神のいない世界、に祝あれ


「よく聞いてください。息子さんに腫瘍が見つかったんです。それにここまでの大きさは残念ながら今の医療技術ではどうしようもできません。」
そう言われていた日、両親は号泣していた。まぁそりゃそうかもしれない。実の子供がこうして余命宣告されてなんとも思わない親の方がきっと問題であろう。しかしもしかしたら両親はこのことを察していたのかもしれない。だから俺に何かあった時に俺が悲しまないように俺がいないはずのところで医者にこの話をしてもらったのだろう。しかしまさか余命宣告までいくとは思わなかったのだろう。だからあんなに泣いていたのだろう。だから2人の間には会話が一切なかったのだろう。正直なことを言うと俺も少しは驚いたし絶望を覚えたことも事実である。それでも2人ほどは悲しまなかったはずである。こんな感じの展開では当事者は意外と冷静になるという話を聞いたことがあった。初めてその話を聞いた時はなるほどくらいにしか思わなかったけど。まさか自分の体で実感するとは思わなかった。それに両親はきっと俺に教えてきたことをひどく恨んでいるだろう。幼少期からとにかく優しい人になりなさい。例え自分が不利益を被っても困ってる人を助けることを優先しなさい。
だから俺は事故にあったんだ。一瞬の出来事だった。それでも強く鮮明に。目の前から走ってくるトラックの明かり。記憶はそこで止まっているからその後の状況とか、周りの反応とかそうゆうのは一切覚えてない。けど確かに覚えている同い年か少し自分よりも歳が若い女子だっただろうか。彼女が道路のそばで突然倒れてしまったこと。さらにそこに明らかにスピードが出過ぎているトラックが突っ込んできたこと。その瞬間俺の体は考える前に咄嗟に動いたんだ。彼女を庇うように。でも遅かった。間に合わなかった。俺が彼女を抱き抱えたその瞬間トラックの明かりが俺たちの体のすぐ近くまで来ていることに気づいた時にはもう既に後の祭りだった。そこまでの記憶しかないから痛いとか、苦しいとかそうゆうのは一切覚えていない。だから事故に遭った人の中では結構ラッキーな部類なんだと思う。自己の話を聞いた時きっと両親は深く後悔したのだろう。俺の目が覚めた時2人は泣いて謝ってきたんだ。
「ごめんね彼方。私たちが彼方に言い聞かせてきたことを彼方は守り続けたんだよね。私たちのせいで彼方がこんなにも苦しい思いをしないといけなくなったんだよね。ほんとに、ほんとに、……。」
それ以降二人はなんも喋らなかった。きっと喋れなかったのだろう。きっと思ってるだろう。私たちが俺彼方をこんな目に合わせたのだろう。彼方の優しさのせいで彼方はもう歩けなくなってしまったのだろう。私たちがこんなことを教えてなければきっと…。そう思ってたのだろう。だからきっとずっと俺のベットの横にいてくれたのだろう。罪滅ぼしかはわからない。それでも俺は嬉しかった。孤独にいるよりも何倍も嬉しかったし安心した。二人は色々な話をしてきた。俺の気を紛らわすためか、それか安心させるためか。病院のことや入院のことなどは一回も話してこなかった。あの時はまだ俺も二人も心の底から笑うことができていた。退院したら何をしようとか、そんなことを考えては家族みんなで笑えることができていた。あの時は俺も楽しかったしきっと何事もなく退院して歩けないなりに楽しく生活できると思っていた。けどそんな期待は無慈悲にも打ち砕かれてしまったんだ。俺が余命宣告されたあの日以降、両親がお見舞いに来る回数はほぼゼロになってしまった。二回くらいはきてくれたと思うけど最初の頃と違い心の底から笑ってるような感じはしなかった。もちろん2人は俺にこのことがバレないように必死に笑顔を作っていたしなんとかして盛り上がるようなことをしようとしてくれた。けど心で思っていることというのはそう簡単には隠すことができない。隠そうとしても体は正直なのだから。けど別にそれでいい。変に気を遣って話をするくらいならこっちにこない方が両親にとっても心がやられなくていいだろう。それに俺みたいな死ぬことが確定している人間にどれだけ心と時間を捧げても残るものは心の穴と遺骨くらいだろう。最初の方は来なくなってしまって寂しくはあったけど今となってはむしろそっちの方がいい気がしてきた。俺だって変な気を使わなくていいし何より1人でいることは自由であるからだ。自由と言っても歩くことはできないから車椅子を使ったりしないといけないし消灯時間もある。何より自由に外に出れない。まぁ余命宣告された病人を簡単に外に出していいわけがないけど。とはいえ誰にも気を遣わなくていいし、誰とも接しなくていい。
この生活も結構悪くないもんだ。もしかしたら俺はニート適正があったのかもしれない。そのせいか最近は人と話すことが少し苦手だ。人と言っても話すのは俺の担当をしてくれている看護師の神田さんと三名くらいの医者だけど。自分でいうのもアレだけど別に俺は入院前までは人と話すことは得意な方だったと思う。暇な日はよく友達とカラオケやボウリングに行ったしクラスの人とも良好な関係を築いていたと思う。だからって訳ではないけど当然恋愛はしていたし今までも彼女はいたことがある。実際最初のうちはよく友達がお見合いに来てくれた。けど時間が経つにつれ少しずつ俺の方から友達を敬遠してしまった。余命宣告されてからは一回も来てないし来させないようにも言っている。神田さんには心配されたけどこれでいいんだ。どうせ死ぬことが確定しているのならば誰かの記憶に残らずに死んだ方がいいと思う。悲しむ人は少ない方がいいし、それに俺なんかが誰かの記憶に残り続けるのは俺が言うのもなんだかおかしいが気持ちが悪い。すっかり恋愛への興味も無くしてしまった。それに俺みたい近いうちに死ぬことが確定している人間に彼女なんてできるはずもないし、仮にできたとしても相手を悲しませてしまうような恋愛はしたくもない。「それに子孫繁栄もできないしっと。」とりあえず今日はもう寝よう。そういえば俺の余命が何ヶ月か聞いてなかったな。もしかしたら明日は来ないのかもしれないのか。まぁどうでもいいか。むしろ俺みたいな人間は早く死んだ方が地球のためになるかもしれない。けど俺は自分で自分を殺すほどの勇気はない。だからこうして無駄な時間を過ごしているんだろう。とりあえず寝ておこう。起きていてもすることなんてないし時間の無駄でしかないから。そう考えると俺は静かに目を閉じた。このまま朝を迎える…はずだったのに。