君が見た夢の正体について教えよう


◇◇◇

土曜日の昼過ぎ。
都内新宿3丁目通りにて、俺は車のハンドルを握りながら信号が青になるのを待っていた。
助手席にはスマホを覗き込んで、こちらには目もくれない宮下佑斗が鎮座している。

渋滞に巻き込まれ、気まずい時間が無限に感じてくる。
仕事とはいえ、旭さんを恨みたくなった。
俺は少し前の事務所でのやり取りを思い出す。



「そういえば、自分ら同い年って知ってる?」

探偵事務所の自席から、旭さんが聞いてくる。
高橋くんは大学の講義の為不在だ。

「自分らって、俺と亘理さんのこと?」

同じように感じた宮下が旭さんに疑問を投げ返す。

「そう!あとそれ、苗字呼びやめて、今からお互い名前呼びにしてな」
「何それ、急すぎない?」

俺もそう思うので小さくうなづいておく。

「佑斗が宮下って呼ばれたり、映二郎が亘理って呼ばれたり、なんか混乱すんねん。
自分ら同い年なんやから下の名前呼び捨てでかまへんやろ」

「俺、一応雇われの身ですし、上司を呼び捨てはちょっと」
「かまへん、かまへん!はいっ、お互いの目を見て、名前呼んでみて!せ〜の」
「ゆう、と?」
「……えいじろう。って、何これ」

俺もそう思う、何だこれ。

佑斗と一緒に苦虫を噛み潰したような顔をするが、旭さんは満足したようで、

「じゃあ、無事に距離が近づいたところで、二人で今日のお仕事、行ってらっしゃい!」

全く手応えを感じないが、旭さんの中では距離が近づいた判定らしい。
そして上機嫌にパチンと指を鳴らし、俺たちを送り出した。


◇◇◇

「信号、青だよ」

佑斗の声に意識が引き戻され、俺は慌ててアクセルを踏んだ。

「あっ、すみません」
「映二郎、今日の行き先について、旭から説明受けてる?」
「い、いや何も」

言われるがままに車に乗り込んだら、佑斗がナビに行き先を入力したからその通りに運転しているだけだ。
佑斗は俺の反応にわかりやすい溜息をつく。

「やっぱりね。今日行くのはお世話になってる霊媒師さんの所」
「霊媒師」
「表向きには占い師だけど、裏ではそういう依頼を専門で受けてる人」
「はあ、占い師ですか」

「共有夢について情報がまだ少ないから、ちょっとでも手がかりが欲しい」

それにしたって占い師に何がわかるというのだろう。
俺は先行きが不安になった。

「遠藤努はほんと短期間しか例の夢を見てないですよね。
他のDM依頼主に話は聞けたんですか」

偶然にも遠藤努は戸塚家のご近所家族だった。
ただ、夢を見たのは半年以上前のことで、現在は夢を見たことすら忘れかけていた。

「あのさあ、俺は敬語とか苦手だから、できれば映二郎も敬語やめて欲しいんだけど……」

佑斗が少しイライラした様子で言ってくる。

「はい、気をつけます」
「別に謝る必要ないけど……」

俺が考えすぎなのかもしれないけど、言い方がぶっきらぼうで責められてるように感じるんだよな。
話している内容は大したことないのに、どうにも会話が弾まない。

必死に会話をつなげるが気づくと変な間が生まれるのが気持ち悪かった。
多分、お互いに内向的でコミュニケーションが受け身なタイプなのだと思う。
こういうときに、旭さんがいてくれればと切実に願った。

「一人目のDM依頼主は何回かDMのやりとりしてる。
⚪︎⚪︎小学校4年生の椎名心音(しいなここね)って名前の女の子。

今年の4月頃からほぼ毎日、白い女の夢を見たらしい。
大体、一ヶ月くらい」

「えっと、過去形なのは何でだ?」

俺はできるだけ敬語にならないように気をつけながら会話を続けた。

「精神的に参って夜眠れなくなった。そのせいで学校にも行けなくなったけど、そうしたら夢は見なくなったって」
「学校に関係があるとか?」
「まだわかんない」

目の前には車の渋滞が続いている。
何かイベントでもあるのだろうか。
大して進まない内に、また信号が赤になった。

「共有夢といえば、都市伝説の『This Man』が有名だよな」
俺は沈黙になるのが嫌で、一時期話題になった都市伝説の名前を口にした。

『This Man』は2008年に『Ever Dreamed This Man?』というサイトが開設されたことで拡散された噂。
今でもネットで検索すれば、確認できる有名な都市伝説だ。

発端は2006年頃にニューヨークの精神科医が女性患者の夢に繰り返し現れる男の似顔絵を描いた所、それを見た複数の患者が「自分も同じ男を夢で見た」と言い始めたことだ。

精神科医はサイトに男の似顔絵を載せて他に「夢で同じ男を見た」人がいないか募った所、世界中で「自分も夢で見た」という証言が相次ぎ、ネット上を中心に噂が広まった。

後に、イタリアの社会学者でマーケティング専門家の男性が『Ever Dreamed This Man?』は自身が作った偽のサイトで、精神科医は実在せず、『This Man』がつくり話であるとネタばらしをした。

つまり、偽サイトと嘘の噂話を聞いた人々は実際には存在しない男の夢を見たということになる。


「この都市伝説では夢に出現する男という、ある種の集合的無意識みたいなものが、世界中の人々に同じ夢を見せた結果になったわけだ。
規模は違えど似たような事象は日本のホラー界でも起きているだろ?」

「髪の長い女、顔が隠れてる女、赤い服の女、あとは、井戸の女とか?」

佑斗が“怖い女”のイメージ例を挙げてくる。

「そうそう。女の幽霊と聞いたら、詳しい説明がなくても皆ぼんやりとしたイメージを持つ。
一つのホラー映画が話題になれば、皆のイメージがさらに統一される」

「確かに、井戸の女とか一時期はブームになったよな。
夢に出てきたって言う人が続出したとか……」

「あれは普段ホラーや怪談に興味がない層にも怖い女の幽霊イメージを根付かせた。
もちろん昔からの、幽霊は白い着物を着ているとか、痩せた体型をしているとかお決まりの物も含めて、そういった俺たちの無意識下に根付いたイメージが似たような怖い夢を見る仕組みなんだと思う」

白い服の女といったキーワードも恐怖を連想させるには十分だ。

佑斗が、手を顎に添えて言う。
「じゃあ、学校の授業か何かで“白い服の女”が出てくるホラー映画を鑑賞したと仮定して、それがめちゃくちゃ怖いと思った子だけが共有夢を見たとか?」

「実際はそんなところじゃないかと思う」
「うーん」
「納得いかないか」

結構、思いつきにしては筋が通ってると思うが、佑斗は首をひねっている。

「ホラー映画=集合的無意識=共通の怖い夢って方程式は悪くないと思うけど、それにしては遠藤努と椎名心音の夢を見た時期にズレがあるんだよな」

「確かに届いたDM3つとも時期がバラバラだな」
「さっきの仮定の話だったら、もっと同時多発的に声を上げる人がいてもいいと思う」

「つまり、学校内で全員が共有するイメージではないってことか」
「そう、もっと個人的な、特定の誰かに照準を定めているみたいな」
「わかりづらいな」

「もっと単純なんじゃないの?
例えば、俺が映二郎に“白い女”の怖い話を聞かせる。
映二郎はその夢を見るようになった。

俺は次に旭に同じ話をする。
すると、次第に旭も同じような夢を見る。

次は高橋……って話す相手を変えていっただけとか」

「……つまり?」
「呪いだよ」



ナビのアナウンスが車内に響く。

『目的地に到着しました。
 案内を終了します。
  おつかれ様でした』