神のいない世界、に祝あれ

「……グス。…。」
これは、泣いているのだろうか。きっとどこかで泣いているのだろう。小学生か、それよりも下なのか。まぁ今まで当たり前のようにお父さんやお母さんと一緒に寝ていたのだからそうなるに決まっている。俺だって初日あたりはやっぱ少し怖かったし。

「彼方くん。きっと早く退院できるはずだから頑張ってね。それと今はこの部屋には彼方くん以外入院している人はいないから。言っておくけど結構ラッキーなのよ。他の人の音とか気にしなくて良いからね。」
「………。」
「ま、まさかな。そんなホラー展開なんてな。起こるわけないよな、うん。きっとこれはなんかの間違いだよな。」
一応言っとくが別に俺はビビリってわけじゃない。けど考えて欲しい。本来誰もいるはずのない病室。それなのにどこからか泣いている声が聞こえてくるんだ。フツーに考えてこの状況でビビらない方がおかしいんだ。だからきっとこれはごくごく自然な反応なはずだ。とにかく冷静にいよう。そうすればきっとなんとかなるから。そうだ、とりあえず無視して寝よう。寝ればきっと忘れるだろうし仮に泣いている声の正体が幽霊だとしても寝て仕舞えばきっとどこかに消えていくだろう。って寝れるわけないよな。どんなに冷静に保とうとしていてもやっぱり恐怖には勝てないからだ。今の俺は自分の病気なんかよりもこの泣き声の正体がなんなのかの方が何倍も怖くて恐ろしいからだ。
おい、嘘だろおい。まさかのこのタイミングで尿意が来てしまった。実は最近までは俺がまだ車椅子に慣れてないってことで安全を考慮してトイレに行く時などは毎回毎回看護師の神田さんや神田さんがいない時は他の人に車椅子に乗っけてもらってトイレに連れてってもらうことを強制させられていた。しかしなんともタイミングが悪くその制約もつい最近解除されてしまったんだ。あの時は毎回毎回呼ぶのが面倒だったし何より気まずかったから呼ばなくて良くなってラッキーと思っていたけど今となっては最悪だ。この夜の病院をしかもどこからかわからないとこから鳴き声が聞こえる中で俺は車椅子でトイレに行かないといけなくなってしまった。間違えて呼んでしまったことにするか。いやそれは流石に恥ずかしい。一応俺も高校生だ。それくらいの羞恥心はある。そうしたらもう1人で行くしかない。けどどうしよう。もし本当に泣いているのが幽霊で俺が襲われたら。車椅子の俺が逃げ切れるわけない。もういっそのこと我慢して夜が明けるのを待つか。いや無理だ。どんどんどんどん限界に近づいていってる。この緊張感のせいか知らないがいつもより限界までの時間が早くなっている気がする。くそ、こうなったらもういくしかない。もし本当に幽霊かなんかだったらその時は覚悟を決めよう。そうして俺は意を決して車椅子に乗った。頼む出ないでくれ。本当に頼む。

おい嘘だろ。鳴き声がどんどん大きくなっていく。気のせいじゃなくて確実に大きくなっている気がしている。俺はどうなってしまうんだ。今までこんな恐怖なんて感じたことないってのに。俺には余命宣告よりも幽霊の方が効果覿面ってことか。ってそんなこと言ってられる場合か。体がすくむ。でも行かないといけないんだ。なんかいい感じのセリフ決まったな。ただ尿意を我慢しているだけだけど。
「グス……グス」
終わったもうすぐそこで音がしている。なんかここまでくると清々しいまであるな。心ではそう思ってるが体は正直なものでめちゃめちゃビビり散らかしているけど。とりあえず進んでいこう。もうどうにでもなってくれ。ん?このベットのカーテンが閉まってるぞ。いやけどこの部屋で入院しているのは俺だけなはず。ここの病院は患者がいないベットのカーテンは開けておくようになっているはずだ。だからここで誰かが寝ているはずはないんだけど。そうだ、もしここに何かがいたとして無視していけばいいんだ。それなら何もみなくて済むぞ。よしそうだそのまま立ち去ろう。なんてできるわけがない。恐怖よりも好奇心が勝ってしまう。高校生というのはそうゆうものだ。好奇心と恐怖が全身を包み込む。
「神様。よろしくお願いします。」
全てを決意してカーテンを捲る。とにかく幽霊とかその類ではないことを祈って。
「スウーハー。やるぞ。俺はやるぞ。」
声にならない声で呪文のように唱える。さぁもうどにでもなってくれ。
「で、でた?」
その瞬間の光景はある意味俺の期待外れであった。確かに鳴き声の正体はここであった。けど別にその正体は幽霊でもなんでもなくただの女の子であった。確かに幽霊とかその類ではなくて安心したけどそうゆうのでも面白かったと思ってしまっている俺がいる。
「どうしたの?何かあった?」
その声は俺が想像していたものとはかけ離れていた。とても落ち着きがある。それに小学生くらいを想像していたがとても小学生には見えないような風貌だった。少し痩せてはいるが大人のような落ち着きがありもしかしたら俺より年上かもしれないような感じすらもした。てか今の声聞かれてたのまずくないか。聞かれてなかったらそのまま後退りすることも可能だったってのに。これじゃあ何か疑われても俺は何も言い訳できないぞ。
「どうしたの?何か言いたいことあったりする?」
女性の方から何か聞かれていることをすっかり忘れていた。て言うかこっちからみに来ておいて何も言わないはめちゃくちゃ変な人に写っているだろう。しかし俺だって久しぶりに知らない人と話すんだ。言葉なんてそんな出るはずなんかないってのに。
「いやえっと。ここから泣いている声?みたいなのが聞こえてきて気になってみに来たんだけどー。」
だめだやっぱり全然上手く話せない。まぁ知らない人と話すのなんて久しぶりだから仕方のないことではあるけど。
「え、待って聞かれてた笑?まじかーそんなに大きい声出してるつもりはなかったんだけどなー。」
どうやらあの泣き声の主人はこの人で間違いないようだ。しかし何度見てもあの泣いていた感じと喋っている感じの雰囲気の違いには納得できないけど。
「ねーあのさ。なんで1人で泣いていたの?何かあったの?」
「ねーあのさ笑。そうゆう話はすぐ聞くもんじゃないでしょう。ふつー名前とか、そうゆうのを聞いてからでしょう。失礼だよ結構。」
言われてみれば確かにそうだ。何も聞かずにそうゆう話を聞くのは絶対良くない。しかし人との話し方を忘れた俺にはとても難しい話ではあるけど。
「ごめん、そうだよね。じゃあ名前は何?あ、興味あるかはわからないけど俺の名前は本郷彼方だよ。一応高二だよこれでも。
「えーそうなの!私もだよ!こんなとこで同学年の人と会うなんて偶然だなー。」
なんなんだこの人は。ここは夜の病院だぞ。しかも初対面の誰かもわからない男子になんでこんな明るく振る舞えるんだ。俺だって入院前は多少明るい自信はあったけどここまでではなかった。この人は典型的な一軍女子とよばれるものなのだろう。きっとこの人は未来への希望で溢れているのだろう。俺とは住む世界が違うのだろう。
「君はめちゃくちゃあかるい人だね。毎日が楽しそうだ。」
「何それバカにしてる笑?ふつーに考えて入院生活が楽しいわけないでしょう。もう早くここから逃げ出したいよーー。」
んーとにかくこの人はむずかしい。別に俺はバカにしているわけでは全くもってないんだけど。まぁこればっかりは仕方ない。とりあえずこの人を怒らせないようにだけ意識しよう。その起こるポイントがわからないけど。
「ごめんごめん。とりあえずバカにしてはいないから安心して。とはいえもう少し静かにした方がいいと思うよ。一応ここは病院だし時間も時間だからね。」
「えー別に良くない。実際この部屋には私とえーと、彼方くんだっけ、しかいないんだし。あ言っとくけどそんな君みたいな思春期高校生が夢見てそうな展開は起きないからねー。変な期待するんじゃないぞー。」
ほんとにこの人はどうゆう人生を生きてきたのだろう。普通に考えてそんなこと起きるわけがないことなんて俺でもわかるし初対面の人をエロガキ呼ばわりは流石に終わっている。まぁ実際こうゆうのはみた事あるから一概に否定はできないけど。ん待てよ?俺にこんなこと言ってきたってことはこの人もじっさ
「おい君。何を黙って考えているんだい。人と話している時に黙り込むのはよくないぞ。あ!さてはよからぬ妄想をー。」
「変なこと言わないでくれ。ちょっと別のことを考えていたんだよ。それに初対面の人をエロガキ呼ばわりはどうかしているよ。君は発言とかそういうのを気をつけた方がいいと思うよ。」
「はいはいーお説教ですかー。てか名前で呼んでくれないかなー。私にも名前はあるんだから。」
「わかった。しかし名前が何かもわからないのに名前で呼ぶなんてできるわけないだろう。俺は人の心とかを読めるわけではないんだから。」
「あれ。名前言ってなかったっけ。確かに名前を言わずに名前で呼べは無理があるか。じゃー名前当ててよ!当たったら教えてあげる。」
「明日香さんでしょ。」
この人ベットの横に名前が書いてあることを知らないのだろうか。まぁ知ってたらこんなこと聞かないか。それか俺がものすごく舐められてるかどっちかだけど。
「え、なんで知ってるのよ。気持ち悪いんだけど。」
やはり名前が書いてあることを知らなかったか。てか気持ち悪いってなんだよ。まぁ言われてみれば気持ち悪い気もするけどそんな言い方をする必要はないと思うんだけど。
「気持ちが悪いとは人聞きが悪いな。ベットの横に名前が書いてあること知らないの?俺はあくまでそれを見ていったの。」
「ねー。書いてあるなら先に言ってよ。ちょーびっくりしたじゃん。てかいっとっけどふつーに知らない人に名前当てられたらキモいしめちゃくちゃ怖いんだからね。」
確かにそう言われたらそうかもしれない。俺はなんとも思わないかもしれないけど相手は女子高生だ。その辺の防犯意識とかそうゆうのはちゃんとしているのだろう。まぁキモいと言われるこっちの身にもなって欲しいけどきっとそれは無理だろう。
「それで聞きたいんだけど君はなんで泣いていたんだい。」
「んー言わなーい。なんか言いたくないー。」
なんなんだこの人は。一言で言うならめちゃくちゃめんどくさいぞ。けどそれなのに話すのが楽しくないわけではない。この気持ちはなんなのだろう。
「なんでだよ。ちゃんと言われたことはやったじゃん。教えてくれても何も問題ないだろ。」
「あのさー。問題があるからいってないんだよー。それにそんな人の泣いていた理由聞きたいの?あ、さてはそう言う性癖でもしているんだろうー。入院しても性欲は無くならないんだなー。この変態野郎!」
一つわかったことがある。多分この人なら多少殴っても罪に問われないんじゃないか。いやけどこういう人間は警察とかの前だけ迫真の演技をするだろうからもしかしたら実際よりも重い罪に問われそうである。しかし俺に対して変態変態と言ってくるけど多分この人の方が変態だと思うけど。まあこんなこと言ったらナースコールでイチコロになってしまうから口が裂けても言えないんだけど。
「あのさ。勝手に俺を変態扱いしないでもらっていいかな。それにそんな変な性癖はもってないし。俺はただただ興味を持って聞いてるんだよ。確かに少しはキモいかもしれないけどそれにしてもいいすぎだよ。それに君が言ってること合ってないし。せめてちゃんと事実に基づいたこと言って欲しいんだけど。」
「えー真面目くんだなー。別にいいじゃん少しくらい。この病院とにかくすることがないんだもん。こんなにいい遊び道具があったらそりゃ遊んじゃうよねー。あ、これも怒っちゃう?笑」
なんなのだろうこの人は。驚きすぎて遊び道具って言われたこととかもうどうでも良くなってくる。俺の人生では未だかつてあったことのないような人だしこれからもこんなに陽気な人とは合わないだろう。ここは病院で彼女も入院していることを忘れてしまうほどに陽気な人だ。けどやっぱりなんでかはわからないけどこの人と喋っていることそれ自体がとても楽しい。最近知らない人と会話をしてなかったからそうゆうアドレナリン的なやつが出ているのだろうか。
「ねー。話変わっちゃうんだけどさ君はいつからここにいるの。俺がきた時にはいなかったからさ。」
「…………。」
ん?どうしちゃったんだ。突然黙り込んでしまったけど。まさかなんか怒らせちゃったかな。けどそんな変なことは言ってないし。けど変なことを言ってなかったらこうはなってなかっただろうし。一体何をしたって言うんだよ。一体どうするのが正解なんだよ。そもそもこれに正解とかあるのか。なんかすんごい睨んでるように見えるし。やっぱり変なこと聞いちゃったのかな。どうしたらいいんだよ本当に。
「あの、えっと。なんか嫌なこと聞いちゃった?」
「…………。」
だめだやっぱ反応してくれない。それに余計に睨まれている感じするし。何がダメか教えてくれればそれでいいのに。本当にこの人はなんなんだ。
「………っ。…あーだめだ笑、面白すぎるよ本当にさー笑。ふつーに反則だよ本当笑。あーお腹痛い」
「え、ちょっと何笑ってんの。こっちは真剣なんだよ。そんなにふざけないでよ。」
「ごめんごめん笑。いやけど本当に面白くてさ笑。あれなんだね、人が焦ってる姿ってこんなに面白いんだね笑。あまりにも焦ってる感じが伝わってくるからあまりにもおかしくて。」
焦ってるのが面白おかしいって。焦らせてきたのはあっちが悪いんだしそりゃついさっき初めましてのしかも女の子が突然無言になったらそりゃ焦るに決まってるのに。
「えーと。結局俺はなんか悪いことしちゃったのかな。もししちゃっていたならなら素直に謝るからさ。とりあえず教えてくれないとわからないしそれに俺だってそうゆうのでめんどくさいことにはしたくないからさ。」
「はいはいーわかりましたー。まぁとにかくさっきのことは気にしないでー。こっちが勝手にツボって笑っちゃっただけだから。いやーしかし今思い出しても面白いな本当に。あ!そう言えば思い出したけどそろそろ自分のベットにもだったほうがいいよ!時間が時間なんだからこの光景を看護師さんに見られちゃったら色々疑われちゃうかもよー。私は女の子なんだからちょっと泣き真似とかすればみんな私のこと信じちゃうと思うよー。」
「何を言ってるんだい君は。勝手に話を進めないでよ本当に。言っとくけど俺が聞きたいこと全然聞けてないんだからね。」
「えーそーなんだ。それは残念だねー。いやー残念だー。」
あ、わかった。きっとこれかの人めちゃくちゃ眠いんだろうな。会話の終わらせ方が明らかに不自然すぎる。まぁけどそれでもあんまり会話を止めようとしないってことは、
「わかったよ。じゃあまた話にくるから。くるって言ってもたかが二、三メートルではあるけど。」
「君結構わかってんねー。ちょうどそろそろ眠くなってきたんだよねー。あんまり顔とかには出さないようにしてたけどよくわかったね。そこそこ褒めてあげるよ。」
ほんとは色々突っ込みたいことはあるけどこれ以上は何も言わないでおこう。この人のどこに起こるポイントがあるかまだ掴めてないから。余計なこと言って逆鱗に触れるのだけは勘弁だ。この人が怒ったら怖そうなのはおそらく世界共通の認識だろう。
「じゃあ明日どっかのタイミングでこっち来て!タイミングは君のセンスに任せるからさ!変な時に来たら口聞かないからねー。」
そうゆうとこの人は何も言わずに寝る体制に入ってしまった。おやすみくらい言おうと思ったがこの人から尋常じゃないほどの話しかけるなオーラがしていたからやめておいた。明日も大変だろうし今日はもう寝よう。


「あの人どっかで見たことある気がするんだけどな。」