「よく聞いてください。息子さんに腫瘍が見つかったんです。それにここまでの大きさは残念ながら今の医療技術ではどうしようもできません。」
そう言われていたのを俺は聞いてしまった。
それでもあの人は一切涙を流さない。
まぁそりゃそうかもしれない。
俺の両親が亡くなって仕方なく俺の身元引受人にはなってくれたけど、それまではほとんどこの人と会ったことなんてなかったし俺が高一の時に両親は亡くなったから俺はすぐに一人暮らしをした。
だからそれ以降もほぼまともに話したことなんてなかったから当然俺は思い入れなんてないだろう。
むしろこんなことで病院から呼び出されてめんどくさいとも思っていると思う。
まぁけど別にそれでいい。変に気を遣って悲しまれるよりはこっちの方が素直な反応になるしこっちも気を遣わなくていいからとても楽だ。
きっと俺の前でこのことを言わなかったのは医者のせめてもの気遣いだろう。
こんなことを俺の前で話した時に俺と俺の身元引受人、もといおじさんと気まずくなることを察したのだろう。
けど別に俺がその場にいてもいなくてもあまり変わらなかったと思う。そりゃ俺だって余命宣告されたのをきいた時は少しは驚いたし絶望を覚えたことも事実である。でも俺は全く泣かなかった。むしろ清々しいまであった。
俺が死んでも悲しむ人なんてほとんどいないしそれに俺だって別になんかしたいこととか、生きる希望とかがあるわけでもなかったから。別に学校でも特別いいポジションにいるわけでもないし友達もそんなに多くない。大して仲のいい先生がいるわけでもなければ俺の人生を変えてくれたような恩師もいない。
だから俺の死を悲しむ人なんてほとんどいないし、こんな風になったことも後悔してない。
むしろこの余命宣告はラッキーだったかもしれない。
一月前、俺は事故にあったんだ。
そのせいで俺は歩けなくなった。
今まで当たり前だったことが当たり前じゃなくなった。事故のことは俺もよく覚えてない。なんで事故にあったのか、どこで事故にあったのか、どれくらい痛かったのか。
何にも覚えてないということは幸せでもあり、不幸でもあると思う。
何も覚えてないから当然このことがトラウマになるわけでもない。だからこの事故がきっかけで車が怖くなるとかそうゆうのは一切なかった。
けど覚えてないということが全ていいことだとも思ってない。
何か大事なことを忘れてる気もするし何にも大事なことなんてなくて、ただただ事故にあっただけな気もしている。
とにかく今の俺にわかってることは事故にあってそして両足を失った。そしてその後の検査で脳にも異常が見つかってそのまま余命宣告をされた。
これだけの要素があれば俺は悲劇のヒロインを演じることだってできるはずだ。事故によって両足を失いさらに抉られた心に追い打ちをかけるように病気も見つかる。
自分で言うのもなんだがこんなに不幸が重なった人間はそんなにいないと思う。
けどそれすらもラッキーな気がしてきた。
人生生きていればいろんな不幸があるに決まっている。
大事な人がいなくなったり、夢が打ち砕かれたり。
そうゆう不幸って本来いろんなタイミングでやってくるものだ。そしてその不幸を乗り越える。そしてまた別の不幸がやってくる。そしていつかその不幸を乗り越えられない時がやってくる。その瞬間が訪れた時、人は死ぬんだと思う。それが社会的になのか、生物的になのかはわからない。それでもそのタイミングで人が死ぬことを確かである。だから人生ってのは大変であり、また面白いのだと思う。
けど俺はこんな風に死ぬことはできないんだ。
不幸の清算をする前にまた新しい不幸がやって来たんだ。
不幸の清算ができてないということはさっきの理論的には死んでいることになる。けど俺はその死に生かされてるんだと思う。
いつ死ぬかもわかってる。どんな感じで死ぬのかもなんとなくわかる。普通は死ぬということはとても怖いことだと思う。けど俺は今そうは思ってない。なんでかは分からないけど死ぬことに恐怖心はない。
けどなぜなのだろう。死ぬことに何も不安はない。後悔もない。けどここで死んだら何か大事なものを失う気がする。
別に俺に守りたい人なんていないはずだしそんなに大事な人もいない。家のことは少し不安だったけど俺が死んだらおじさんがどうにかしてくれるとも言っていた。
それでも何か大事なものを忘れている気がする。どーしても守らないといけないもの。しかしそれが分からない。
記憶はそこで止まっているからその後の状況とか、周りの反応とかそうゆうのは一切覚えてない。けど確かに覚えている同い年か少し自分よりも歳が若い女子だっただろうか。彼女が道路のそばで突然倒れてしまったこと。さらにそこに明らかにスピードが出過ぎているトラックが突っ込んできたこと。その瞬間俺の体は考える前に咄嗟に動いたんだ。彼女を庇うように。でも遅かった。間に合わなかった。俺が彼女を抱き抱えたその瞬間トラックの明かりが俺たちの体のすぐ近くまで来ていることに気づいた時にはもう既に後の祭りだった。そこまでの記憶しかないから痛いとか、苦しいとかそうゆうのは一切覚えていない。だから事故に遭った人の中では結構ラッキーな部類なんだと思う。自己の話を聞いた時きっと両親は深く後悔したのだろう。俺の目が覚めた時2人は泣いて謝ってきたんだ。
「ごめんね彼方。私たちが彼方に言い聞かせてきたことを彼方は守り続けたんだよね。私たちのせいで彼方がこんなにも苦しい思いをしないといけなくなったんだよね。ほんとに、ほんとに、……。」
それ以降二人はなんも喋らなかった。きっと喋れなかったのだろう。きっと思ってるだろう。私たちが俺彼方をこんな目に合わせたのだろう。彼方の優しさのせいで彼方はもう歩けなくなってしまったのだろう。私たちがこんなことを教えてなければきっと…。そう思ってたのだろう。だからきっとずっと俺のベットの横にいてくれたのだろう。罪滅ぼしかはわからない。それでも俺は嬉しかった。孤独にいるよりも何倍も嬉しかったし安心した。二人は色々な話をしてきた。俺の気を紛らわすためか、それか安心させるためか。病院のことや入院のことなどは一回も話してこなかった。あの時はまだ俺も二人も心の底から笑うことができていた。退院したら何をしようとか、そんなことを考えては家族みんなで笑えることができていた。あの時は俺も楽しかったしきっと何事もなく退院して歩けないなりに楽しく生活できると思っていた。けどそんな期待は無慈悲にも打ち砕かれてしまったんだ。俺が余命宣告されたあの日以降、両親がお見舞いに来る回数はほぼゼロになってしまった。二回くらいはきてくれたと思うけど最初の頃と違い心の底から笑ってるような感じはしなかった。もちろん2人は俺にこのことがバレないように必死に笑顔を作っていたしなんとかして盛り上がるようなことをしようとしてくれた。けど心で思っていることというのはそう簡単には隠すことができない。隠そうとしても体は正直なのだから。けど別にそれでいい。変に気を遣って話をするくらいならこっちにこない方が両親にとっても心がやられなくていいだろう。それに俺みたいな死ぬことが確定している人間にどれだけ心と時間を捧げても残るものは心の穴と遺骨くらいだろう。最初の方は来なくなってしまって寂しくはあったけど今となってはむしろそっちの方がいい気がしてきた。俺だって変な気を使わなくていいし何より1人でいることは自由であるからだ。自由と言っても歩くことはできないから車椅子を使ったりしないといけないし消灯時間もある。何より自由に外に出れない。まぁ余命宣告された病人を簡単に外に出していいわけがないけど。とはいえ誰にも気を遣わなくていいし、誰とも接しなくていい。
この生活も結構悪くないもんだ。
もしかしたら俺はニート適正があったのかもしれない。そのせいか最近は人と話すことが少し苦手だ。
とは言ってもまともに話す人なんて俺の担当をしてくれている看護師の神田さんと三名くらいの医者だけど。
自分でいうのもアレだけど別に俺は入院前までは人と話すことは得意な方だったと思う。暇な日はよく友達とカラオケやボウリングに行ったしクラスの人とも良好な関係を築いていたと思う。だからって訳ではないけど当然恋愛はしていたし今までも彼女はいたことがある。実際最初のうちはよく友達がお見合いに来てくれた。けど時間が経つにつれ少しずつ俺の方から友達を敬遠してしまった。余命宣告されてからは一回も来てないし来させないようにも言っている。神田さんには心配されたけどこれでいいんだ。どうせ死ぬことが確定しているのならば誰かの記憶に残らずに死んだ方がいいと思う。悲しむ人は少ない方がいいし、それに俺なんかが誰かの記憶に残り続けるのは俺が言うのもなんだかおかしいが気持ちが悪い。すっかり恋愛への興味も無くしてしまった。それに俺みたい近いうちに死ぬことが確定している人間に彼女なんてできるはずもないし、仮にできたとしても相手を悲しませてしまうような恋愛はしたくもない。「それに子孫繁栄もできないしっと。」とりあえず今日はもう寝よう。そういえば俺の余命が何ヶ月か聞いてなかったな。もしかしたら明日は来ないのかもしれないのか。まぁどうでもいいか。むしろ俺みたいな人間は早く死んだ方が地球のためになるかもしれない。けど俺は自分で自分を殺すほどの勇気はない。だからこうして無駄な時間を過ごしているんだろう。とりあえず寝ておこう。起きていてもすることなんてないし時間の無駄でしかないから。そう考えると俺は静かに目を閉じた。このまま朝を迎える…はずだったのに。
