夕方、涼の容態が安心できるとお医者さんから太鼓判を押されたことで、涼の母以外は東北の家へ帰ることになった。睦美の家族は通り魔を取り押さえ件で警察署に寄るらしい。
玄関まで見送りに行ったらさっき事情聴取した刑事さんの一人の宇野気さんがダッシュで向かってきた。
「突然すみませんね。お伝えしなくちゃいけないことができたので……。今よろしいでしょうか?」
全力ダッシュしてきたのはよほどのことだろうと思い、睦美も文絵も断らなかった。
宇野気は驚かせてしまったとコーヒーとジュースを三人に奢ったあと涼の病室近くにある鍵のかかっていない空き部屋を見つけてそこに入ってしまった。おまけにすぐ入るよう三人を催促する。
「あの、大丈夫なんですか?勝手に病室に入って」
「やばいな。だから早く入ってくれ」
「あの。子供たちの前で、警察が、堂々とルール無視ですか?」
文絵が宇野気に怖いオーラを交えて質問する。涼も睦美も文絵が放つ首根っこを見えない手でつかまれてるような感覚が苦手だった。しかし宇野気は一瞬びくっと反応したけど、すぐに持ち直し、むしろ負けじとオーラを出した。
「わかっています。ですが、今回はちょっと不特定多数の人間がいるところではしゃべりたくないので。もし見つかったら私が責任を取ります」
「……わかりました」
宇野気さんの勢いが、滅多にひかない文絵の足を引かせた。涼も睦美も驚愕の顔をして空き部屋へと入った。
適当にあった椅子に座ると、宇野気が一息ついてから話し始めた。
「今回来た理由は、広川睦美さんの通り魔を取り押さえたときの件です。結論から言うと起訴されるとかそういう心配はしなくても大丈夫になりました」
つまり過剰防衛ではないということか。涼は警察からの正式な回答を聞きホッと力を抜いた。睦美も涼に少し寄りかかった。
「ですが、本題はこれからです。これは私個人の感想ですが、正直この決定にはおかしなところがあり、心の底から喜ぶことができません」
「それ、どういうことですか?」
睦美が食い気味に聞き返した。
「お、落ち着け。それも話す。……正確に言うと、“広川睦美が通り魔を取り押さえた件に関してこれ以降は捜査を行うな”という命令が下ったんです」
「……つまり、”警察が「睦美ちゃんの行動は正当防衛だ」という結論を出した”わけじゃなく、”話が纏まる前に強制的に終わらせられた”……ということですか?警部さん」
「その通りです」
蓋を空けてみれば、睦美の行動が正式に認められたわけではなかった。確かにこれでは心の底から喜べない。
「それだけじゃありません。命令にはおまけがあって“今後広川睦美、松月涼に対する接触を一切禁じる”というものでした」
『え!?』
関係者への接触を禁止するというのは、あまり警察とかに詳しくない涼たちにも異常だとわかる。多分前例がないことに三人は言葉を失う。
「刑事生活十数年とまだ短い方ですが、こんな事例は初めてです。捜査中止命令が出たことは何回かありましたが、ここまで変なのはなかった」
「なんでかはお聞きになりましたか?」
「聞きましたが、何も答えちゃくれませんでした」
理由も答えてくれない警察上層部。不気味さが一層増してきた。
「こういうときは大抵“バック”がいるんです。……捜査中止命令が出るイメージって何かあります?ドラマとかの知識でもいいので」
「…有名人の子供が犯人だったとか、ですか?」
「あとは…その捜査をするととある会社の醜聞がバレそうだから?」
涼と睦美が刑事ドラマでときどきあるシナリオを答えた。宇野気はそれにニヤッと笑った。
「そうだ。権力者やその家族、あるいは会社の幹部とかが犯人でそれを揉み消すとか。そんなところだ。今回の捜査中止自体は圧力の可能性が高いと思っているが、君たちは権力者の家族でもねえし、君たちが捕まることによってどっかの企業様が炎上するわけでもねえ。ただの高校生を庇ったってなんのメリットもねえのに、なんでだ?」
「……わかりません」
「ま、それは俺にもわからねえ。……とにかく、普通じゃないことが起きていますので今後しばらくは注意してください。どんなことが裏で起きているのか全く想像がつきません。一応、私の名刺をお渡ししますので、何かあったらすぐにかけてきてください」
そう言って宇野気は財布から名刺を四枚取り出して涼と睦美に一枚ずつ、文絵に二枚渡した。
「広川さんの親御さんに一枚渡しておいてください」
「わかりました」
「それと、今日ここに私が来たことと話したことは内密にお願いします。私も退勤後に友人と飲みに行くと言ってここにきてますから。あ、もちろん広川さんの親御さんは例外ですよ。ただ、口止めだけはお願いします」
宇野気は頭を下げた。
宇野気の立場こそはわかりづらいが、ただ相当ヤバイのにリスクを承知で涼たちに教えに来てくれたことは感謝した。
人がいないことを確認して空き部屋から出ると病室に戻った。宇野気がいるのを悟られないために見送りはしなかった。
「私、涼が退院するまでいるわ。何かあったら嫌だし」
「ありがとう」
「睦美ちゃんは病院に泊まれない時は私と一緒にホテルに泊まりましょう」
「すみません。お願いします」
すぐに今後のことを睦美の両親と涼の父、それと菊と電話で話し合った。宇野気の話、睦美の家族が神奈川県警で受けた話をまとめ、退院するまでは睦美も学校を休むことに決めた。
玄関まで見送りに行ったらさっき事情聴取した刑事さんの一人の宇野気さんがダッシュで向かってきた。
「突然すみませんね。お伝えしなくちゃいけないことができたので……。今よろしいでしょうか?」
全力ダッシュしてきたのはよほどのことだろうと思い、睦美も文絵も断らなかった。
宇野気は驚かせてしまったとコーヒーとジュースを三人に奢ったあと涼の病室近くにある鍵のかかっていない空き部屋を見つけてそこに入ってしまった。おまけにすぐ入るよう三人を催促する。
「あの、大丈夫なんですか?勝手に病室に入って」
「やばいな。だから早く入ってくれ」
「あの。子供たちの前で、警察が、堂々とルール無視ですか?」
文絵が宇野気に怖いオーラを交えて質問する。涼も睦美も文絵が放つ首根っこを見えない手でつかまれてるような感覚が苦手だった。しかし宇野気は一瞬びくっと反応したけど、すぐに持ち直し、むしろ負けじとオーラを出した。
「わかっています。ですが、今回はちょっと不特定多数の人間がいるところではしゃべりたくないので。もし見つかったら私が責任を取ります」
「……わかりました」
宇野気さんの勢いが、滅多にひかない文絵の足を引かせた。涼も睦美も驚愕の顔をして空き部屋へと入った。
適当にあった椅子に座ると、宇野気が一息ついてから話し始めた。
「今回来た理由は、広川睦美さんの通り魔を取り押さえたときの件です。結論から言うと起訴されるとかそういう心配はしなくても大丈夫になりました」
つまり過剰防衛ではないということか。涼は警察からの正式な回答を聞きホッと力を抜いた。睦美も涼に少し寄りかかった。
「ですが、本題はこれからです。これは私個人の感想ですが、正直この決定にはおかしなところがあり、心の底から喜ぶことができません」
「それ、どういうことですか?」
睦美が食い気味に聞き返した。
「お、落ち着け。それも話す。……正確に言うと、“広川睦美が通り魔を取り押さえた件に関してこれ以降は捜査を行うな”という命令が下ったんです」
「……つまり、”警察が「睦美ちゃんの行動は正当防衛だ」という結論を出した”わけじゃなく、”話が纏まる前に強制的に終わらせられた”……ということですか?警部さん」
「その通りです」
蓋を空けてみれば、睦美の行動が正式に認められたわけではなかった。確かにこれでは心の底から喜べない。
「それだけじゃありません。命令にはおまけがあって“今後広川睦美、松月涼に対する接触を一切禁じる”というものでした」
『え!?』
関係者への接触を禁止するというのは、あまり警察とかに詳しくない涼たちにも異常だとわかる。多分前例がないことに三人は言葉を失う。
「刑事生活十数年とまだ短い方ですが、こんな事例は初めてです。捜査中止命令が出たことは何回かありましたが、ここまで変なのはなかった」
「なんでかはお聞きになりましたか?」
「聞きましたが、何も答えちゃくれませんでした」
理由も答えてくれない警察上層部。不気味さが一層増してきた。
「こういうときは大抵“バック”がいるんです。……捜査中止命令が出るイメージって何かあります?ドラマとかの知識でもいいので」
「…有名人の子供が犯人だったとか、ですか?」
「あとは…その捜査をするととある会社の醜聞がバレそうだから?」
涼と睦美が刑事ドラマでときどきあるシナリオを答えた。宇野気はそれにニヤッと笑った。
「そうだ。権力者やその家族、あるいは会社の幹部とかが犯人でそれを揉み消すとか。そんなところだ。今回の捜査中止自体は圧力の可能性が高いと思っているが、君たちは権力者の家族でもねえし、君たちが捕まることによってどっかの企業様が炎上するわけでもねえ。ただの高校生を庇ったってなんのメリットもねえのに、なんでだ?」
「……わかりません」
「ま、それは俺にもわからねえ。……とにかく、普通じゃないことが起きていますので今後しばらくは注意してください。どんなことが裏で起きているのか全く想像がつきません。一応、私の名刺をお渡ししますので、何かあったらすぐにかけてきてください」
そう言って宇野気は財布から名刺を四枚取り出して涼と睦美に一枚ずつ、文絵に二枚渡した。
「広川さんの親御さんに一枚渡しておいてください」
「わかりました」
「それと、今日ここに私が来たことと話したことは内密にお願いします。私も退勤後に友人と飲みに行くと言ってここにきてますから。あ、もちろん広川さんの親御さんは例外ですよ。ただ、口止めだけはお願いします」
宇野気は頭を下げた。
宇野気の立場こそはわかりづらいが、ただ相当ヤバイのにリスクを承知で涼たちに教えに来てくれたことは感謝した。
人がいないことを確認して空き部屋から出ると病室に戻った。宇野気がいるのを悟られないために見送りはしなかった。
「私、涼が退院するまでいるわ。何かあったら嫌だし」
「ありがとう」
「睦美ちゃんは病院に泊まれない時は私と一緒にホテルに泊まりましょう」
「すみません。お願いします」
すぐに今後のことを睦美の両親と涼の父、それと菊と電話で話し合った。宇野気の話、睦美の家族が神奈川県警で受けた話をまとめ、退院するまでは睦美も学校を休むことに決めた。

