拝啓、親愛なる君へ

生きること。この世界には80億を超える人類が生きている。そして、未だその数がはっきりしてないほどの生物がこの世界、この地球で生きている。この世界には全く同じ生き方をしている人間や生き物はいない。どんなに近くに住んでいたり、近しい遺伝子を持っていたとしても、一人一人、一匹一匹にはその本人にしかできない生き方がある。寝る時間や食事をする時間。学校や家ではそれを統一させられてるように感じるかもしれない。けど全員の食べる量や時間、タイミングが全く同じにはならない。だからこの地球という場所ではみんな一緒に生きているように見えて、みんな自分の生き方を持った一人一人の生活をしている。それでも生きること。これだけは全ての生き物で同じである。当たり前だが死ぬまでは生きるのだ。色々な生き方をしていてもその生き方をする理由は生きるため、明日を迎えるためにしているということだけは変わらないのだ。だから、今を精一杯生きるべきなんだ。どんな辛い境遇だとしても。どんな過去があるとしても。人類だけではなく全ての生き物にとっての当たり前であるから。


そんな屁理屈にも笑えるようになっただけ今の俺の精神状態はだいぶましになったのだろう。前までの俺ならこんな話ちょっと聞いただけでも取り乱してたと思う。やはり時間が経つと心というのは多少は落ち着くものだ。この生活が始まってからもう二ヶ月も経っているらしい。早いような遅いようなよくわからないというのが正直な感想だ。一瞬で過ぎ去ったような気もするし果てしなく長い時間を彷徨っていたような気がするのは最初の頃と今での精神状態の違いが伺える。けど今だって別に恐怖がなくなったわけではない。怖くないというより現実を受け入れるメンタルが整ったという方が正確であるだろう。どう足掻いても無駄だと分かった時とても強く、とても弱い心が完成したのだ。ほんとはとっとと終わりにしてほしいが残念ながらそんなこと許してくれるはずもなくただひたすらに過ぎてゆくこの時間に何の意味があるのだろうか。

「あら彼方くんおはよ。今日も体調は大丈夫?」
「神田さんおはようございます。はい何ともなく過ごせています。」
「よかったよかった。なんか変なことがあったらすぐにナースコールならなんなりをしてくださいね。」
「分かってますよ神田さん。もう何回も言われてるんですから。
本当にこの人は失言とかそうゆうのが一切ないんだな。たかが俺との会話にどんだけの神経を使っているんだろうか。俺には絶対こんなことはできないだろうしきっとやろうとも思わないだろう。しかしどこか遠くに飛んでいくだなんて俺は幼稚園生じゃないんだから。確かに俺の今の体は入院によって細くなっているし、よく少し幼く見えるとは言われるけど流石に中学生や小学生には見えるはずはない。というか俺の情報なんてちゃんと入ってるはずだからそんな間違えることは絶対ないだろう。そうすると俺はやっぱり舐められているのだろうか。流石にそれは俺のプライド的なものあるだろうとか考えなかったのだろうか。まぁ別に今の俺にはどうでもいいことか。今の俺にはプライドとかそんなものを気にしていられる状況にはいないだろうから。もしそれが神田さんにバレた上でやられているならそれはあの人が数段上だったってことにでもしておこう。どうせこんなこと誰にも話すことなんてないだろうし誰かに話す気力も今の俺にはないからだ。

そもそもこの世界というのは自分のいいようには当然ながら動いていない。自分にとっていいことも悪いこともおこるんだ。いいことが起こった人間は喜び、自分にとって都合が良くないことが起こった人間は悲しむ。光と影があるようにこの世界もプラスの方に行った人間とマイナスの方に行った人間がいて世界はそこでバランスを取っている。だから俺のような人間が生まれるのは仕方のないことなのかもしれない。だから俺はこの世界にどうこう思うのはやめた。それがきっと一番幸せに過ごせる方法だと思うから。