君が見た夢の正体について教えよう


◇◇◇


『占いの館』
辿り着いたのは、ゴシック調の内装でいかにもな店内だった。
窓一つない、薄暗い店内を僅かな蝋燭(ろうそく)の火が転々と照らしていて、高級そうな飾り棚には水晶玉や鏡が置かれている。
それらが蝋燭の灯りを反射して耽美な空間を演出していた。

ベルベットのカーテンの先には天井から吊るされたシャンデリア。
黒い円卓とセットのゴシックチェアに腰掛けた女性が俺たちを迎えた。

「佑斗さん、お久しぶり。
 そちらの貴方は初めまして、この館の主人、レイコと申します」

レイコと名乗る館の主人はアーモンド型の少し厚ぼったい二重で、全体的にはっきりした顔立ちの女性だった。
目の周りを黒いアイシャドウで囲ったゴシックメイクがよく似合っている。
年齢は奈津美よりも上に見えるが、実際のところはわからない。

「レイコさん、本題の前に、新作入ってたら購入していい?」
「いつもありがとうございます。ご用意しておりますわ」

レイコはそう言うと、奥の小部屋から黒い布の包みを持ってきた。

黒い布の中からは、数珠、お守り、護符、パワーストーンのブレスレット等が出てきた。

佑斗が「じゃあ、これとこれとこれと、あとこれ」と目についたものを次々と購入していく。
よく見ると彼の腕には似たようなブレスレットが身につけられていた。

正直、胡散臭いことこの上なかった。

霊感商法で高額なアイテムを買わされてるんじゃないのかと、思わず心配になってしまう。

「何?」

俺の視線に気づいた佑斗が訝しげに言う。
レイコが購入品を包みに奥の部屋に消えたタイミングで聞いてみた。

「それ、効くんですか」

つい敬語になってしまった。
佑斗は俺の視線の意味に勘づいたみたいだ。

「わかんないけど、信じないで後悔するより、信じて後悔する方がいいでしょ」

戻ってきたレイコが席に着く。

「お待たせいたしました。
では、あまり時間もありませんので、早速要件をお聞きしてもよろしいかしら」
佑斗に商品を渡すと、本題に入った。

「この写真を見て、何か感じる?」
佑斗がバーベキューの時に撮った写真をレイコの前に出す。
戸塚一家と遠藤一家が写っている。
誰でもない、この俺がスマホで撮った写真だった。

後列の左側に隆之さんと遠藤父、右側に奈津美と遠藤母が並んでいて、遥と遠藤勉は前列でピースサインをしている。

「そうね、あまり良くない状態の方もいるけれど、悪霊が取り憑いている人はいないわ。
特に呪いの気配もしない」

「この子は?」佑斗は遠藤努を指差す。
「健康体だと思うわ」

胡散臭いと身構えていた分、何も問題がないと言われると肩透かしな気分だった。
遠藤努はもう夢は見ていないと言っていたし、うるさいくらいに元気な子供だったので、レイコの言うことは当たっているのだが。

思わず佑斗と目を合わせる。一安心、と同時に早くも行き詰まってしまった。
共通夢についての手掛かりがなさそうなので、質問を不倫調査の方向へ転換する。

「この男性が不倫しているかわかりますか」
俺は隆之さんを指差す。

「私は千里眼の使い手ではありませんので、そこまではわかりませんわ」
呆れ顔をされた。
そうなのか、占い師に相談したことがないから何を聞けばいいかわからない。

俺は一つ、いたずら心でレイコを試すことにした。

「じゃあ、この女性のオーラはどんな感じですか。
この男性の奥さんなんですけど」

と言い、遠藤努の母親を指差す。
佑斗が俺に視線を向けている気がするが、あえて無視する。
するとレイコは、

「あら、この人なの?てっきりこちらの奥方様かと思ったわ」と奈津美の顔を指した。

俺は驚いて
「え、なんでわかったんですか」と思ったまま口に出してしまった。
「あらあら、試されていたのかしら」と変に演技がかった口調で返される。
「レイコさん、ごめん」佑斗が代わりに謝ってきた。

俺は謝罪よりも先に「なんで、わかるんですか」と疑問を投げる。
「不倫調査なのでしょう?夫を疑いつつも、決定的な証拠がない状況ならば妻は大変なストレス状態のはずよ。
最初の女性はオーラに揺らぎもなく、正常なメンタル状態と言えるわね」

続けて奈津美を指差し、
「一方、彼女は明らかにメンタルに支障をきたしているわ。
オーラがとても不安定な状態よ。
だから、不倫を疑っているのは彼女の方だと思ったの」と言った。

写真の解像度では奈津美の表情はそんなに細かくは見られない。
少なくとも俺は遠藤母とのメンタルの違いはわからない。
単に確立が2分の1とはいえ、本当にオーラとやらが見えているのか。

「オーラってどんな感じで見えるんですか」

まだ半信半疑ではあるが、純粋に気になったことを聞いた。

「そうね、視るのが得意な霊媒師は個々でオーラの形が違って見えたりするらしいわね。
私の力はそこまでじゃないから、オーラの状態が正常か、異常かぐらいしかわからないけれど。
人間の周りを淡い光が覆っているイメージね」

写真越しに視えるだけで凄い気がするがそういうものらしい。

「他にオーラの状態が良くない人はいますか」
「ご主人の方も大分メンタルが悪化しているわね。
もし不倫をしているのであれば、奥方様に対して罪悪感があるのかも」

俺は先週の夫婦喧嘩を思い出した。
喧嘩というには少々異論がある、傍目には隆之さんが一方的に責められている光景だった。

「それよりも、」おもむろに遥を指差す。
「えっ」
遥にも異常が出ているのか。

俺は視線でその先を促したが、レイコは何かを言いあぐねている。
「どうしたの」佑斗が珍しいものでも見るようにレイコに聞く。
「これは、なぜなのかしら」と独り言のように呟くと、心底得体のしれないモノを見るように「オーラが綺麗すぎる」と言った。

レイコが言うには、人は生きている限り、その身に穢れを溜めていくのだという。
それは心理的なストレス以外にも、例えば車の排気ガスなどの有害物質も含まれ、溜まった穢れはオーラとして可視化される。

「隣の男の子と比べても明らかに穢れの程度が少ないわ」
「それは普通に考えて、良いことではないんですか」
「多少の違いならば、それは個人差と言えるけれど、この子の穢れの少なさは、まるで幼い赤ん坊レベルよ」

9歳の子供では考えられない状態らしい。

「ごめんなさい、いつもは除霊やお祓いが専門で、むしろ最初のご夫婦のような状態のお客様が多いの。
だから、この女の子のようなオーラは珍しくて、少しびっくりしてしまったわ」

結局それ以上の答えは出ないまま、次のお客が来る時間がきてしまい、俺たちは占いの館を後にした。
事務所に戻る車の中で、

「オーラが見えるって、かなり怪しくないか」とつい本音を漏らす。

正直、素人目線ではスピリチュアルやオーラという目に見えないものに言及されると、どうして疑いの目を向けてしまう。
オーラで奈津美を見分けたのも結局は確率の問題だ。
確率を外した場合も「千里眼ではない」とか、どうにでも言い訳ができる。

「映二郎ってオカルト系チャンネル持ってるのに、オカルト否定派?」
佑斗にはチャンネルの話はしていない。
何故知っているのだろう。

「旭から聞いてたし、普通に前から知ってた。競合相手の調査はしてて当たり前だろ」
大手チャンネルが、自分のような弱小を競合相手として見てくれていたのが嬉しかった。

「俺はオカルトやホラーは娯楽として好きなんだ。
現実世界では否定まではいかないけど、懐疑的ではある。
佑斗には悪いけど、占い師にオーラがどうだとか言われたら、怪しいって思うかな」

現実にあるかもしれない、本当か嘘かわからないギリギリのライン。
そこが面白いと思っている。
反面、オカルトは霊感商法の詐欺犯罪が多いカテゴリーなので疑いの目から入ってしまうのはしょうがない。

佑斗はそんな俺に対して「ふーん」と興味なさそうに呟いた後で、

「例えばさ、毎週読んでる漫画雑誌で、この回は作者の魂がこもってるなあって、思うことない?筆が乗ってる、とは違うんだけど。
漫画でも小説でも、読んでると作者の熱さを感じる作品ってあるだろ?

人と話すときも想いを込めて話したら言霊が宿るって言うし、俺は生きてる人間には魂ってあると思うんだよ。
だからオーラもあると思ってる」
と自論を展開してきた。

俺が呆気に取られていると
「そりゃ、全部、脳の思い込みかもしれないけど……」

最後の方は尻すぼみになる。
バツが悪くなったのか、あとは事務所に到着するまで無関心モードに戻っていた。

不思議と、少しだけ無言の間が苦痛に感じなくなっている。
俺は今日だけでも佑斗の印象が大分変わっていた。

頭の中で佑斗のことを分析する。
基本は冷めているが、好きなことには熱くなる。
特にオカルトに対しては意外にも純粋に信じるタイプらしい。

でも、こういうタイプは一般企業ではやっていけない。
結婚して、普通の家庭を築くのも難しいかもしれない。
一人で、好きなことに熱中するのが向いているタイプに見える。

戸塚家や遠藤家みたいな、いわゆる普通の家族とは幸せの基準が異なる。
それ自体はいい、どう生きるかは人それぞれだ。
でも、周りからどう思われるかは気にした方が自分の為になる。

世間知らずは馬鹿を見るから。

魂とか、オーラとか、そんなの鼻で笑う人たちが世の中は圧倒的に多数派なんだと。
俺は心の中で、佑斗に羨望と憐れみが入り混じった目を向けた。

駐車場を出ると、ナビのアナウンスが開始された。
目の前には、行きと違って滞りない車の往来が絶えず、大きな流れをつくっている。
俺は車のハンドルを切り、その流れの中に車体を滑り込ませていった。