revival june

 三日後、涼はとてつもない回復を見せ退院が決まった。
 お医者さんもびっくりするほどで、何しろ宇野気が来た日の夜には傷がきれいにふさがっていたのだから、涼自身が一番びっくりしていた。
 ただ、あまりにも急なことで本来学校まで一緒に行くはずだった涼と睦美の家族が誰も来れないという事態になってしまった。いくら子供たちが事件に巻き込まれたとはいえ、急に仕事に穴をあけてしまったためである。
 やむを得ない事態とはいえ、
 手続き自体は後日でもいいという病院側の配慮があって涼と睦美は何もすることなく、病院を出ることができた。
 病院を出てすぐそれぞれ親に電話し、学校へ向かうことを告げた。
「気を付けてね。今終わったから」
 文絵の心配そうな声が電話越しに聞こえる。正直涼も不安であった。いくら電車で一時間半もかからないとはいえ、宇野気の言葉が頭をよぎる。
 でも、彼女である睦美の前でそんな様子は見せられないと気を持ち直そうと深呼吸した。
「じゃあ行こう」
「うん」
 本来だと駅までは路地を通れば早いが、人通りの少ないところは避けた。お昼の時間帯だから飲食店の多いこの通りは人も多い。そのせいで時間はかかったが無事駅について電車に乗れた時はほっとした。
 だが乗っていた横浜線が駅の途中で止まってしまった。
〈お客様にお知らせいたします。ただいまこの先の橋本駅付近で架線が切断したため運転を見合わせております。運転再開見込みは未定です。お急ぎのところご迷惑をおかけし大変申し訳ありません〉
 ここにきて電車が止まってしまった。原因を調べてみると電車に電気を供給する架線っていう電線がきれてしまい、しかもこれの復旧にはかなりの時間がかかり、早くても4時間ということがわかった。
 明るい時間に帰りたかった涼と睦美にとっては最悪に事態だ。これが駅で遭遇したのならネットで調べて迂回する路線を探せるけど、残念ながら車内ではどうすることもできない。二人はやむを得ずそのまま座ったまま待つことにした。
 だけど電車が動いたのは意外にも2時間たってからだった。事故の現場が橋本という大きな駅の先だったため、その橋本駅までは運転できるということだった。だけど電車の調整とかで二時間かかったそうだ。
 涼と睦美からすれば、むしろ二時間で動かしてくれたことに感謝した。橋本駅に着くまでに迂回路である京王線のことを調べて迷わないようにしておく。
 その甲斐あって八王子駅には午後5時半に着き、学校のある五日市に着いたのは午後6時少し過ぎたころだった。八王子駅で少し乗り換えで待たされたけど、日の光があるうちに帰れたことにほっとした。
 だけど駅の建物を出たとたん、涼はすごく嫌な感じがした。いつもの夕日に照らされた町、帰宅ラッシュでちょっと車の量が多いけど静かに時間が流れているような感覚はいつものことなのに、なぜか冷や汗が出てくる。それは睦美も同じだったようで涼の左腕をしっかりつかんでいた。
「ねえ、早く行こう」
「うん」
 早足で駅を出発した。橋を渡った瞬間誰かに見られているような感覚が強くなる。
 ペースは落とさないまま一直線に続く道を進む。半分くらい進んだところで、嫌な視線らしきものは少し消えた。
「今のうちに」
「うん」
 しかしスタートをかけることはできなかった。目の前に大学生くらいの男女二人が涼と睦美の前に立ちはだかっていた。
「松月涼君と広川睦美さんですね」
 自分たちの名前を知っていたことに、不思議と驚きはなかった。だが目の前のやつは通り魔みたいなヤケクソな感じはせず、冷静にそして冷たい印象を受ける。
「誰だ?」
 睦美を庇うように前へ出て虚勢を張る。涼は陽向の件から野球をやる傍ら総合格闘技をもやってきて、全国大会への参加を促されたこともある。だからこそ、対峙してわかった。この男女は勝つのは難しいと。
「質問しているのは僕です。君たちは松月涼と広川睦美であっていますか?」
 男は有無を言わさない圧を涼と睦美にかけてくる。おまけにアイドルオーディションに出れば争奪戦になるような整った顔がギャップのせいで余計にプレッシャーを感じてしまう。しかしここで下がるわけにはいかなかった。
「やめなさい!……連れが大変失礼しました。改めて伺いますが、お二人の名前は松月涼と広川睦美で間違いないですか?」
 女の方は丁寧ではあるけど、逃がさないと言わんばかりに視線を全く逸らさずに涼と睦美を見ている。
「名前を聞くときは自分から言うのが常識でしょう」
 苦し紛れに涼はとっさに常識的な返しをしてみた。
「時間稼ぎはやめてもらいたい。面倒だけど、強硬手段に出させてもらおう」
「「!!」」
 膝を曲げ、こちらに飛んでくる体制をとる男。次の瞬間ものすごい勢いでこちらに向かってきた。それは明らかに人間が出せるスピードではなかった。勢いあまって廃墟と化した物置らしき建物に突っ込み、崩壊した。だけどなぜか男は何事もなかったかのように立ち上がっていた。
「何してるの!!」
 どうやら男の攻撃は勝手にしたものらしく、女が怒りながら男の方へ向かう。だけどそれもワイヤーアクションを見ているような動きだった。
 けど、そのおかげで前が開いた。
「逃げよう!」
「うん!」
 同時にダッシュを決めて走る。だけど10秒もしないうちに追いつかれ、前の家の屋根に二人が乗っている。
「こっち」
「OK」
 睦美の機転で左の狭い道を進む。なんとか袋のネズミになる前に脱出したけど、また回り込まれる。
 最終的には広い河川敷へと逃げ込むことになってしまった。前から男女二人が迫ってくる。
「……睦美、覚悟を決めよう」
「……うん!」
 涼と睦美は目の前のかなわない敵に対して戦闘態勢を取った。
「そろそろ観念してください。僕たちも忙しいので」
「生憎、人を強引に連れて行こうとするやつらの言いなりになる気はないよ!」
「私たち、とっても負けず嫌いだから簡単に勝てると思わないでよね!」
 威勢のいいことは言ったが、向こうの男女の態度は変わらない。
「そうですか。では仕方ありません」
「でも気をつけなさい。あの2人、戦闘に関しては全くの素人というわけではないよ。もう覚醒しているんだから、当たればただでは済まないわ」
「わかってる。だが、格闘技ごときには負けない」
 その会話を涼はしっかり聞いていた。全く勝ち目はないということはなさそうだ。と、強引に思い込んで戦うことにする。
「……行くぞ」
 来る!!と思っても攻撃は全く来なかった。
「グッ……」
 前を見ると新たにショートヘアーの女の人が、感じの悪いイケメンに膝蹴りをお見舞いしていた。
「ノリ!!」
 男は後ろに吹っ飛び、女が駆け寄る。その隙に新たに来た女の人は涼と睦美を守るように立つ。
「あなたは、もしかして……」
「……」
 女の人は何もしゃべらず、ただじっと睨みつけてくる女を見ている。そして女は立ち上がった男へ視線を向けた。
「タカ君。撤退するわよ」
「おい待てよノリカ、松月涼と広川睦美はどうする」
「無理よ。戦うだけならまだしも二人を抱えてなんてとてもじゃないけど」
「……チッ」
 女は男に肩を貸して起こす。すぐに男は女から離れ、背中を向けた。
 女も一度背中を向けたがすぐに振り返った。
「今日のところは失礼しますね。松月涼君、広川睦美さん。ですが、必ずお迎えに参ります」
 そういうとお辞儀をして対峙する女の人にも声をかける
「あなたがもしかしてアンノウンかしら?」
「……さあ?でも、それは私のセリフかもしれない」
「ふん。まあ私たちの邪魔はしないでほしいものね。同胞なんだから仲良くしたっていいじゃない」
「……それはお断りするわ」
「まあ、せいぜいあがいてちょうだい」
 間に入れない会話が終わったら女は男と共に川をジャンプで越えていった。人間の身体能力とは思えないものを見た涼は睦美と顔を合わせたあと二人同時に川のそばまで走ってしまった。
「……二人とも怪我はない?」
 振り向くと助けてくれた女の人もこっちまで来ていた。
「あ、はい、大丈夫です。その、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
 涼と睦美はそろってお礼を言って頭を下げた。
「私は陽菜、塩屋陽菜。あなたたちが無事で本当によかった」
 さっきまでとは打って変わって優しい声色に変わった。
「あの、助けてもらっておいて申し訳ないんですけど、私たちそろそろ帰らないといけないので」
「また後日お礼に行きますので、何か……」
「それでなんだけど、学校には私が説明するから今からついてきてくれないかしら」
 涼が言い終わる前に言葉を遮った。そしてそれはさっきの男女と同じようについてきてほしいというもの。その言葉に涼と睦美は距離を取る。この人も勢力が違うだけで誘拐犯ではないのかと涼は疑った。
「あ、ごめんなさい。まだ名前しか名乗ってないのに信用しろという方が無理ね」
 そういいながら名刺を二人に渡した。
「霧島不動産グループ『生田花の丘公園』警備主任。塩屋陽菜」
 と書かれていた。
 霧島不動産グループは関東では有名ないわゆるローカル企業で、神奈川を中心に関東全域で事業を展開している。職種は不動産や工業、それと児童施設である。何よりも超のつくほどのホワイト企業であって、部活の先輩も霧島を第一志望といっていたのを思い出した。
「あと、これ私の免許証」
 住所のところだけ指で隠した状態で免許証を見せてきた。
「あなたがどういう人かはわかりました。けど、さすがにあなたについていくことはできません」
 ここまでして信用してもらおうとしたのはすごいけど、だからと言って会って間もない人にそこまでできなかった。
「当然ね。でもあなたたちは知りたくない。なぜ自分たちが連れていかれそうになったのか」
「それは知りたいです。けど、それは警察に……」
「残念だけど、警察はあてにならない可能性が高い」
「「え?」」
「それに、あなたたちも見たでしょ、あの身体能力。普通の人間が距離およそ50メートル、高低差も7メートルくらいあるところをジャンプで越えられる?そしてそんな相手を警察が捕まえられると思う?」
 一瞬警察とさっきの人たちが戦っているシーンを思い浮かべてみた。
「……それは、無理ですね」
「でも、それはあなたも同じじゃないですか?」
「……それに関しては言い返せないわね。おまけに2対1で追い払ったわけだし」
「だったら……」
「でも、あなたたちもさっきみたいな人たちと同じ状態になっているとしたら?」
「……どういうことですか?」
「……試しに、これを持ち上げてみて」
 陽菜の指さしたのは不法に廃棄されたと思われる車だった。
「……いやいやいや。無理ですって」
「……」
 生気があるのかないのかわからない目でじっと見つめられてしまい、涼は背筋に寒気が走る。
「……私がやります」
「睦美!?」
「大丈夫。あれは多分やるまで逃さないと思う。それに、涼は怪我が治ったばかりなんだから。無理させられない」
「……わかった」
「だけど、隣にいて」
「もちろん」
 一緒に車へ行き睦美が後ろのドアの下に手を入れた。そして力を入れて手を上にあげると……。
 ”ドッシャーン”
「「……え?」」
 車は勢いよく上へおよそ10メートルは上がった。そして三人のいるところから5メートル後ろくらいに落下した。ガソリンとかは全く残っていなかったのか炎上することはなかったけど、落下の衝撃でガラスがすべて割れ、前の部分も凹みが激しかった。
「……え、ナニコレ?」
 あまりのことに睦美は呆然としていた。
「あなたもやってみて」
「ええ!?」
 急に振られたためびっくりして自分を指さした
「そう。早く」
「は、はい」
 強く言われてついOKしてしまった。急いで落ちた車のところに行き浮いていたタイヤの下に手を入れ、ボールが満帆に入った籠をもつイメージで持ち上げた。
”ジャッポーン”
 同じように車は宙に飛んだ。今度は20メートルは上がったと思う。そして睦美の時と同じように後ろの方へ飛び、車は川の中へ落下した。
「ね?」
「あ、あああああの」
「な、ななななななんなんですかこれー!!」
「それを説明させてほしいの。遅くなるけど、いいかな?」
「「もちろんです」」
 あまりのことに頭が回らないなか不用心にもOKを出してしまった。