revival june

「でだ。異形は表向きには消えちまったが遺伝子の中ではまだ生きていた」
 次に異形化の説明が始まった。
 何が原因なのか、どういう仕組みなのかははっきりわかっていないけど、薄まっていたはずの異形の遺伝子が復活し、遺伝子構造が変わってしまい、身体が異形に変化してしまうという現象が起きるようになった。
 変化した人は、人の姿をしたまま異形と同じくらいの身体能力を持つようになり、涼達を連れて行こうとした人たちのように長い距離をジャンプできたり、車を空へ投げ飛ばすなんてことも楽にできるようになる。
「異形化した人の力はすごいもんでな。これは死んだ爺さんから聞いた話だ」
 霧島さんのおじいさんは太平洋戦争中、日本陸軍でガダルカナル島という島を巡る戦いに参加していた。ある日、日本軍が作った飛行場をアメリカ軍に奪われてしまい、それを取り戻すために攻撃を仕掛けることになった。しかし兵力差がありすぎてとてもじゃないが勝てる戦いではないのは誰にもわかっていたけど、指揮官は突撃を指示。当然壊滅に陥り、おじいさんも足に銃弾を受けた。だけどその時隣で倒れていたはずのおじいさんの親友が突然立ち上がり米軍に向かって突進した。銃弾の雨を受けているはずなのに親友はなぜか倒れることなくまずは目の前の敵兵を素手で文字通り引き裂いた。そしてそこで固まっていた集団は全員倒したそうだ。次に少し離れた集団には日の玉を繰り出して火だるまにしたそうだ。そういうことを繰り返して、結果親友さんは一人でアメリカ軍の兵団一つを文字通り殲滅したという。
「その話が本当なら、異形は一人で軍隊と戦えるってことですか?」
 睦美が恐る恐る質問した。
 涼もその恐ろしさが分かった。今の話は80年前の話だけど、たった1人で精鋭と言われるアメリカ軍の集団を倒せる力があるということだ。
「ああ。異形の力はそれだけすさまじいものなんだ。だから扱いには十分注意しないといけない。加減を間違えて意図せず人の命を奪ってしまう可能性もあり得る」
 涼は自分の腕をすっと見た。今の話も正直何処か他人事のように聞いてしまっていたが、これば自分のこと、自分の体に起きていることだというのを思い出した。
「だけど、そんなことがないように俺たちは異形と化した人たちに、異形の体の使い方や、異形とバレないように過ごす術を教えている。それを君たちにこれから教えていきたい」
「……教えてくれるんですか?」
「もちろんだ。俺たちの目的は『異形になった人たちが普通に過ごせるように訓練する』こと、『異形になってしまった人たちを保護し、守る』こと、『異形の存在を世に出さない』ことだ。そしてここは表向きは不動産会社や遊園地、児童施設だけど、実際は今言った目的を遂行するために結成されたのが俺たち『stingray』だ」
 霧島さんの後ろにドーンという大きな文字が出そうな感じで宣言するが、涼は違和感を強く感じで質問してみた。
「あれ?さっきは違う名前じゃなかったですか?」
「あれは施設の、表向きの名前だ。で、異形の保護活動としての名前が『owl』だ」
「……アウル、ですか?」
「おう。フクロウを英語にしたものだ」
「フクロウ?フクロウって、鳥のフクロウですよね?」
「フクロウは隠れる達人という一面があるんだ。爺さんがそれを聞いてこれだって思ったらしくて命名された」
 そういえば涼も祖父からそんなことを聞いたことがあったなと思い出した。どうしても夜の鳥というイメージが強いから忘れていた。
「っと、脱線しちまったな。君たちが事故を起こさないためにも、ここに身を置いてしっかり学んでいってほしい」
 自分の置かれた状況を理解すれば、この提案は受けるべきだと涼は思った。今の涼と睦美は自分の体をちゃんと理解できていない。それを受け入れずに逃げ出せばいずれ事故が起きてしまう。それはわかった。
 だけど、一つだけ聞いておきたいことがあった。涼と睦美の今後に一番大事なことだった。
「あの。……僕たちがここで体の使い方を覚えたら、また野球はできますか?」
「……残念だけど、それはできない」
 霧島さんは申し訳なさそうにはしているが、涼と睦美にとって一番辛い回答が返ってきた。
 死刑宣告を受けたような絶望感が涼を襲った。
「異形になったらスピードもパワーも桁違いになる。そんな状態で試合に出たら不自然さが出てしまう。特に広川さんは女子だ。広川さんがストレートを投げてそれが150km/hなんてありえない記録を出してしまう可能性もある。違法ドーピングで済めばいいが変な研究者とかに目を付けられ、最悪このことがバレれば実験動物にされる可能性だってあるからね」
 実験動物の言葉を聞いて血の気がさらに引いた。身体能力が上がって悪目立ちすることは予測できたが、実験動物まで考えが及んでいなかった。
「それに、どうやら異形を集めているのが俺ら以外にもいることがわかった」