 変化が加速する。
 髪は鮮やかな赤へ。
 肌も同じく赤色に染まる。
 指先の爪が鋭く伸び、頭部に二本の角が現れる。
 衣服は黒の軍服へ変化。

 変化後。
 彩人、踏み込む。
 一閃。
 ズバンッ!!
 斧の妖怪が両断され、霧散する。
 結衣、ほっとした直後、自身の瞳が光る。

[未来視]
 天井崩壊。
 妖怪が彩人の背後に着地。
 彩人、背後から攻撃され負傷。
[未来視終わり]

 結衣「彩人! 後ろ——!」
 天井崩壊。
 彩人、振り返り、天井から降りてきた妖怪を切り伏せる。
 妖怪、消滅。
 彩人、少し焦った表情。

 聡(コマ外)「おーい! 大丈夫か!」
 聡がこちらにやってくる。
 結衣「お父様!」
 結衣、安堵の表情。しかしすぐに顔色を変える。
 結衣「そうだ! 叔母様は!?」


 ●道路
 車で道路を走る琴絵。
 琴絵「やっぱり一筋縄じゃいかないわね。でも、これで終わりじゃないわ。必ず手に入れてみせる、未来視の力——!」
 狂気と執念が滲む表情。